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第八十一話「ああ、憧れの大幹部」の巻

「四天王は、あと一人くらい残っているんだっけ?」

  と、魔人ビキラが肩の上のビキラに聞いた。


「それがじゃな、ビキラよ。軍事政権復活団の四天王は、欠員が分かると補充されるそうなのじゃ」

「えっ。そ、そうなの? なんだ、全滅させられないのか」

「しかし『四天王』の看板は高額賞金じゃからな。補充されるのは有り難い事じゃて」


「それもそうね」

  ビキラとピミウォは笑い合い、街の歩道を歩き続けた。


そんなビキラたちを、遠くからうかがっている魔人がひとり。

軍事政権復活団中幹部のデッカスである。

「大幹部になりたければ、回文妖術師を倒せ」

  と命ぜられたのだ。


大幹部になりたい一本ヅノのデッカスは、ビキラたちの観察を続けていたのである。


(諜報(ちょうほう)班が調べ上げた「倒すべき回文妖術師」は、古本を肩に乗せた彼奴(あいつ)で間違いないようだな)


その少女は、立ち小便男を、

「出し尽くす靴師だ(だしつくすくつしだ!)」

  の具現化物で倒し、

タバコのポイ捨ておばさんを、

「キスの機嫌は反撃の隙 (きすのきげんは、はんげきのすき!)」

  と言う回文で具現化したキス師が倒した。


いずれの現行犯も、背後からいきなり襲われて倒された。

  その後、

「駄目じゃないの、そんな事しちゃ」

と、魔人少女ビキラが注意をする無法振りだった。


(くそう、()に乗りやがって)

(正義筋だからって、何をしても良い訳じゃねえぞ)

  デッカスはムラムラと悪漢感に燃えた。

しかし、マトモに行っても勝てそうにない。

(どうしたもんかなあ)

  と、考えながら追い続けて、もう三日が過ぎていた。


さすがに三日目となると、ビキラも自分たちを付けて来るデッカスに気がついた。

「あいつ、ストーカーじゃないの? ずっと、後を付けて来てるような気がするんだけど」

「そうじゃな。しかし、手配書にはない顔じゃ」


デッカスは、犯罪の補佐役ばかりやっていたので、手配書に載るほどの活躍はしていなかったのだ。

「猫背。一本ヅノ。顔面の三角ホクロ。変装しておるかも知れんが、該当する手配犯はおらんのう」


「平凡な灰色の作業服だしね。捕まえて締め上げる方が早いかしら」

「こちらの勘違いだったら、また賠償金を取られるがのう」

「うーーん。賠償金は痛いわねえ。無駄使いが(たた)って生活がまた苦しくなってるし」

「分かっておるなら、駄菓子を買うのは(ひか)えるのじゃ、ビキラよ」


「仕方ないわよ。あたしは駄菓子依存症なんだもん」

「いや、無駄使い症候群であろうよ」

「逃げちゃおうか?」

「うむ。逃げよう」


「その前に、街路樹の枝を折ったあの酔っぱらいを()らしめよう」

折った枝を肩に(かつ)いで、赤い顔をして千鳥足で歩く酔っぱらいに向かって、ビキラは回文を詠唱した。


「蝦夷鼬の痴態ぞえ(えぞいたちの、ちたいぞえ!)」


具現化したエゾイタチは、痴態を見せながら背後から酔っぱらいに襲いかかった。

酔っぱらいは痴態に巻き込まれ、あふんあふん(もだ)えながら、失神してしまった。


「だらしない犯罪者ねえ」

  と、ビキラが笑う。

その様子を見て、

「いや、これは(ひど)い。あんな奴を倒すのは、オレにはとうてい無理だなあ」

  と悟るデッカス。


そんな、石灯籠(いしどうろう)(かげ)に隠れてビキラたちを盗み見るデッカスを不審に思い、

「ちょっと良いですか? アナタ」

と、街の岡っ引きが声を掛けた。

「ひえっ?!」

  と叫んで振り返るデッカス。


そいつは、金ピカのちゃんちゃんこを着ていた。

  岡っ引きに間違いなかった。

「うわっ。岡っ引きだ?! ワタシは何もしていません」

  そう言って逃げ出すデッカス。


タックルで倒す岡っ引き。

デッカスは倒れた拍子に、三箇所を捻挫(ねんざ)した。


「あっ、岡っ引きに捕まってる。今のうちに逃げよう」

「うむ。逃げるのじゃ」


根性無しのデッカスは、こうして岡っ引きの尋問(じんもん)に屈し、べらべらと今まで関わった犯罪を暴露(ゲロ)するのだった。


これが後に、軍事政権復活団の凋落(ちょうらく)が始まったと言われる「デッカス事件」である。


デッカスは背徳暴露症候群だったのだ。



(残念三捻挫)

ざんねん、さんねんざ!!






明日は、たぶん「続・のほほん」を投稿します。

次回、魔人ビキラ、第八十ニ話「ジョン万次郎」の巻。

は、来週の金曜日に投稿予定です。

ジョン万次郎とは、あの、ジョン万次郎です。


ほなまた、明日。続・のほほん、で。

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