表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/117

第四話「追いはぎの小路」の巻

関所を無事に通過したビキラたちは、新規開店のスーパーでメガ盛り爆安弁当を買い、昼食を取った。

その後、次の宿場町への近道だという、エッサの山路へと足を踏み入れた。


茶屋も公番も失くなり、今や追いはぎが出没すると言う。

  すっかり(さび)れた山路である。

旅を急ぐ者は用心棒を(やと)って、この別名「追いはぎの小路」を選ぶのだ。


ビキラも、エッサの登山口で声をかけられた。


「お嬢さんが(ひと)りで行くところじゃないよ。()めときなよ」

  と。

「どうしても行くと言うなら、どうだい、オレを雇わないか? 安くしとくぜ」

と付け足した()せぎすの男は、バッドブラックのロングコートにハザードレッドのデニムという凶悪な()でたちであった。


用心棒をすると言うのだが、ビキラは断った。

  必要がなかったからである。


追いはぎの小路は落ち葉と(こけ)に満ち、昼なお暗かった。


「登山口で会った奴、つけてこないわね」

  ビキラが路を振り返って言った。

「てっきり追いはぎだと思ったんだけど」


「いや、服装は凶悪であったが、優しい目をしておったぞ」

  ビキラの肩に立つ古書ピミウォも振り返った。

「本当に、お(ぬし)の身を案じて、声を掛けてきたのであろうよ」


「ふうん。でもあなた、素浪人のたぐいには、滅法甘いところがあるから」

と、ビキラは笑ったが、だからこそピミウォはビキラと連れ立っているのであった。



エッサの山路には今日も、追いはぎの小路の異名通り、獲物を待つ二人のならず者が(ひそ)んでいた。


(そろ)いのダンガーグリーンの迷彩服を着て、茂みに溶け込んでいる。

ノッポの二本 (ヅノ)ダイロと、小太りの一本 尻尾(しっぽ)ユームである。


(次は失敗できない)

  ダイロもユームも、そう考えていた。


今朝方、女の三人連れと見て、ダイロとユームは追いはぎ行為におよんだ。

  だが、女のひとりは腕の立つ用心棒だった。

結局、逆にお金と食べ物を巻き上げられてしまったのだ。


一方、二人の潜む茂みに近づいてゆくビキラたちは、

(賞金の掛かった追いはぎもいるのではないか?!)

と、一石二鳥の思惑で、この宿場への近道を選んだのだった。


昼食抜きで獲物を待ち続ける追いはぎ魔人のダイロとユーム。


「あっ、兄貴。今度の奴はどうです? ヒョウ柄のジャケットにロングブーツ。黒革のショートパンツ。肩の上に古本? きっと世の中を()めた小娘ですぜ、あれは」

  と、小太りのユームが言った。


「待て。小娘が独りで来るところじゃねえぞ。虹色の髪に赤眼か。あいつも魔人だな。しかし、何かの罠かも知れん」

ダイロは午前中の女用心棒の一件に()りて、注意深くなっていた。


「いや絶対、世の中ナメ娘ですって。カモですぜカモ」

「まあ待て、ユーム。もう少し様子を見よう」

  ダイロはそう言って、さらに身を伏せた。


「なにしてんのよ、あそこの二人組」

  すでにお見通しのビキラがつぶやく。


「ここは追いはぎの小路じゃろ? 小娘が独りで歩く場所ではないからのう」

  ピミウォがささやきかえす。

「何かの罠かと、用心しておるのかも知れん。賢明な判断じゃ」


「いやな予感がする。あの娘を襲うのは()めておこう」

ダイロは自分の(ひざ)の震えを危険信号と見て、そう言った。


「ダイロの兄貴、あんなちっこい娘まで見逃してちゃ駄目ですぜ」

ユームは腹が減りすぎて、ビキラのことは、神仏が自分たちを救うために(つか)わした餌食(えじき)にしか見えなくなっていた。

「まあ見ていて下せえ、兄貴」


ユームは、そう言うと、茂みから苔むす山路に跳び出した。


「おおっとお嬢さん。ここはオレ様の縄張りでえ」

と、目の前をすでに通り過ぎてしまったビキラの背中に言った。

身包(みぐる)み置いて行け、とは言わねえ。通行料を払ってもらおうか」


「その(おど)し、買わせてもらうわ」

  魔人ビキラは振り向きざま、回文を詠唱した。


「死の匂い鬼の(しのにおいおにのし)


(とな)えられた回文は、妖力によってたちまち具現化した。

  死臭を漂わせた鬼の登場である。


「わたしは死にましたが、あなたはどうしますか?」

見上げんばかりの大鬼が、虎模様の腰布をいじりながら(たず)ねる。


その巨体と死臭に、絶句して立ちすくむ小柄なユーム。


「そうですか、あなたも死んでくれますか」

  死臭鬼は、ユームの返事を待たずに話を進めた。

「わたしは人を殴るのが好きなので、撲殺(ぼくさつ)で良いですか?」


「真っ平でい。もう一度死ねっ!」

  ユームはそう叫ぶと、駄洒落(だじゃれ)を放った。


「クナイを持つ家内」


詠唱によって、忍具のクナイを握ったエプロン姿の奥様が具現化する。


ユームは駄洒落妖術師であった。


「えっ?!」

自分の目の前の巨大な死臭鬼と、手に持つ両刃の忍具を見比べて、

「無理無理無理よアナタ」

       と、ユームを見る家内。


「いやオレ、独身だよ」

       返事をするユーム。


「俺が相手だっ!」

  見かねて山路に跳び出す兄貴分ダイロ。


「オケラのオナラのカケラ」


ダイロの妖術も駄洒落であった。


黄色いオナラ玉が、突き出されたダイロの手の先に具現化し、死臭鬼に飛ぶ。


オナラ玉は鬼の顔面に見事に当たり、爆散した。


「ぶはっ」

  と(うめ)き、死臭鬼は地面に片膝(かたひざ)をついた。


()いてますぜ兄貴っ」

  興奮して叫ぶユーム。

「やっちゃって下さい、お兄様!」

  クナイを振り回す家内。


「板前来たまえ」


ダイロは二発目の駄洒落を射った。

詠唱に応じて、今度は(ねじ)鉢巻(はちま)きの板前が具現化した。


が、板前は自分の持つ出刃包丁と、目の前の、片膝をついて怒りに震えている巨大な死臭鬼を見比べ、

「無理無理無理でさあ大将!」

  とダイロを振り返った。


「圧殺や絞殺もありますが、どうしますか?」

  死臭鬼は鼻をつまんだまま立ち上がった。

怒りと殺意が後光の如く、鬼から放射されているのが見える。


ここが勝負どころと見た追いはぎ二人組と仮初(かりそ)めのふたりは、

「参りました!」

    と同時に土下座した。


その追いはぎどもの姿を見て、ビキラは、ぱちん! と指を鳴らし、妖術を終了させた。


「その程度の根性で追いはぎなんかやってると、遠からず死ぬわよ」

  死臭鬼が消滅したのを確認して、ビキラが言った。


「手配書にもない駆け出しの悪党のようじゃから」

  古書ピミウォが言った。

自分の身体(ページ)(きざ)んである人相書きを確認したのだ。

「命まで取ろうとは言わぬ。靴を置いていけ。不慣れな悪党は、だいたいそこに金を隠しておるでな」


こうして、追いはぎ二人組は、本当の一文無しになった。



その後、ダイロとユームは、喜ばしいことに改心した。


頭を()り、迷彩服をダルマレッドの僧衣に替え、今までの罪滅ぼしにと、屋台を引いて(いも)の煮たのを売って廻った。


そして、見知らぬ街で、ばったりと出会うビキラとダイロ。


ダイロとユームの顔をすっかり忘れていたビキラとピミウォは、その芋の煮たような物を、

「美味しい。美味しい」

        と言って食べた。


その笑顔を見てダイロたちは、

(芋煮モドキを売っていて良かった)

  と、しみじみと思ったのであった。



(如何にも芋煮かい)

いかにもいもにかい?

ナンセンスな話にお付き合い下さって、ありがとうございます。

一話完結のショートショート連載です。

次回、第五話「見知らぬ街あるある」の巻。

果たして出現する雷神は敵か味方か?

みたいに、ウソでもいいから盛り上げたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも読後感が良いです。 朝の通勤電車で読むのに丁度良い長さで最近の楽しみです。 涼しくなってきたので、そろそろ芋煮の季節が来ますね。
[良い点] 駆け出し悪党にも容赦のないビキラ、戦い様の描写がカッコいい。 [一言] 次の新作回も楽しみ(。・ω・。)
[良い点] ユーロと召喚した人(家内と大将)の掛け合いが面白かったです((´∀`*)) 次話も楽しみにしています♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ