第十二話「無惨! チョコっと串ムサシ」の巻
かくて、ひまわり好きの老婆の家に、臨時のメイドとして働くことになった魔人ビキラ。
回文妖術で具現化させた、
「椎茸大使 (しいたけたいし)」さんや、
「騙くらかす、明日から熊だ (だまくらかすあすからくまだ)」さんや、
「狐憑き (きつねつき)」さんを酷使して家事に勤しんでいた。
「そらそら、休んでいる暇はないよ。あなたたち、三十分くらいで消えちゃうんだからね!」
と、仮初めのモノたちを叱咤激励するビキラ。
が、ほどもなく本職のメイド魔人さんがやって来た。
「本職の人が来るまで」
という約束だったので、臨時雇いのビキラは、メイドを辞することになった。
「ありがとうね、芸人少女さん。はかどらなかったけど、大変だったけど、なんだか充実した一刻だったよ」
老婆はそう言って、ビキラに幾何かのお金と、ハンドバッグを渡した。
ビキラは素直に喜び、ヒマワリ模様のバッグの中身を見て、さらに目を剥いて小躍りした。
バッグの中には、駄菓子の袋が幾つも入っていたのだ。
老婆は、古書ピミウォにビキラへのお礼を相談した時に、「駄菓子」を入れ知恵されたのだった。
「ああ、喜んでくれて嬉しいよ」
言いながら、踊り狂うビキラを引き気味に見ている老婆と本職のメイドさん。
「いいお婆さんだったね」
老婆の家を出て、道すがらさっそくに、バッグから駄菓子の袋を取り出すと、食べ始めるビキラ。
「食べすぎるでないぞ」
と、注意するも、おすそ分けされた『うまうまゲソ丸』は拒否せずに食する古書ピミウォ。
ビキラは、ヒマワリ柄のバッグを振りながら、上機嫌で閑静な住宅街を歩いた。
そんなビキラのハンドバッグを、電信柱の陰に隠れて狙っている不届き者があった。
目立たぬデニムの上下に身を包む、一本シッポの引ったくり魔人、ムデッツだ。
身につけた妖力「韋駄天」を、「負」の方向に役立ててしまった無頼漢だった。
後方から音もなく近づき、ビキラとピミウォの談笑の隙を突いて、見事にヒマワリ柄のハンドバッグを引ったくった。
ダッシュして逃げ去る韋駄天のムデッツ。
「ああっ、あたしの『ちょびっとセンベイくん』がっ!」
お気に入りの駄菓子の名を叫ぶビキラ。
そして怒りにまかせて、回文を詠唱する食欲魔人ビキラ。
「ナイル鰐悪いな (ないるわにわるいな)」
具現化した巨大なナイルワニは、
「ひーーっひっひ。今度は誰を喰ってやろうかね?!」
とか喚きながら、逃げるムデッツを追って飛翔した。
「ん? 何かの気配が」
と、ムデッツが迫り来る危機に気がつくのと、その七メートルの巨体を活かして、ナイルワニが引ったくり犯に伸し掛かるのは同時だった。
ムデッツが背後からボディプレスされた拍子に、爆散する駄菓子たち。
「あああああ!『激ウマ棒アツシ』が、『くるくる麺吉』が、『チョコっと串ムサシ』がっ!」
宙に舞う駄菓子の破片を見て、的確に指摘するビキラ。
体を横に一回転させて、自分の下でセンベイ状になっていたムデッツを露出させ、食べようとするナイルワニを、指を鳴らして消滅させるビキラ。
遺体、あるいは消化された状態のおたずね者では、賞金額が下がるからである。
「お婆さん、ごめんなさい。せっかく頂いた駄菓子が」
と泣き崩れるビキラ。
「ハンドバッグもバラバラじゃ」
「ああ、あたしのハンドバッグにもサヨナラだわ」
食べられそうな駄菓子は残ってないかと、地面を探りながらビキラはつぶやくのだった。
(グッバイ、マイバッグ)
ぐっばいまいばっぐ
次回、第十三話「ポンコツ屋」の巻
果たして魔人ビキラがポンコツ屋で見たものは?
衣服を賭けて、ポンコツ屋のマスターと戦うビキラ。
勝負の行方はいかに?!
そして、子供の頃からのマスターの夢はかなうのだろうか?!
「魔人ビキラ」で使いにくそうな「回文」を、同サイトで、別のシリーズとして連載を始めました。
たいへん短い話のシリーズです。
回文ショートショート童話「のほほん」
よかったらそちらも覗いてやってください。




