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第四十四話「ププンハンの未来」の巻

その、捕り物屋を名乗る少女はタフだった。


今も

魔人ハイドマの、昔話・童話妖術な具現化である「小太りじいさん」のストレートパンチに合わせてカウンターパンチを繰り出し、大ダメージを与えて小太りな爺さんを消滅させた。


(わざと攻撃を受けているようにも見える。思えば、この戦いの最初からそうだった)

  ハイドマは恐怖し始めていた。

(オレ様の妖術が(まさ)って、攻撃が当たっていた訳ではなさそうだ)

  と。

(小太りじいさんのパンチも、モロに顔面にヒットしたのに、あの涼しい顔はなんなんだ?)

(痛みを感じないのか?)

(ラリってんのか? ヤク中なのか?!)

おたずね者魔人ハイドマのその想像は、ほぼ的中していた。


捕り物屋を名乗る少女、魔人ビキラは、さるポンコツ屋で手に入れた、

「頭痛・胃痛・歯痛に キニナラーン!」

  というサプリメントの効用を確かめていたのだ。


(ヤッバい、このサプリ。痛いの気にならない)

  ビキラはキニナラーンの抜群な効用に恐怖していた。

(血が右目に流れ込んで視界を(さまた)げているのに、全然気にならない!)


そこは市民会館前の、狭い広場だった。


ビキラはハイドマと距離を取り、円を描くように移動している。


キリン柄の服を着たおたずね者と、ヒョウ柄の服を着た賞金稼ぎの戦いを、野外演劇か本物の捕り物か区別がつかないままに十数人の人々が見物していた。


時々爆発が起こるので、建物の壁に隠れたり樹木の陰に(ひそ)んだりして、遠巻きに見ている。

  その中には古書ピミウォも居た。

戦闘中のビキラの肩に立つのは、危険すぎるからだ。


見物人たちは、ノンキに談笑していた。


「あの娘さん、不利じゃないかね? 一本ヅノのおっさんの妖術を、ずっと喰らってるぜ」

「いやいや、喰らってはいるが、ケロケロっとしとるじゃないか」

「そうとも。おっさんの妖術、『寝たきりスズメ』も『鶴の意趣(いしゅ)返し』も『くんくん()ぐや姫』も、みんな倒してきたぜ」

「今に小娘の逆転劇が起こるであろうよ」

  見知らぬ男の肩に立つ古書ピミウォが、そう宣言した。


キニナラーンの効用は充分に分かったので、ハイドマが新たに具現化させた「王様の耳はパンの耳」を一方的に倒し、ビキラが、いざ反撃の回文を詠唱しようとしたその時、


「わはははははは!」

という照れの入った中途半端な笑い声が、市民会館広場に響いた。


「あっ、市民会館の屋根の上に(すさ)んだ素浪人?!」

「趣味の悪いロングコートを着ているぞ」

「するとやはりこれは野外演劇なのか?!」

「良かった良かった。娘さんの流している血は作り物なんだ」


などと、見物人は活気づいた。


「とう!」

  と、ひと声。

市民会館の屋上に突如として現われた素浪人は、バッドブラックのロングコートをひるがえして飛び降りた。


結構な高さがあったが、素浪人ププンハンは優雅に着地してみせた。

そして、飛び降りた拍子にコートから抜けたフサフサ尻尾(シッポ)を、大急ぎで入れ直す。


「ハイドマ、久しぶりだな」

  ププンハンが言った。

「ププンハン?! (ひげ)()ったのか? おれの入団の誘いを断ったばかりか、今度は軍事政権復活団の邪魔をしようと言うのか?!」

「その通り。今は悪党狩りを気取っているよ」


「ププンハン、このおたずね者と知り合いなの?」

  ビキラは、背後に降り立った素浪人にたずねた。


「なに、同郷と言う(くさ)(えん)です。一度だけ、例のイカれた復活団に、誘われたことがあるんですよ」

「ふうん。それだけならいいんだけど」

「いつかの恩返しをしますよ、ビキラさん。随分と怪我(けが)をされてるじゃないですか」


「ああ、これはね、ちょっと訳あり……」

恥ずかしいので、サプリメント『キニナラーン』のことは言わないビキラ。

「ともかく、助太刀は助かるわ」

(いたず)らにダメージを重ねたので、気にならない痛みと傷が、心配になり始めた魔人少女だった。


「承知!」

  ププンハンは、昔話・童話妖術を発動させるべく詠唱した。


「長靴を吐いた猫!」


詠唱に応じて黒猫が具現化し、身を震わせてえずいた。

  すると、長靴が片方、吐き出された。

右足用だった。


黒猫に吐き出された右足用長靴は、謎の液体にまみれたまま、キリン柄のおたずね者めざしてケンケン跳びの要領で走り出す。


ビキラは液体が掛からぬよう、大急ぎで道を譲った。


「復活団に(たて)突くつもりか、ププンハン!」

  二対一になり、ハイドマは(あせ)った。

「最初っから、断っただろうが、ハイドマ」

「くっ、後悔するぞ」

ハイドマは意地を張って、ストックにある似たような童話を詠唱した。


「長靴が吐いた猫!」


  長靴が具現化し、白猫を吐いた。

吐き出された白猫は、謎の液体を撒き散らしながら、向かって来る長靴(右足用)に突進した。


(ほど)もなく長靴と白猫は激突し、火花と爆煙を上げて双方が消滅する。


「なにっ、オレ様と互角だと!? ププンハン、いつの間に腕を上げたっ」

「田舎で妖術の練習をしていた頃と一緒にされては困る。故郷を出てから私は、ずっと武者修行をしてきたんだ」


「ならば、これはどうだっ」

  とハイドマが詠唱したのは、

「長靴と吐いた猫!」


ププンハンも負けじと、

「長靴で吐いた猫!」


ハイドマの、

「長靴も吐いた猫!」


ププンハンの、

「長靴の吐いた猫!」


不毛の童話妖術合戦を終わらせるべく、ビキラは回文を詠唱した。


「にわか雨赤鰐 (にわかあめ、あかわに!)!」


  一天にわかにかき曇り、赤いワニたちが降ってきた。

降ってきたワニの大群を見て、蜘蛛(くも)の子を散らし百足(むかで)の親を追うように逃げ去る見物人たち。


「ビキラさん、私は味方なんだけど」

体のあちこちを赤ワニに噛まれながらも。真摯(しんし)に訴えるププンハン。


「もっと強力な『庭が鰐 (にわがわに)』もあるけど、どうする?」

  ビキラは気にならない頭痛に耐えながら言った。


「参りました!」

ハイドマは、赤ワニに封じられた手足を振って、負けを宣言した。



ハイドマを連れて、ビキラたちとププンハンは、公安署に歩いている。


「一歩間違えば、わたしもこうなって」

  と、ププンハンは連行するハイドマを指した。

「いたのかなあ」


「あなたには無理ね」

  ビキラは笑って即答した。

素浪人(ププンハン)は、根が正直すぎるから、と思っているのだ。


「ところでハイドマ、大幹部にはなれたのかい?」

「いや。貧乏人は大幹部になれないシステムだ」

「なんだそりゃ?!」

「ププンハン、お前こそ、士官は出来たのか?」

「いや、故郷を出てから、ずっと素浪人のままだよ」

  ププンハンは苦い笑みを見せて答えた。


「じゃあ、演歌師は?」

「とっくに(あきら)めたさ」


そう言ったあとのププンハンの笑いは、少し(さわ)やかだった。



(士官演歌師)

しかん? えんかし!


次回、「魔人ビキラ」本編第四十五話「綿アメの縁」の巻は、日曜日(12月17日)のお昼ほぼ12時台に投稿予定です。


綿アメにも色々な呼び方があることを知るビキラ。

綿アメをめぐる魔人ビキラとおたずね者の攻防やいかに。

双子座流星群を思い出しながら待て!


ビキラ外伝は、金曜日(12月15日)双子座流星群極大の日の、お昼ほぼ12時台に投稿予定だす。

はたして、流星群を見られるまで起きていられるのかっ?!

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