表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/117

第八十三話「動物は走り鳥は舞う」の巻

  ある日の昼下がりの事であった。

「うん? お金を出せって?」

魔人ビキラは裏街道で盗賊団に出会い、険しい顔で(にら)み返した。


「すみませんな、昨日から、何も食べておらんもので」

  肩の上の古書が、申し訳なさそうに言った。

「気が立っております、ご容赦ください」


そこは林の中を走る薄暗い裏街道だった。


「そ、そんな事はオレらに関係ねえ!」

五人組の、リーダーらしい禿げ頭がキョドりながら叫んだ。

  その者たちは、全員が人間だった。

(そろ)いの黄色い作業服を着ていた。


「金がねえなら、売れそうなモノを置いていけ!」

「そのヒョウ柄の上着でもかまわねえ、ぬぬぬぬぬ脱げ!」

「ブーツも……、いや、裸足(はだし)は歩きにくいか。御免なさい!」


「この盗賊たち、お金になりそう?」

盗賊たちの言葉を無視して、自分の肩の上の古書ピミウォにたずねるビキラ。

「いや、残念じゃが、手配書には載っておらんのう」

  と、ピミウォ。


「お、おう。オレらは軍事政権復活団を辞めて、人生をやり直したばかりだ」

「まだ汚れを知らねえ、純真無垢な盗賊団でえ!」

(あわ)れと思ったら、何か置いて行きやがれ!」

  口々に叫ぶ中年男たち。


「ああもう、馬っ鹿じゃないの。なんであんな悪名高い団体を辞めちゃうのよ」

  今度はプンスカ怒り出すビキラ。

無名の盗賊団と軍事政権復活団では、、賞金額が違うからだ。


「な、なんでえ、何も知らねえくせに!」

「下っ端はコキ使われるだけで、もう、奴隷(どれい)扱いなんだぜ!」

「オレらに盗みをやらせて、幹部連中は豪遊だ!」

「アホらしくてやってられるかってんだ!」


「まあ、巨大組織の定番じゃなあ」

  と、ピミウォ。

「どうする? この純真盗賊団。そこそこ賞金が掛かるまで泳がしとく?」

  ひそひそ声でピミウォと相談するビキラ。


「いや、タチの悪い堅気(かたぎ)の旅人に退治されるのがオチであろう。今のうちに公番に連れて行った方が良い」

「更生プログラムを受けさせるのね?」

「うむ。こういう場慣れしておらん小悪党は、素直に仕事をするので評判が良いらしいぞ」


「素材が良いのね」

「復活団も見る目があると言う事じゃろう」

「うんうん。コキ使いやすそうな人と見て、引き込んでいるんだわ」


「お話中すまねえが、オレたち追われているんだよ。早く脱いでくれないか」

  盗賊団の禿リーダーがそう言ったところへ、

「見つけたぞ、馬鹿者ども!」

と大声が林の中に響いた。


何事ならんと周囲を見渡すと、裏街道の脇道を、数名の大男たちが走って来るのが木立ち越しに見えた。


「ひゃあ、追いつかれたあ!」

「助けてくれえ、旅のお嬢ちゃん」

  一転して、ビキラたちに駆け寄りすがる盗賊団。

「なんなの。金を出せと言ったり、助けてくれと言ったり」

「復活団が連れ戻しに来たんですよう」

  ビキラの後ろでぷるぷる震え出す盗賊団。


「小娘、そいつらはウチの組織の下働きだ。大人しく立ち去れば、見逃してやろう」

  と、ひときわ大柄な二本ヅノ二本キバが(わめ)いた。

高価そうな革製(レザー)コートを着ている。


「その小娘も連れて行って、女中にすれば良いのでは? ヌァーガ様」

手土産(てみやげ)がないと、うるさい大幹部もいますからねえ」

  二本キバの後ろのフェイクレザーたちが言った。


「ビキラよ、あの先頭の大男は、復活団の中幹部、ヌァーガじゃ。そこそこな賞金が掛かっておるぞ」

  ピミウォが知らせ、

「よしっ! 助けてやろう、人間ども」

  と、手を打って喜ぶビキラ。

「あなたたち、よくぞ逃げて来た。後はあたしに任せなさい」


「なんだと、ゴラッ! こちらのお方をどなたと心得る!」

「先の軍事政権復活団、万年中幹部のヌァーガ様であらせられるぞ」

「小娘っ、()が高い!」

凄んで進み出てくる五人のフェイクレザーどもに、ビキラは問答無用で回文妖術を射った。


「柿や桃で股焼きか (かきやももで、ももやきか?!)」


焼き柿、焼き桃が多数具現化し、大男たちの股に飛び込んで、したたかに焼け皮を押しつけた。

「うがあ!」

「あちちちちち!」

「キ◯タマが焼けちまうよう!」

道に倒れ、(もだ)え苦しむ大男たち。


「な、なななんだ小娘っ、オレ様とやろうってのかっ?!」

  ヌァーガがキバを()いて叫んだ。


「香りし尻をか (かをりししりをか?!)」


ビキラは再び回文を詠唱し、特大の香水ビンを具現化させた。

香水ビンはヌァーガの尻を狙って飛んだが、

「なんだ、こんな物っ!」

と、巨漢魔人は手刀でビンを叩き割った。


だが、香水ビンも負けてはいない。割られた首を振り立てて。ズボンの上からヌァーガの尻に突っ込んだ。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーーーっ!!」

尻の穴に突入して来た割れ香水ビンの痛さに、断末魔と言ってよい絶叫を上げる中幹部ヌァーガ。


その叫び声に驚いて、林に(ひそ)む動物たちが逃げ出し、何百羽という鳥が空に舞った。


こぼれて量を減らした香水ビンであったが、ヌァーガの尻から鮮血が(そそ)ぎ込まれ、ビンはすでに満タンになっていた。



改心したニワカ盗賊団が、ヌァーガたち復活団六名を公番へと連行している。

  もちろんビキラが付き()っていた。


「ほらほら、あなたたち天下の大悪党でしょ。もっとシャンと歩きなさいよ」

  ビキラは注文を付けるが、

「いやその、股がヒリヒリして……」

「オレ様は尻が(いと)うて……」

  と、弱々しく返事をする復活団。


「理不尽に下っ端の人間をコキ使っておいて、よくもそんな事が言えたわねえ」

  ビキラの言葉には容赦がなかった。

「本当の理不尽ってヤツを、あたしが教えてあげようか?!」

  ビキラの強気は、純真盗賊団に同情しての事であった。


「ご、ご勘弁(かんべん)を」

  悪党どもはヘコヘコと頭を下げて歩いた。

中幹部ヌァーガの尻には、まだ香水ビンが消えずに刺さっていた。


具現化の時間限界はもうそこまで来ていた。

(せん)の消滅した尻は、理不尽に血を吐くのかも知れなかった。

ビキラも驚くほど大地を()らすのかも知れなかった、しとどに。



(尻の利子) しりのりし!

(理不尽な汝不利) りふじんななんじ、ふり!!





「魔人ビキラ」本編、あと三話。

「ビキラ外伝」あと一話。

明日は、「ビキラ外伝」を、お昼の12時前後に投稿予定です。

ではまた、明日、「ビキラ外伝」で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ