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第七十六話「深夜の廃寺」の巻

(ねぐら)と決めた廃寺で眠っていると、夜中遅くに騒ぐ声が聞こえて目を覚ます魔人ビキラと古書ピミウォ。


「なんじゃ、また心霊スポット学会か?!」

「また奴らだったら、今度こそ本気で潰す!」

  安眠を妨げられ、怒り目で起きるビキラ。


携帯発光石の明かりを頼りに、声のする本堂の裏へ行ってみると、

「近所迷惑だからあなた、もう泣き止みないさ!」

と言う聞き覚えのある独特のエコーと(なま)りが、闇夜に響いていた。


「ナナちゃん?! 深夜に八月蝉(うるさ)いわよ」

  ビキラが暗闇に声を掛ける。


すると、闇の中に、パッ! と発光するものがあった。

屋根瓦付き自立型自販機、パーピリオン77が、LEDライトを点灯させたのだ。


「あら、ピキラんさ。どうしてこにこ?!」

  パーピリオンはビキラたちに向き直った。

商品見本(ダミーラベル)の明るい表示と、周囲を照らす内蔵ライト。

単眼(モノアイ)と四本の腕と太い二本の足を出して、ロボット体型になっていた。


「どうしてって、ここが今夜のあたしたちの寝グラよ」

「うお、さすが無宿人でねす」

「で、何を騒いでいるの、ナナちゃん」

「こいつがわんわん泣いて五月蝿(うるさ)いので、黙るように言い聞かせているんすで」

と、(かたわ)らの、そこそこな大岩をペンチ型の右手でコンコンと叩く自販機。


「えっ? わんわん泣いている?」

耳を澄ましても、自販機の発する換気ファンとヒートポンプの音と、周りに(ひそ)む虫の鳴き声しか聞こえない。

「泣き声、聞こえないけど……」


「へっ? こんなに七月牛蛙(うるさ)いにの?」

「人間の耳には聞こえない音域で泣いておるんじゃなかろうか?」

「人間の耳って、あなた古本でよす」

「うっ。聴覚はあいにく人並みでな」

「ピミウォさんはお爺さんだから、人並み以下でねす」

  容赦なく指摘するパーピリオン77。


「夜泣き石伝説は知ってるけど、だいたい囲われていたり、死ね縄が掛けてあったりしない?」

「しめ縄すで」

  容赦なく訂正するパーピリオン。


「その岩、なんで泣いてんの?」

「分かりまんせ」

「ナナちゃん、岩の寝かしつけに来たの?」

「わたしはほら、隠密(おんみつ)自販機ですから、(ひそ)かに夜廻りをしておりすま。たまたま泣き声が耳に入ったので、来てみただけすで」


「夜泣き石は、ムカウ列島津々浦々、夜中に泣くものじゃし、人や古本に聞こえぬのなら、捨ておいても問題なかろう、ナナさん」

「むうむ。一理ありまねす」

「夜泣き石は、泣いたり怪音を出したりしても、人を呪うとか人に(たた)るとか言う話は聞かないわよ」


「それどころか、人を助けた伝承があるのう」

「どうやって人を助けるんでかす?」

「辻斬りが潜んでおるとするじゃろう? そしたら、通り掛かる人に『気をつけろ、殺されるぞ!』と声を掛けて助けるのじゃ」

「泣いて止める話じゃないんでかす?」

「まあ、『石が声を出す』と言う話の派生(はせい)じゃな」


「勉強になりまたし。まあ、おひつと」

自販機(パーピリオン)はそう言って、取り出し口に小さな缶を二本落とした。

「『カフェイン取り過ぎに注意コーヒー』?!」

  缶を取り出して品名を読むビキラ。

「『高血圧、不整脈の誘発に』って書いてあるわよ」


「正直商品すで。カフェインの取り過ぎは怖いのすで。でも、ポリフェノールは身体に良いすで。って言えって言われまたし」

「何事もほどほどに、と言う話じゃな」


いつしか夜泣き石の話は何処(どこ)かに去り、コーヒーの健康効果談義に花を咲かせながら、廃寺の本堂で、一人と一冊と一台は眠りについた。



その後、廃寺は檀家の頑張りで寄付が集まり、奇跡的に建て直された。


夜泣き石はようやく悲しそうに泣くのを止めたが、その嬉し泣きも、人々の耳に届くことはなかったそうだ。



(夜泣き石生きなよ)

よなきいし、いきなよ!





夜泣き石のお話でした。

漫画で夜泣き石が人に(たた)る話を読んだのですが、調べてみたら、祟ったりしないらしいので、書いてみました。


明日は、一応、投稿を休む予定です。

桜がよく咲いていて、花見ですかな、明日の日曜日も。

大きなモクレンと一緒に桜が撮れて、ちょっと嬉しい一日でした。

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