第二十話「裏切られる件」の巻
そこは林の中を、七曲りに抜ける裏街道だった。
「な、なんで分かったんでい?!」
おたずね者の捕獲の、共同作戦を魔人ビキラに頼みながら、賞金を持ち逃げした賞金稼ぎ三人組。
だからその逃走路に、騙したはずの魔人少女が現れたので、驚いていた。
古書ピミウォは、三人組が逃げたら頭突きをカマすべく、上空に待機している。
「なんで分かったかって? あなたたちの顔に書いてあったからね」
腕を組み、悠然と言い放つビキラ。
「賞金を持ち逃げするって」
「な、なんだって?」
と、思わず互いの顔を見合わす一本シッポたち。
「いい加減なことを言うな、小娘!」
「逃げる前に、ちゃんと顔は洗ったからな」
「んだんだ!」
ランナウェイブルーのツナギを震わせて、口々に叫んだ。
「あなたたち、捕り物屋仲間から非公開の手配が掛かってんの、知らなかったでしょう?」
「非公開手配? なんだそりゃ」
「裏切られた捕り物屋仲間がお金を出し合って、あなたたちの首に賞金を懸けたのよ」
「けっ。捕り物屋ギルドの手先か、てめえ」
「裏切りが本当かどうか、確かめるために、わざと共同作戦に乗ってあげたのよ」
「いや、それは嘘だ。たまたまオレらの前に出てきただけだ」
「この小娘は、思い付きで適当なことを喋ってやがるんだ」
「んだんだんだ!」
裏切り三人組は、自分たちに都合のいい世界へ逃げてゆく。
「怪我をしたくなかったら、有り金置きなさい」
「ふん。食えねえ小娘だなあ」
「それで見逃してやるってか?」
「いんや。一文無しにした上で、捕り物屋ギルドに突き出してあげる」
ビキラは目をへの字にして笑った。
「ギルドでたっぷりと、非公開にして非合法のお仕置きを受けるといいわ」
「なめやがって」
「人買いに売っ払ってやるぜ、小娘」
「その情報も吐いてもらおうかしら」
ビキラの怒りはさらに膨らんだ。
(こんな連中がいるから、捕物屋はいつまで経っても、ゴロツキ扱いされるんだわ)
そう思うビキラは、爆・即・暴力捕獲という正真正銘のならず者だったが。
「オレら三人を相手にして」
「勝てるつもりか小娘っ!」
「んだんだんだっ!」
と言いながら、すでにビキラの捕獲時の暴挙を見ているので、だらだらと冷たい汗を流し始める悪党三人組。
「少なくとも、負けるつもりはないわね」
恐ろしいことに、謙虚に答える魔人ビキラ。
三人組は、先手必勝とばかりに駄洒落を詠唱した。
「道のり、のりのりの青海苔!」
「美景なる、プエルトリコに増える虜!」
「真っ当な納豆」
対してビキラは、
「盆栽サンボ (ぼんさいさんぼ)」
と、回文を詠唱して、見事な枝振りの盆栽を具現化させた。
そしてその盆栽は、コマンドサンボの達人であった。
達人盆栽は、その多数の枝を奮って、腰を振り続ける青ノリ、プエルトリコに気触れているトリコ、実直なナットウを、立ち関節技に極って獲った。
自分たちが出現させた仮初めの物体の痛がる姿を見て、すぐさま土下座して詫びるロクデナシ三人組。
「うん。許さないわよ。とことん話し合いましょう」
ビキラはそう言って、腕まくりをした。
古書ピミウォは、ビキラの様子を見て、慌てて急降下したのだった。
その頃、素浪人ププンハンは、捕り物で共同戦線を張った素浪人仲間に裏切られていた。
おたずね者の賞金を、横取りされたのだ。
「しまった。我々は、ならず者なのだ。迂闊に他人を信用してはいけない。分かっていたはずなのに……」
そうして、ふと思い出すのは、魔人少女ビキラの横顔だった。
「彼女は『生意気』で武装していたが、安心して背中をあずけられる娘だったなあ」
と。
(優しい娘の、恋しさや)
やさしいこのこいしさや
一話完結形式のショートショート連載です。
回文妖術師・ビキラの冒険ファンタジー。
回文童話「のほほん」。同サイトにて連載中。
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