第二十五話「メガ・アーマーマ」の巻
気ままなハグレ旅で、悪党狩りを気取っていたププンハン。
だが、時々ビキラたちと出会うようになって、心労が増えていた。
それはひとえに、ビキラの情熱的な無鉄砲さのお陰であった。
(私、心労でハゲるんじゃないかな?)
ひそかに頭頂部を心配するププンハンであったが、すでに遺伝の縁により、禿げつつあった。
帽子を被らないのも、その為だ。
蒸れる →→ ハゲる。と思っているのだ。
「どんなに気を使っても、禿げる時はハゲる」
ププンハンがその真実に突き当たるのは、もう少し未来の話であった。
それはとも角。
今日も今日とて、真っ昼間から電信柱に抱きついて、
「もう離さないよ、ボクの愛しい電柱ちゃん」
とか騒いでいる酔っぱらいを見て、
「ちょっと黙らせて来る」
と言い出すビキラを宥めているププンハン。
(子供が騒いでいても、
『元気があって良いわねえ』
などと笑っているのに、どうも大人に対しては辛いところがあるなあ、このお嬢さんは)
と、思ったりする素浪人。
また、
(悪党とは言え、なにもそこまで痛めつけなくても)
と、たまに驚きもするのであった。
まず、本気でビキラの、
『ひん曲がった正義感』
を、止める気はないププンハンだった。
下手をすると、コチラの命が危ないからだ。
だが、学び得たことも少しは、あった。
ひとつ、
「ビキラさんは、駄菓子に弱い」
ひとつ、
「自分と同じで、地獄が怖い」
ひとつ、
「邪神と見紛うことがあるが、正義感は強い」
宥めすかして酔っぱらいを見過させ、さらに街道を歩いていると、
「ビキラよ。向こうから来るリーゼント男は、おたずね者じゃ」
と、古書ピミウォがささやいた。
「髪型とモミアゲで変装したところで、目鼻の位置や骨格は変えられんわい」
「承知」
と、うなずき合うビキラとププンハン。
そんなこととは露知らず、ハウマッチオレンヂのデニムを着たリーゼント男は、悠然と歩いている。
ひたいに角が一本見える。
畑荒らし専門の魔人、アーマーマだ。
隙だらけのおたずね者に、ビキラは容赦がなかった。
「婚期逃した滋賀の金庫 (こんきのがしたしがのきんこ)」
ビキラの詠唱により、金庫の婚期がそもそも不明ながら、いつも真面目に働いている設定の、滋賀生まれの金庫が具現化した。
金庫はアーマーマに迫りつつ、
「あなた、お金の匂いがしないわね!」
と、怒鳴りつけた。
「うおっ。な、なんで分かるんでい」
財布の入った尻ポケットを押さえて驚くアーマーマ。
ビキラの得意文句の、
「問答無用!」
を叫び、アーマーマに体当たりを決行する、推定重量五百キログラムの滋賀産金庫。
地面に倒れて金庫を避けるアーマーマ。
アーマーマの体の上を、
「あらら」
と言って飛び越えて行く金庫。
質量がある為に、すぐにはUターンが出来ず、
「ちょっと待っててーーー」
と言いながら、街道を飛び去ってゆく滋賀の金庫であった。
通行人たちが驚いた様子で、金庫を避けているのが見えた。
「なんなんだ、ありゃあ」
起き上がって金庫の飛び去った方向を見るアーマーマに、
「よくぞ躱わした、おたずね者」
と、ビキラが唸る。
「これならどうだ!」
と言って詠唱した回文は、
「子泣き爺きな粉 (こなきじじきなこ)」
であった。
民俗学者、柳田國男著『妖怪談義』でおなじみのコナキジジが、キナ粉状態で具現化した。
キナ粉爺は、ゴギャゴギャと啼きながら、アーマーマに衝突した。
たちまち爆散するキナ粉爺。
「わっ!」
と言って逃げるビキラ、ププンハン、ピミウォ。
諸にキナ粉を喰らったアーマーマが、
「目が目が目が」
と顔を押さえてうずくまった。
「一件落着でしょうか?」
ププンハンが言った。
「うむ。ビキラもさすがに、これ以上の無体は出来まい」
古書ピミウォが静かに応じる。
そこへ、Uターンした滋賀の金庫が帰って来た。
キナ粉に悶えているアーマーマの臀部に、天も裂けよという勢いで金庫の角を食い込ませた。
その時のアーマーマの悲鳴は、天雷とも山崩れとも形容され、長くその街道に語り継がれたという話である。
(突け! 痛いケツ)
つけ! いたいけつ
次回、第二十六話「ヨビを追う者」の巻。
何人の方が覚えておられるであろうか?
(そもそものモソモソ、何人がコレを読んでいるのであろうや?!)
「バランザの丘」篇で登場した放火魔人ヨビの、亡霊と言ってよい魔人が現れた。
果たしてビキラの活躍はいかに?!
今回、柳田國男著「妖怪談義」を参考にしました。
漫画家の水木しげるさんの作品群も、子供の頃、大いに読みました。




