第四十八話「猫耳のサヨ」の巻
公園のベンチに座っていた魔人ビキラは、突如として立ち上がり、笑った。
「わーーははははは!」
「一旦落ち着くのじゃ、ビキラよ」
ビキラの隣で寝そべっていた古書ピミウォが、人目を気にして言った。
「高額賞金首発見!」
と叫んで、ふたつ隣のベンチを指す魔人ビキラ。
「な、なんじゃと?!」
ピミウォはだらしなく開いていた体を閉じ、ビキラの肩に飛び乗った。
「あーー、あのトロピカルスカーレットのアロハシャツを着た人物かの?」
「モヒカン頭とサングラスとフラミンゴ模様のアロハシャツは変装!」
まる聞こえのビキラたちの会話を耳にして、
「ぎくっ!」
と言い立ち去ろうとする軍事政権復活団大幹部のひとりであるウムアム。
「ほら、あたしたちの会話を聞いて、怒るんじゃなくて逃げ出そうとしてる。絶対に怪しいから」
ビキラはピミウォよりも早くおたずね者を見つけて、浮かれていた。
バイオリズムは最高潮。
今朝の街角テレビで見た占いは、大大吉。
ビキラの守護星たる赤色巨星ピビッカは天に高くあり、消滅までまだ十万年を要する。
凶星たる第十惑星モンテは地平に沈んで姿がない。
(今日は何をやっても上手くいくんじゃないかしら) と思うビキラだった。
(し、しまった。怒るべきであったか)
逃げる足を止めて悔やむ二本ヅノのウムアム。
(ええい、こうなれば)
ウムアムは覚悟を決め、振り返って駄洒落を詠唱した。
「褌が憤怒した!」
妖力が結集し、たちまち具現化する真っ赤に怒り狂ったフンドシ。
「何よそんなの、『布団が吹っ飛んだ』のパクリじゃないの」
痛いところを突かれて蹌踉く赤いフンドシ。
「隙ありっ!」
すかさず回文を詠唱する魔人ビキラ。
「猫耳巫女ね(ねこみみ、みこね!)」
小袖の白衣に緋袴。
手には紙垂の房が付いた六角の祓串。
髪は真紅、瞳は虹色という小柄な巫女が具現化した。
「お祓いハリケーン!」巫女は祓串を振って叫んだ。
豪!
という空気の唸りと共に、色の付いた紙片がビキラとウムアムと巫女の周囲に渦巻いた。
やがて地面に舞い落ちる大量の色札。
「これは動けまい。敬う心があればな」
と、色の付いた札を見て言う古書ピミウォ。
「ああっ。こ、ここここれはガンポック元帥の肖像写真?!」
立ちすくみ叫ぶウムアム。
「動くな踏むな、赤フン、不敬なるぞ!」
赤いフンドシは妖術師のその声で硬直した。
地面に散乱したのは、軍事政権華やかなりし頃の伝説的元帥、ガンポックのブロマイドだったのだ。
「これは恐れ多くて踏めまい。魔除けとして指人形にもなり売られた軍事政権の象徴じゃからのう!」
と、言葉で縛りに掛かるピミウォ。
「ひ、卑怯なり小娘っ」
脂汗を流して声を裏返すウムアム。
「お祓い唐竹割り!」
紅の瞳をへの字に曲げ、猫耳の巫女がブロマイドを蹴散らしてウムアムに迫る。
「ああっ、やめんか罰当たりめがっ!」
その叫びも虚しく、脳天に祓串の一撃を受けて、ウムアムは意識を失った。
妖術師の意識の喪失と共に、赤いフンドシも消滅する。
「ウンコもスンとも言わなくなったわね」
ビキラは地に伏すウムアムに近寄ってつぶやいた。
「気を失ったんでしょう」
と猫耳の巫女。
「それを言うなら、『ウンともスンとも』じゃ。ビキラよ」
肩に立つ古書、ピミウォが静かに訂正する。
「またまた。そうやってあたしを揶揄う」
「まあまあ。ここは痛み分けということで」
ウンコ派の猫耳巫女が百歩ゆずって言った。
「ワシは間違っておらんぞ!」
ムキになって叫ぶピミウォ。
「それにしても、復活団のヤカラに先人を敬う心があったなんてね」
「一が八か、やってみて良かったわ」
と猫耳の巫女。
「それじゃ、あなた」
と巫女に向き直るビキラ。
「お疲れ様でした」
指をパチンと鳴らして妖術を解いた。
はずなのに、猫耳の巫女は消えなかった。
「えっ?! な、なんで消えないのあなた?!」
と驚くビキラ。
「おう。これが噂の妖術反転バグかっ?!」
ピミウォも思わずビキラの肩の上で跳び上がる。
仮初めの物体であるはずの妖力体が、極めて稀に、本物の自我と実体を持つことがある。
本日絶好調のビキラの身の上に、それが起こったのだった。
「うひゃあ。おめでとう、あたしの分身」
「えっ? あたしって、本当に生きてる?!」
自分の体を巫女服の上から叩く猫耳娘。
「さ、さあ、あなたはもう自由よ」
自分がふたりも一緒にいると、面倒が目に見えているので、ビキラは別れを切りだした。
「このおたずね者に掛かっている賞金は、餞別代わりにあげるわ。高額だから、公番じゃもらえないからね。公安署の賞金課で受け取ってね」
「うん、大丈夫。その知識は、ちゃんと記憶にあるわ」
猫耳の巫女はそう言うと、意識のないウムアムを軽々と肩に担いだ。
猫耳の巫女は、ビキラから
「小夜」
という名をもらった。
ビキラが過去に使っていた通り名だ。
それから猫耳のサヨは、歴史だけはある神社に就職することが出来た。
その神社は、巫女がひとり、急に故郷の秩父に帰ってしまい、困っていたのだ。
宮司の耳たぶが妙な形をしていたが、自分の耳も猫耳なので、サヨは特段、気にならなかった。
(耳たぶが豚耳)
みみたぶが、ぶたみみ!
今年最後の「魔人ビキラ」本編でした。
次回は、また来年です。
はたして、猫耳のサヨの再登場はあるのか?
あり過ぎて、たぶんうるさく思われるかも知れない。
ようやくLINE連載に追いついた。(LINEの連載はもう止めたけど)
同サイトにて、「のほほん」全111話、完結しています。
「異物狩り」全四話、完結済み。
よかったら、読んでみて下さい。
ビキラ・ショートショートショート版、「ビキラ外伝」は、年内にテキトーに投稿するかも知れません。
というか、投稿したい……。投稿依存症か?!




