ビキラ外伝「その名は大言海」
魔人ビキラは、
「前から歩いて来る二本ヅノの紳士は、おたずね者だ」
と、肩に乗る古書、ピミウォに教えられた。
商店街とて、人の往来もある。
(派手な妖術は危ない。人を巻き込む心配がある)
(無関係の人間たちに、賠償金を求められては、フトコロが痛い)
ビキラは詠唱により、巨大な国語辞書「大言海」を具現化させた。
その、分厚くて大きな辞書を歩き読むふりをして、すれ違いざまに、おたずね者を殴り倒す魔人ビキラ。
「ふう。一発で片付いたわね。さすが大言海」
「ビキラさん、辞書の中のページは真っ白なんですね」
と、一緒に歩いていた素浪人ププンハンが、横から覗いて言った。
「うん。有名だけど、名前しか知らない本だから」
「その鉛色のページはなんですか?」
「見たまんま、鉛の板よ。何枚も入れてあるわ。対おたずね者用にイメージした大言海だから」
ビキラは指を鳴らして大言海を消滅させた。
すでに役目は終わったし、なにより重かったからである。
「正義の役に立って、大言海も喜んでいたと思うわ」
「辞書と頭は使いようじゃのう」
と、古書ピミウォ。
大言海の活躍を目の当たりにしたププンハンは、甚く感動し、
(自分の、昔話・童話妖術にも使ってみよう)
と、思った。
今から妖力を練り始めたのでは、実用化は随分先の話になるが、やってみる価値はある、と考えた。
「王様の耳はロバの大言海」や、
「ヘンゼルとグレーテルと大言海」は、うまく行きそうな気がするププンハンなのであった。
(大言海歓迎だ)
だいげんかい、かんげいだ!
「魔人ビキラ」第37部分を、回文童話「のほほん」と誤投稿してしまったので、ようやくですが、短いビキラ話と差し替えました。
「魔人ビキラ」本編の「前書き」に書く予定だった、少し長い回文オチのショートショートショートです。
「魔人ビキラ」は、毎週、ほぼ、
水曜日と日曜日の、お昼12時台に投稿連載中です。




