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第十三話「ポンコツ屋」の巻

魔獣専門のステーキ屋で、近くに「ポンコツ屋」があると聞いたビキラと連れの古書ピミウォは、寄ってみることにした。


(掘り出し物があるかも知れない)

  そう思ったのだ。


「カレーパンイエローの風車の隣……、おお、あったぞビキラ。ここじゃここじゃ」

ページを羽ばたかせ、先を飛んでいた古書が、魔人少女を呼んだ。


平屋造りにむき出しのコンクリート壁。

  形ばかりの小窓。

大きな入り口には、

「ポンコツ屋 苦毒(くどく)

      の暖簾(のれん)が掛かっていた。


ポンコツ屋とは、その名の通り、ポンコツな品を売り買いする店である。


「お邪魔するよ」

  ピミウォは声を掛け、ノレンを掻き分けた。


返事はなかったが、ビキラもノレンをくぐると、勝手に店内を物色して回った。


天井から、幾つもの裸電球がぶら下がり、ゆれている。

  風があるのだ。


整然と並んだ背板のない沢山(たくさん)の棚に、雑然と置かれている我楽多(ガラクタ)の数々。


回文が付与されているという、

   「ケーブルブーケ」

             「(いた)くねえネクタイ」

    「鉄筋切手(てっきんきって)

「コッペパン、ぱぺっ()


コトワザにありそうな、

「負け犬のオーボエ」

「目の上のコブ取り爺さん」


その他、

             クラゲのあばら骨だの、

  タコの頭蓋骨だの、

           丸い三角だの、

 四角い球体だの。


そして、

「一寸先は闇法師」

  と名付けられた小さな人形の前で立ち止まるビキラ。


「ほらこれ。ムカウ独裁帝国中期の元帥(げんすい)、ガンポックじゃない?」


その声を聞いて、辺りをひらひらと飛んでいた古書ピミウォが、ビキラの肩に戻ってきた。


「おう、そうじゃ。ずいぷんと色落ちしておるが、糞元帥のガンポックに間違いなかろう」


「魔除けになる、とか言われて、無理矢理買わされたヤツよね」


「うむ。軍事政権に逆らって生きるのは怖かったが、まさか民主化革命が成功するとはのう」


「軍政は強し。されど国民の怒りはなお強し! だったわねえ」


百数十年昔の市民革命を、しみじみと(なつか)しむ魔人少女と古書であった。


「お嬢ちゃん、その黒いショートパンツは、凶魔獣エテラモンテラの(かわ)で出来ておらんかね?」


商品(ガラクタ)だとばかり思っていた、サングラスにメタルゴールドの大きな鼻、という顔が喋ったので、ビキラは棚の前から悲鳴を上げて跳び退()いた。


「いかにも。エテラモンテラの革製パンツじゃ」

ビキラの急な動きについてゆけず、床に尻もちをつく古書ピミウォ。


「その(つや)のある怪しい光沢。そうだと思ったよ」

その人物は、棚に(あご)を乗せてマネキン頭のふりをしていたのだ。


「これは失礼。小生、怪談好きなものでつい、客を驚かせてしまいます。この店のマスターで、ガウヅと申します」

そう言って、パーティグッズ顔のガウヅは、棚の向こうから出てきた。


羽織(はお)ったオーロラグリーンの広袖(どてら)に、店名「苦毒」の刺繍(ししゅう)がある。


「そしてその、ペッタンコに見えるインナーウェアは、巨大珍生物ヤミヤミヘビの革で出来ておらんかね?」

と、光を全く反射しないので、漆黒の(とばり)にも、常闇(とこやみ)(うろ)にも見えるインナーに迫る店主ガウヅ。

  「そ、そうだけど」

背中に当たった棚を押しながらさらに下がるビキラ。


だが、(はだ)けたヒョウ柄のジャケットから見えているヤミヤミヘビ製のインナーは隠さない。

見ただけで看破する者はほぼいないので、嬉しかったのだ。


「やはり!」

凶獣マニアにして珍生物愛好家のガウヅは、歓喜の声を上げた。

「どうでしょう? そのエテラモンテラとヤミヤミヘビを(ゆず)っては頂けまいか? もちろんそれなりのお礼は致します」


ヒョウ柄のジャケットとショートブーツには、興味のないガウヅだった。


「いえ、お金の問題じゃないの。これはあたしの血と涙の結晶なの」

と、両手でインナーウェアとショートパンツを何度も(はた)くビキラ。


極秘境バルモンテンの野宿で、エテラモンテラとヤミヤミヘビに、同時に狙われた恐怖を思い出す魔人少女ビキラであった。


二体の巨大魔獣を倒した後、食べたし、幾らかの皮を()いで人里に持ち帰り、衣服に加工してもらったが。


(よろ)しい。では、妖術合戦と行きませんか? 小生はこう見えても、妖術師なのです」

  と、ガウヅは自分の大きな金色の鼻を叩いた。


「あたしもよ」

  ビキラは即座に応じ、虹色の髪を()でた。


「お嬢ちゃんが勝ったら、そうですな、店内の商品の、どれでも好きな物を二つ、いや、三つ差し上げましょう」


「ふたつ、いや、みっつ」に反応して、

(ど、どれにしようかしら)

  と早くも店内を物色するビキラ。



かくて、ポンコツ屋近くの空き地で向かい合う、黄金鼻のガウヅと虹色の髪の少女ビキラ。


お互い、欲望に眼を血走らせていた。


「では双方、負けても恨みっこ無しですぞ」

そう言うピミウォは、対峙(たいじ)する二人とは、随分と距離を空けて、大きな石の(かげ)に隠れていた。


欲に満ちた時のビキラの妖術が荒々しいことは、百も千も承知していたからである。


「では、構えて!」

  ピミウォがしおりヒモを立てて言った。


そして次に、

「始め!」

  と告げる前に、回文を詠唱するビキラ。


「素直なオナス (すなおなおなす)」


妖力によって、たちまち三メートル近い巨大ナスビが具現化した。


一直線にガウヅに向かって飛翔するナスビ。


「あっ、お嬢ちゃんフライング!」

  と叫んだために、ガウヅの詠唱はさらに遅れた。


「スープと肉とイチゴとスプートニク1号!」


ガウヅは駄洒落(だじゃれ)妖術を放つが、その長い詠唱が具現化した時には、素直に飛び続けた巨大ナスは、すでに目の前に迫っていた。


スープと肉とイチゴを乗せた世界初の人工衛星と、素直なオナスは、ガウヅの眼前で激突し、白煙と火花を上げて爆散した。


衝撃を(もろ)に受けて、地面に叩きつけられるポンコツ屋店主ガウヅ。


「勝負あり。勝者、ビキラ!」

  ビキラの追撃を止めるべく、即座にピミウォは宣言した。


「ちっ」

  と舌打ちし、すでに具現化させていた、

「この辺では出ん、屁の子 (このへんではでんへのこ)」

  を消滅させるビキラ。


死に(そこ)なって安堵(あんど)するガウヅ。



ビキラは戦利品に、小瓶(こびん)に入ったサプリメントを三つ選んだ。

 は持ち運びに便利だからである。


頭痛、胃痛、歯痛などに()く万能薬。

  「キニナラーン」副作用は症状の悪化。


周囲の言動がどうでもよくなる、

  「ソレシラーン」副作用は人間関係の悪化。


断末魔に、

「イマシヌーン」副作用は、今さら何を飲んだとて無駄なことを知る。


「まあ、本人が気に入ったのなら」

  と、()えて反対しなかった古書ピミウォだった。


ポンコツ屋の店主ガウヅは、去ってゆくビキラたちを見送りながら、

「こんなことをしていたら、小生、遠からず死ぬな」

  という事実にようやく気がついた。


そしてガウヅばポンコツ屋をたたみ、故郷に帰って、怪談家になった。


子供の頃から怪談が大好きだったのだ。


カルチャーセンターで怪談教室を開き、時には独演会もおこなった。


野次(やじ)には、いたって寛大であったという話である。



(寛大怪談家)

かんだい、かいだんか


次回、第十四話「素浪人ププンハン」の巻


第四話「追いはぎの小路」で、すでに出会っているビキラとププンハンは、お互いを覚えているのだろうか?

そして、軍事政権復活団大幹部のヴォブロウを倒すことはできるのてあろうか?!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 衣服にも物語性があったりするのが凝っていて良いなぁ 戦った相手が割と良い人生過ごしてたりするのがほっこりして良いんだよなぁw ビキラの人生(物語)はゆっくり見守っていきたい
[良い点] 回文妖術師にしか分からない言い回し、回文を見て納得しました。巧妙過ぎて一般人には伝わらないけど面白い。笑 「キニナラーン」は現代の日本人(社畜)にバカウケかも。欲しいです
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