第七十八話「月見の夜」の巻
「お月様が綺麗ねえ」
砂浜で夜空を見上げ、十六夜の月を愛でる魔人ビキラ。
「月見に来たのではないが、美しいのう」
と古書ピミウォ。
「なに、田畑を荒らす怪物を倒せば、楽しいお月見になりますよ」
と、素浪人ププンハン。
海岸で盛大に焚き火をしているビキラ、ピミウォ、ププンハンの二人と一冊だった。
焚き火の許可は、自治体から取っていた。
夜の海から上陸してくる怪物を、退治すると約束したからだ。
「ではまず、私から」
と、海に向かって昔話・童話妖術を放つププンハン。
「アリとキリギリスと三万匹の子ぶた!」
だがしかし、
「くっそーー。全員、溺れてしまった」
と、肩を落とすププンハン。
「相手は海の怪物よ。もう少し考えて妖術を射ちなさいよ」
と言って、次はビキラが波打ち際に立った。
「悲しい気持ちキモい品か(かなしいきもち、きもいしなか?!)」
ビキラの詠唱に応じて、百本脚、五十本腕、二十五の瞳を持ったキモい品が具現化した。
「あんぎゃーー!」
海面上空に出現したキモい品は、雄叫びを上げて海に落下した。
全長、三十メートルはあった。
一度は海中に沈んだキモい品だったが、やがて浮上すると、長い長い五十本の腕を海面下に差し入れ、水中の怪物を探っている。
「勇ましいですねえ、キモい品」
と、ププンハン。
「見ていると、なんとなく悲しい気持ちになるけどね」 と、ビキラ。
と、やがてキモい品が、
「あぎゃっ、あぎゃっ!」
と奇声を発した。
「あっ、見つけたんじゃなかろうか。田畑を荒らす海の怪物を」
と、ピミウォ。
何十本もの鋭い腕に身体を刺され、海上に姿を現わす小振りなクラーケン。
「なーーんだ、怪物って、チビっ子クラーケンだったのか」
とは言え、全長十メートルはあった。
「ともあれ、陸に上げるのじゃ。ここまで運ばせよ、ビキラ」
「キモいの、こっちこっち」
ビキラに手招きされ、数十本の腕を身体に刺されて残りの腕で叩かれ悶えるクラーケンを持ち上げて、ざわざわと上陸して来るキモい品。
そして暴れるクラーケンを、盛大に燃え上がる焚き火に翳した。
「うおおーーん!」
熱いのだろう、墨を吐いて身をよじるクラーケン。
「あぎゃーーん!」
一緒に焼かれている腕が熱いのだろう。
キモい品も叫んでいた。
「ああっ、可哀想なのに美味しそう」
と、焼かれて目を剥くクラーケンを眺めているププンハン。
「いや、絶対、美味しいから。コレ」
と、生唾を呑むビキラ。
やがて良い匂いが辺りに漂い始める。
「三人で食べるには大きすぎるのう。どれ、ひとっ飛びして村の衆を呼んで来るとしよう」
夜空にピミウォが飛び立った。
「楽しい夜会になりそうねえ」
ビキラは嬉しそうに笑った。
ピミウォの知らせを聞いてやって来た村人たちは、六本の足と二本の腕をぷらぷらさせながら、
「イカだから、良いんじゃないか?」
「そうそう、ワシらとはちょっと違うじゃないか!」
とか話し合い、ご相伴にあずかる事にした。
彼らは、タコから進化したタコ人だった。
クラーケンはもはや叫ばず、じゅうじゅうと美味しそうな音を立てている。
キモい品はクラーケンに腕を刺したまま、明鏡止水の心境で、消滅の時を静かに待っていた。
虚空には十六夜の月。
賑やがで楽しいイカ食い夜会になった。
一句ひねる粋人たちも居た。
(イカ食い句会)いかくい、くかい!!
(イカ焼きだ奇夜会)いかやきだ! きやかい?!
イカ焼き抱き夜会 (いかやき、だきやかい!?)
にしたかったが、抱かせるのが難しかったので止めた。
キモい品に抱かせれば良かったかとも思う。
清書をしている時に政治家が、「明鏡止水」とかテレビで言ってたので、付け加えた。
特に問題はないと言うか、付け加えて良くなった気がした。
はずみって大事、と思った。
明日の土曜日も「魔人ビキラ」を投稿予定です。
時間は、夕方の5時前後になると思います。
第七十九話「廃墟の博物館」の巻。
最近に清書したので、覚えている作品であります。
在庫少なし! とずっと言ってるけど、第一部の最終話は、決まりました。やれやれどす。
ではまた明日、魔人ビキラ、で。




