第二十一話「ププンハンの正義」の巻
素浪人ププンハンは、見知らぬ街でまた、ビキラたちと出会った。
「おや、お嬢さん奇遇ですね」
澄まし顔で挨拶したが、ふさふさの尻尾が、ぶんぶん振れている。
「ププンハン殿、元気そうでなにより」
素浪人好きの古書ピミウォが、挨拶を返した。
「おじさん、おひさ。あっちの方で、人だかりがしてるから行ってみない?」
と、ビキラ。
人集りに到着早々、
「どうしました? 何事ですか?」
ビキラは当たり前のように群衆に混じっていった。
「大変だよ、ならず者が一人、あの駄菓子屋に立て籠りやがってさあ」
と、指をさす野次馬。
窓は多いが、平屋の小さな駄菓子屋だった。
大群衆に囲まれている。
「駄菓子屋だから、子供が人質に取られちゃって、困ってるんだよ」
「なんでも、万引きを子供に見つかって、ならず者が居直ったらしい」
「という話よ」
野次馬の情報を聞き、
「ここはひと肌脱ぐところよね」
と、腕まくりを始める魔人ビキラだった。
「早く馬車か自動四輪車を持って来ーーい!」
店の中から声がする。
「さっきから、逃亡用の乗り物を要求してるんですよ」
とまた野次馬が伝えた。
「事情はだいたい分かりました。あたしに任せて下さい」
と言い出すビキラ。
「待て待て待て、何者だお前は」
金色のちゃんちゃんこを着た男が二人、ビキラに近づいて来た。
手には房のない十手を持っている。
ひとりは一本ヅノ、もうひとりは二本シッポの岡っ引き魔人コンビだ。
「勝手なことをするんじゃない」
と、声をそろえてビキラを叱る。
「通りすがりの賞金稼ぎですが、こういうの、慣れてるから」
「慣れの問題じゃない。これは我ら岡っ引きの仕事だ」
と、一本ヅノ。
「だいたい、お前みたいな小娘に何が出来る」
と、二本シッポ。
「あっ、言ってはならんことを」
と、古書ピミウォがつぶやいた時は、すでに遅かった。
回文妖術師ビキラの、
「クッキーキック(くっきーきっく!)」
の詠唱で、美味しそうな可動式クッキーが具現化し、たちまち二人の岡っ引きを蹴り倒した。
倒れて、ピクリとも動かなくなる岡っ引き二人組。
ビキラの暴挙を見て、
「頼もしい!」
「勇者乙女!」
「さすが通りすがりの賞金稼ぎ!」
などと野次馬が持て囃す。
ビキラは目の前の野次馬に向かって、
「あたしが人質になります。人質交換です。その後、ならず者をこのように」
と地面に伸びている岡っ引きを指して、
「倒します!」
と宣言した。
クッキーが、岡っ引きの上で胸を張っていた。
どっ! と歓声を上げる野次馬たち。
「何の騒ぎだ、今のはーー!」
駄菓子屋から叫び声が上がった。
「何でもありませーーん!」
「人質交換しましょう!」
野次馬たちが叫び返した。
「あたしが新しい人質です」
ビキラは野次馬の群れから進み出て、手を上げた。
「おお、虹色の髪!」
「ヒョウ柄のジャケットにショートブーツ!」
「真紅の瞳!」
駄菓子屋から、何人ものはしゃぐ声が聞こえた。
「あれっ? 立て籠もり犯は一人じゃなかったですか?」
と、ププンハン。
「老成た子供がおるのじゃろう」
と、ピミウォ。
「よーーし、交換してやろう。こっちへ来い!」
交換する気など丸で感じられない声が返って来たが、ビキラは駄菓子屋に向かってゆっくりと歩き出した。
(店に入ったら、ならず者を倒せば良い話)
ビキラは単純に、そう考えていた。
(一発で倒す。子供を人質に取る鬼畜など、死んだら死んだ時の話だ。何も問題はない)
と、大問題な決意をしているビキラだった。
「不味いですね。ならず者の命が危なくありませんか?」
手遅れな心配を始めるププンハン。
「おお。確かにそうかも知れん」
ププンハンの心配が伝染するピミウォ。
「ここは追い出し作戦で行きます。犯人を外に追い出すのです。なあに、野次馬が多いから、逃げられはしませんよ」
神妙にうなずくと、昔話・童話妖術師ププンハンは、詠唱した。
「赤ずきんと三万匹の子ぶた!」
赤ずきんちゃんを先頭に、子ぶたが続々と具現化し、駄菓子屋の入り口に突進して行く。
背後のただならぬ気配に振り向くビキラ。
そして瞬時にして、子ぶたの大群に押し倒され、踏みしだかれる魔人少女。
その様子を見て、犯人のならず者と人質の子供たちは、大慌てで窓から外に跳び出したのだった。
「むふ」
と言って、ビキラは意識を取り戻した。
破壊された駄菓子屋の前だった。
「あたしはどうして倒れているの?」
「一件は落着したぞ、ビキラよ」
「なんであたしの服は、ブタの足跡だらけなの?」
「丈夫に育って良かったですね、ビキラさん」
「なんであたしの頭はズキズキ痛いの?」
「どうやら、ほど良く記憶を失っているようじゃな」
「立て籠もっていたならず者は、野次馬の皆さんが捕まえてくれましたよ、ビキラさん」
しかし、子ぶたたちの体当たりを食らって、駄菓子屋は見る影もなく破壊されていた。
妖術を止めるのが遅かったのだ。
「店の弁償は、ならず者がすることになった。安心せい、ビキラよ」
「駄菓子屋のご主人が、ビキラさんの勇気に感動して、これを下さいましたよ」
ププンハンはそう言って、駄菓子の福袋を見せた。
「うわ、『ぽろりんプリン』が入ってる。うわわ、『ぱいなっプリン』も!」
福袋を開いて高級駄菓子を確認し、歓喜の声を上げるビキラ。
「 『うまうまゲソ丸』
『ちょびっとセンベイくん』
『激ウマ棒アツシ』
『チョコっと串ムサシ』!」
お馴染みの駄菓子も、どっさり入っていた。
ビキラは感激と頭痛で、不覚にも落涙した。
もちろん、口をへの字に曲げて誤魔化したが。
(生意気な泣き今な)
なまいきななき、いまな
一話完結形式のショートショート連載です。
回文妖術師・ビキラの冒険ファンタジー。
明るく楽しくほんわかしてる系の終わりに、持って行きたいですね。
なかなかムズカシイけど。




