ビキラ番外編「ビキラvsカカシ五人衆」の巻
おたずね者を、橋の上で挟み撃ちにする魔人ビキラと素浪人ププンハン。
「さあ、チンピラ魔人、パキョス。観念してお縄につきなさい」
ビキラが勝ち誇って言った。
一本シッポのパキョスは、チンピラな行為を繰り返して、ついに手配書に載る魔人となったのだった。
「ま、まずは、てめェだ」
と、ビキラを指すハンチング帽にトレンチコートのパキョス。
ビキラの反対側に居る長身の荒んだ顔の素浪人が怖かったのだ。
「小娘! 相手をしてやるぜ。受けてみろ、我が童謡妖術を!」
そう言ってパキョスは、創作童謡を詠唱した。
「あかしのかかし
しぶいぶし
むさしをまかし
うきうきうれし」
武蔵とやらに勝ったらしい渋い案山子が具現化した。
「ふん。強そうね。相手に取って不足なし!」
ビキラはそう言うと、回文を詠唱した。
「鋳掛け屋ヤケかい(いかけや、やけかい?!)」
具現化したイカケ屋は、ヤケクソ気味に、
「わしゃあ、カカシの修理は出来んぞ」
と叫んだ。
イカケ屋の仕事は、鉄・銅製用具の修理である。
ともあれ、カカシ武士とイカケ屋は激突して、双方が爆散した。
互角だ。
「やるな、小娘っ!」
そう言って再び、カカシ唄を唱えるパキョス。
「だてしのかかし
しんしなけいじ
さぎしをにがし
そらそそっかし」
見るからにそそっかしそうな落ち着きのないカカシ刑事に対して、ビキラは、
「豚カツカント (とんかつかんと!)」
実は豚カツが大好きな哲学者、今煮える・カントを具現化させた。
「勝ったら豚カツが食べたい!」
時代考証を無視して哲学者カントが叫ぶ。
ともあれ、カカシ刑事と哲学者カントは激突し、双方が爆散した。
再び互角だ。
懲りずにカカシ唄を唱えるパキョス。
「むつしのかかし
こけしをあいし
いとしこいし
むしむしあつし」
コケシを愛した暑苦しいカカシの具現化を見て、
「がああ。苦手な奴!」
ビキラは苦手意識を増幅させ、回文を詠唱した。
「トンカチカント(とんかち、かんと!)」
トンカチ頭の哲学者、今煮える・カントが具現化した。
「打ち付けて欲しいのは、ドイツだっ」
トンカチがトンパチな放言をした。
「いとしさと恋しさと愛なんか、叩き潰しておしまいっ、トンカチ頭!」
逆上気味に叫ぶビキラ。
ともあれ、哲学者カントかどうか定かではないトンカチ頭と、愛に狂うカカシは激突し、双方が爆散した。
またまた互角だった。
「もう、お終いかしら、おたずね者」
「抜かせ! お前はまだ何も見ていないっ!」
「ふじしのかかし
あらしでよあかし
しょっくでとんし
しくしくかなし」
「死体で具現化しとるじゃないか。勝負はすでに着いておるぞ、ビキラ」
構わず詠唱する魔人ビキラ。
「タキオン沖田 (たきおんおきた!)」
光よりも速いという粒子で構成された沖田氏が具現化した。
「加速!」
というなり、姿が見えなくなる沖田氏。
「えっ? どこ行っちゃったの?」
速さは強さ、と思って出したビキラは驚いた。
「光より速いタキオン粒子のカタマリじゃから、明日にでも跳んで行ったのではないかな?」
ビキラの頭上に漂う古書ピミウォが言った。
死体の案山子と、明日に向かって飛んで行った沖田氏。
今回は勝負なしだった。
「みとしのかかし
むしのれきしか
むかしをさがし
まむしおそろし」
具現化した本を抱えたカカシを見て、
「ただの歴史家じゃん」
「しかも弱点を詠唱しておる」
少しやる気をなくしながらも、ビキラは詠唱した。
「爆発が穿つ白馬 (ばくはつがうがつ、はくば!)」
具現化したのは白馬だった。
「マムシはどうしたのじゃ、奴の弱点じゃぞ」
「マムシの在庫はありませんとも。でも、爆発するから! 強いんですよ、たぶん」
「いやすでに爆発で、どてっ腹に大穴が空いておるぞ、あの白馬」
「か、かまわないから、やっておしまい白馬!」
ともかくも、穴空き白馬と昆虫歴史家は激突し、双方が爆散した。
果たして、互角だった。
「いけませんね。橋が通れなくて、たもとに沢山の人集りが」
ビキラとは反対側の橋のたもとで、つぶやく素浪人ププンハン。
「止むを得ません。岡っ引きたちが来る前に、あのおたずね者を……」
ププンハンは、昔話・童話妖術を詠唱した。
「鼻裂け爺さんと三万匹の子ぶた!」
具現化するハナの裂けた爺さんと三万匹の子ぶたが、パキョスを背後から襲った。
こうしてププンハンの妖術によって、橋を通行止めにしていた悪いおたずね者と賞金稼ぎは退治されたのであった。
「ププンハン、あなたねえ。あたしが頑丈でなかったら、死んでたんだからねっ!」
「おたずね者も生きてましたよ」
「それはあたしが身を挺して守ったからでしょうがっ!」
「えっ? そうなんですか? ピミウォさん」
「そのようじゃ」
「凄いですね、ビキラさん。まるで戦場の天使だ」
「ふふん! 話を逸らすんじゃない、ププンハン。どんなもんじゃい。ひとつ貸しよっ! 分かってる? 死ぬとこだったんだからねっ!」
ビキラは威張りながら、噛みつき続けた。
どっとはらい
(噛みつく罪か)
かみつくつみか?!
次回、ビキラ本編、第四十三話
「ツブヤキ三人衆ではなかった件」の巻は、
日曜日(12月10日)のほぼ12時台に投稿予定。
「ビキラ外伝」は、金曜日(12月8日)のほぼ12時台に投稿予定です。
回文ショートショート童話、
「のほほん」は111で完結しました。
良かったら、読んでみて下さい。
ほなまた、8日の金曜日に「ビキラ外伝」で。




