第四十五話「綿アメの縁」の巻
「あら、あんな所で仙人アメを売ってるわ。冷やかしに行きましょうよ」
魔人ビキラはそう言うと、足を早めた。
そこは人通りの少ない商店街だった。
シャッターの降りた店の前に、ワタアメの屋台が出ていたのだ。
「おう、何かと思うたら、カスミアメではないか。なつかしいのう」
ビキラの肩の上で、古書ピミウォが喜んでいる。
「雲雲アメとは、昨今珍しい」
後ろから追いついて来る人物が言った。
「地方によって色んな呼び名があるのね」
ビキラは振り返り、メロンパンオレンジのコートを着た二本ヅノの男性に語りかけた。
「口に入れたら、カスミのように消えてしまう。まさに雲のような仙人が食べていそうな」
と、ビキラの笑顔を見て二本ヅノの男も笑った。
「ややっ。お主っ、押し込み強盗のおたずね者、パルザットではないか!」
ピミウォが大きな声を出して、ビキラと二本ヅノ男とのなごやかな会話を壊した。
「髭をたくわえて変装しても無駄じゃ」
体を開いてパルザットの手配書を見せる古書ピミウォ。
「これはお前さんじゃ」
「うぬ。小娘、賞金稼ぎであったか?!」
パルザットは、歩道を一気に後方に跳んで距離を取った。
雲雲アメが早く食べたいパルザットは、詠唱した。
「母なる大地よ、我が呼びかけに堪えたまえ。出でよ大地の使者、ゴーレム!」
商店街の歩道が震え、もこもこと盛り上がると、三メートルばかりの、土砂と歩道タイルで出来た怪巨人になった。
「ゴーレム!」
巨人が分かりやすく叫んでいる。
通行人たちが悲鳴を上げて散ってゆく。
歩道にはクレーター状の大穴が、ぽっかりと空いていた。
「あっ。あなたが穴を空けるから、ガスだか水道だかの管が剥き出しになっちゃったじゃないの」
クレーターの縁に走り寄って怒るビキラ。
「どうしてくれんのよ、これ!」
「あ、いや、それはあの、後でゴーレムを大地に還せば元通りに」
賞金稼ぎに見つかったとは言え、街の真ん中でゴーレムを出現させたのは初めてであったパルザット。
ゆえに、そのような苦情も初めて。
初めてづくしで対応に戸惑うパルザット。
「今すぐ塞ぐのじゃ。ガス管が折れたらどうするのじゃ。まずガス爆発魔人と呼ばれたいのか、お主は」
「ほら、土がなくなってパイプがぷるぷる震えてるじゃん、まずガス爆罰したらどうすんのよ、あなた!」
ビキラとピミウォに言い立てられ、
(ゴーレムを戻した方が良いのか? いやしかし、その隙に攻撃されたらなんとする?!)
と思いつつ、道徳心に負けてゴーレムを通路の大穴に戻すおたずね者パルザット。
それを見て、してやったりの笑みを浮かべて回文を詠唱する魔人ビキラ。
「仕込み桶御神輿 (しこみおけ、おみこし!)」
何か仕掛けがあるのを丸出しにした詠唱で具現化した巨大な桶は、宙を飛んでパルザットを襲う。
「ええいくそ、母なる大地よ、今一度我れにチカラを。ゴーレムパンチ!」
パルザットの詠唱で、その右腕にのみ土砂とタイルがまとわり付き、巨大な拳骨を形作った。
妖術で抉られた歩道の穴は小さく浅い。
それをチラ見して、ホッと胸を撫でおろすパルザット。
「喰らえ、大地のチカラ!」
パルザットは迫る巨大桶をゴーレムパンチで殴った。
火花と黒煙を噴き上げて四散する仕込み御神輿とゲンコツ。
衝撃をモロに喰らって蹌踉めくおたずね者、パルザット。
そして中に仕込まれていた神輿が、桶の消滅によって姿を現わし、パルザットに激突した。
「がっ!」
真正面から御神輿の頭突きを喰らい、歩道の上を吹っ飛んでゆくおたずね者。
歩道に落ちてなお、二度と言わず三度と言わず転がり、小さな書店の前でようやく止まった。
「桶の仕掛けは分かっていたのに、オレ様の馬鹿……」
と呻いてパルザットは意識をうしなった。
「勝負には負けたが、道徳心では勝ったのう」
歩道に倒れているおたずね者を讃える古書ピミウォ。
「此奴の分まで、カスミアメを喰らおうぞ」
「仙人アメの後は、何を食べようかしら。こいつの賞金で、食費は奮発できるし……」
ビキラはパルザットに手を合わせ、拝むような仕草をした。
何を食べたいかは、顔を見れば一目瞭然であった。
(拝んでおるオデン顔)
おがんでおるおでんがお!
次回、魔人ビキラ本編「ロミ太とジュリ江」の巻は、
水曜日(12月20日)、イオン5%引きの日に投稿予定。
たぶん、お昼の12時台あたりになると思います。
タイトル通り、某シェークスピアの「ロミオとジュリエット」をリスペクトした作品になっております。
ほんの気持ちですので、メクジラ立てないように。
と言うか、メクジラ立てても仕方のない作品に仕上がっております!
乞うご期待。
ほなまた水曜日に。




