ビキラ外伝「マダランダ島展」その他
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ビキラ外伝「マダランダ島展」の巻
「マダランダ島展」なるものが、某千貸店で開催されていた。
いずれはマダランダ島へ行きたい素浪人ププンハンに誘われ、見物に行くことにした元・マダランダ島流刑人の魔人ビキラと古書ピミウォ。
「レプリカ展」だと言うので、高を括っていたのだ。
「見事なレプリカじゃな」
マダランダ島へ島流しとなった時、暇にあかせ、岩を彫って造った自分の彫刻を見つけて、唸るピミウォ。
「でしょう? でしょう? やっぱり本物を見たいですねえ」
ピミウォの自作のレプリカとは知らぬププンハンが言う。
「蛙が歌っておる彫刻じゃな」
「あっ、そうなんですか。蛙ですか。へえ。裂けたお団子じゃないんだ」
「たぶん、本物より出来が良いんじゃないかしら」
と言うビキラは、実物を知る者の偽らざる感想であった。
ビキラが洞窟に描いた絵は、二分の一スケールでの、写真展示だった。
「独裁政権に抗い、マダランダ島に幽閉された正義の反逆者の怒りを感じますねえ」
壁画の写真の前で腕を組むププンハン。
「単に下手なだけではないかな?」
実物の制作過程を知るピミウォの、偽らざる感想であった。
ビキラは黙して語らない。
ただ、消え入りたいばかりであった。
(まっ、まさかあたしのラクガキがっ!)
後悔しきりのビキラだった。
「あっ、これは同じ洞窟で見つかったモノの拓本らしいですよ。なんの拓本でしょう? ただのキズとは思えませんが」
「崩し文字ではないかな?」
と、ピミウォ。
「おお。すると、この怒りの絵を描いた作者のメッセージ?!」
洞窟に刻まれた凹みの拓本と、壁画の写真を見比べて言うププンハン。
「美しい。まるで天の雫のようだ」
単に下手なだけであった。
『姫姫羅』と書いてあったのだが、解読した者は誰もいなかった。
ビキラ本人さえも、
(何て書いたっけ?)
と思っていた。
(崩し文字もしずく)
くずしもじも、しずく!
*** *** ***
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ビキラ外伝「野試合あるある」の巻
魔人ビキラは、武者修行者シンタロウに野試合を挑まれ、苦戦していた。
ビキラは、蛮行は得意だったが、武術は苦手だったのだ。
「さぞかし名のある武人と思うたが、拙者の勘違いであったか」
押し気味のシンタロウが、つぶやく。
悔しいが、シンタロウの繰り出す蹴りや突きを、躱わすのが精一杯のビキラであった。
「それそれそれ。お主の技は逃げるだけか?」
「でやっ!」
ヤケクソで放ったビキラの蹴りは、やはり空を切った。
だが、ヒョウ柄のブーツがすっぽり抜けて、シンタロウの側頭部に衝突する。
「うがっ」
呻いて倒れるシンタロウ。
「お、お見事!」
追撃の構えに入ったビキラに、地面で仰向けになっているシンタロウが片手を突き出して言った。
「拙者の負けでござる!。それにしても見事な靴!」
「分かれば良いのよ、分かれば」
構えを解き、たまたまの勝ちを威張るビキラ。
「いや、お強い靴でござった。さぞや名のある靴殿」
シンタロウは、やたらと靴を褒めた。
(不意を衝く靴を畏怖)
ふいをつく、くつをいふ!
明日、日曜日(12月10日)は、ビキラ本編、
第四十三話「ツブヤキ三人衆ではなかった件」の巻
お昼ほぼ12時台に投稿予定です。




