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第三十九話「甲魔流忍者ミソゴイ」の巻

またしても旅先の見知らぬ街で、ばったりと出会うビキラとププンハン。


(まるでテレビドラマの「無宿人シリーズ」のような出会いだ)

と思いながらも、昨夜来の疑問をビキラにぶつけるププンハンであった。


「昨夜、隣街で、散歩している自動販売機と出会いましてね」

「散歩する自販機?」

  思い当たるビキラとピミウォ。


「ええ、歩き売りしていまして、なんだか舌がびりびりするコーヒーを買わされましたよ」

「あーー」

  思い当たるビキラ。

「それで、立ち話をしていたら、その自販機、怖いモノの話になった時に、『虹色の髪の少女』って言ったんですよ」

「…………」

「ビキラさんのことですよね、コレ」

「それで、ププンハンは何て言ったの?」


「正直に『わたしは地獄が怖い』って言いましたよ。笑われたけど」

  と、頭を掻く素浪人。

「ダークオレンジの自販機でしたけど、ビキラさんのお知り合いですか?」


「成り行きで一度戦ったけど、ナナちゃん、元・対テロリスト強行鎮圧用ロボットだそうだから、気をつけた方が良いわよ。電磁鞭(でんじむち)を内臓してるし」

「うへえ。なんだか怖そうな奴だけど、名前は可愛いんですね」


「パーピリオン77(ナナナナ)で、ナナちゃんじゃ」

  とピミウォが説明した。

「はあ。以後、接触時には気をつけます」


そこへ通りかかる濃紺一色(フォルテブルー)の人物。


頭巾(ずきん)は、目の部分だけを出している。

右前の上衣(うわぎ)に、鎖帷子(くさりかたびら)のインナーウェア。

  (すそ)の細くなった(はかま)手甲(てっこう)

脚絆(きゃはん)草鞋(わらじ)足袋履(たびば)きである。


「に……忍者?」

  と、つぶやくビキラ。

「白昼堂々と忍ぶなんて、ちょっと怪しくない?」


その怪しい忍者であった。


甲魔流の隠れ里に回って来た、

「軍事政権復活団『幹部候補生大募集!!』」

のチラシを見て、その高額な仕度(したく)金に目が(くら)み、街に出て来た忍びの者。

  その名は、ミソゴイだ。


「あたし、こういう者ですが」

  通行手形を出して、忍者ミソゴイに声をかけるビキラ。

「ん? 捕り物屋ビキラ、さん? 何の用ですか?」

「おたずね者を探しておりまして、すみません、ちょっと通行手形を見せて下さい」

賞金稼ぎにそんな権限はなかったが、そこは勢いとハッタリである。

「おたずね者?」

まだ入団していなかったが、復活団は天下のおたずね者である。

  ミソゴイは内心、(あせ)った。


ともあれ、(ふところ)から手形を取り出そうとして、ポロリと落ちる「幹部候補生大募集!!」のチラシ。

「んん? 軍事政権復活団の公募? なにコレ?!」

「よくぞ見破った小娘!」

ミソゴイはそう叫ぶと、ひと跳びに距離を空けて忍術を放った。


「忍法、マダラ分身の術!」


  その声と共に、五人にも六人にも分身するミソゴイ。

伝説の少年忍者にリスペクトした、甲魔流奥義のひとつであった。

  ビキラも負けじと詠唱する。


「チアガールのルーが熱ち (ちあがーるの、るーがあち!)」


具現化したミニスカート姿のチアガールたちは、チアポンポンではなく、ぐつぐつ煮立ったルー入りの(なべ)を持っていた。

「アチッ!」

と叫んで鍋のルーを()()けるチアガール五人衆。


熱熱(あつあつ)ルーは、分身したミソゴイ全員と、ビキラと、ププンハンと、古書ピミウォにも掛かった。


「アッチッチ!」

  (わめ)いて、一人に戻るミソゴイ。

「マダラ分身敗れたり!」

  ルーの熱さに飛び跳ねながらビキラ。

「アッチッチッチッチ!!」

  ただただ熱がっているププンハンとピミウォ。


「な、なんの! 忍法ミシン()いの術!」


これもやはり過去の悪逆忍者の有名な忍術に似ていた。

「影を縫った! これでもう、うぬは動けん!」


ビキラの影が地面に縫われ、影の持ち主であるビキラの動きが止まる。

「えっ? 足が動かせない?!」


「北風と痛いよう!」


ププンハンは、昔話・童話妖術で、北風とナニかに痛がる太陽を出現させた。

  太陽の光で、縫われた影を消そうというのだ。

しかし太陽は、吹き(すさ)ぶ北風の中、なにかの激痛によって地面を転がり回り、うまくいかなかった。


「ビキラよ、それはただの催眠術じや。(だま)されるでないぞ!」

「なあんだ、ただの催眠術か」

ピミウォの言葉に納得したビキラは、全身の力を足の裏に込め、ばりばりと音を立てて影から自分の足を引き()がした。

「ミシン縫い、敗れたり!」

    自己暗示の勝利であった。


「忍法、枯れ葉隠れの術!」


さる高名な伊賀流忍者へのリスペクトから生まれた脱出忍法である。

形勢不利とみたミソゴイは、ひとまず逃げることにしたのだ。


どこからともなく無数の枯れ葉が現れ、渦を巻いてミソゴイの姿を隠してゆく。


「逃がすか!」

発火の妖術を射てば、枯れ葉が燃えてミソゴイを焼き殺すことも出来たが、ビキラは他の方法を選んだ。


「宇津井健氏は神経痛 (うついけんしは、しんけいつう!)」


今は亡き大俳優が、神経痛を押して具現化した。

真っ赤なスーツは「赤い」シリーズへのリスペクトか?


「逃がさん! 悪党めが!!」

警備員(ガードマン)のような、はたまた旅情あふれる刑事のような気魄(きはく)で、ミソゴイに抱くつく宇津井健氏。

「頑張れ頑張れ、宇津井健氏!」

チアガール五人衆が声を(そろ)え、手を振り足を振って神経痛のおじさんを応援した。

  ビキラはさらに、トドメとばかりに回文を追加詠唱した。


「火山弾坂 (かざんだんざか!)」


街の上空に具現化した多数の火山弾が、坂を転がり落ちるが如く地上に降りそそいで来る。


「あっ、これは死んだ!」

ミソゴイが、宇津井健氏が、チアガール五人衆が、北風とどこかが痛い太陽が、ピミウォとププンハンが、そして野次馬たちが覚悟する中、

「降参ですっっ!!」

  と、ミソゴイが絶叫した。


魔人ビキラはその声を聞き、妖術を解くべく即座に指を鳴らした。


妖力が分解し、宇津井健氏が、チアガール五人衆が、北風と痛いようが、そして火山弾群が、ホッとした表情を見せて消え去った。


妖術合戦に敗れ、枯れ葉の渦巻く中で、がっくりと肩を落としている甲魔忍者ミソゴイ。


ビキラは勝ち誇った顔で、

「どんまい。人生はこれからよ」

  と、なぐさめた。



ミソゴイは復活団への入団を断念し、甲魔の隠れ里へと帰って行った。

  その後、修行に(はげ)み、やがて忍者界の統一を成し()げた。

そして俗世(ぞくせ)平穏(へいおん)を、(かげ)ながら長く長く支え続けたという話である。



(大団円遠大だ)だいだんえん、えんだいだ!

「ビキラ外伝」は、勤労感謝の日(明日、23日。木曜日)と、

24日(明後日、金曜日)の両日、昼ほぼ12時台に投稿予定。


本編「魔人ビキラ」第四十話「行列のできるタコ焼き店」の巻、は26日(日曜日)、ほぼ12時台に投稿予定。

どんな話かは、読み返さずにこの後書きを書き始めたのでよく分からない。

たぶん、ノンキな話だと思う。知らんけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 白昼堂々忍という言い回しが良いなww全然忍べてない 本にカレーとか天敵な気がするけど水洗いとか出来るのか?()
[良い点] 痛々しい具現化キャラとチアガールの大騒ぎでもって大団円て、よくまとまってるような気が‥‥する。 宇津井健氏の昭和感、赤と言えば赤影も懐かしく思い出しました。
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