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第七十四話「ヤジュウロウの得物」の巻

夕暮れの、寂しい路地であった。


あなた、そんな物をぶら下げて歩いていると、銃砲刀剣類不法所持で捕まるわよ」

灰色(モノクローム)(オノ)を手に下げている二本シッポの魔人に、ビキラは注意した。


その魔人が、古書ピミウォの内蔵する手配書にない事は、確認済みだった。


声を掛けられたブルーデニムのヤジュウロウは驚いた。

妖力迷彩によって、他人の眼には見えないはず、だったからだ。


手に持つ物を妖力で透明化する。

  それがヤジュウロウの妖術だった。

それを見破られては、ヤジュウロウは「何も無い物」になってしまう。


(殺そう、この小娘を)

  ヤジュウロウは短絡(たんらく)的にそう考えた。

物体を透明化する能力で、彼は今までほとんど暴露(ばれ)ずに沢山(たくさん)窃盗(せっとう)を重ねて来た。


(それが、この小娘のせいで大っぴらにバレるかも知れない)

(なに、不意を突けばこんな娘、わけはない)

  魔人ビキラに対する、ならず者のありふれた認識だった。


殺気を(ふく)らませ、斧を逆袈裟(さかげさ)に振るヤジュウロウ。


殺気も斧も見えているので、少し身体をひねって真剣白刃取りの要領で灰色の斧を受け止める魔人ビキラ。

  そのまま(ねじ)って斧を奪い取った。


「うあっ」

  激痛に思わず叫び声を上げるヤジュウロウ。

手を離すのが少しでも遅れていたら、ヤジュウロウは指を折っているところだった。


「あら、案外賢明ね。今ので指を怪我(けが)する人は多いのよ」

  奪い取った灰色の斧に、色が戻った。

ヤジュウロウの手を離れたので、隠蔽(いんぺい)妖術が解けたのだ。


「ほう。瑠璃色(るりいろ)斧刃(ふじん)(べに)色の柄腹。濡羽(ぬれば)色の柄背か」

  ビキラの肩に立つ古書ピミウォが言った。

「それなりに(こだわ)りがありそうな斧じゃのう。しかしそれで人を(あや)めては、折角(せっかく)の斧が泣くぞ」


「ひょっとしてこの斧、見えない斧だったの?」

「そのようじゃ、ビキラの視覚は少し曲者(くせもの)じゃから、見えたのじゃろう」

「そう言えばこいつの頬に、『極悪人』の文字が浮かんできたわ」


ビキラの言葉を本気にしたヤジュウロウは、思わず両頬を手で押さえた。

(案外、かわいい奴)

  と、ビキラに思われてしまう極悪人ヤジュウロウ。


「今までは、その物体を消す力でバレずに悪事を働いて来たようだけど、今日は相手が悪かったわね」


バレる時はバレていた。


最近も、自動販売機を壊して(ポン)を奪おうとしたが、その屋根瓦付きの自販機に反撃され、人間を盾にして(から)くも逃げのびたばかりだった。


「あたしの駄菓子(おやつ)(かて)となりなさい」

  そして、少し気になる点を口に出すビキラ。

「物を隠匿する以外に、どういう妖術を持っているのかしら? あなたは」


二重妖術師(ダブルクリエイター)は、稀有(けう)な存在である。

ビキラもまだ、九尾のキュウちゃん以外にその存在を知らなかった。


「へっ。てめえだって、金剛力以外の妖術はねえだろうが」

金剛(ばか)力は妖術じゃないわ」

  心外そうにビキラが言った。

「そんな事を言うなら、『ちょびっとセンベイくん』だったら、早食いでも大食いでも誰にも負けない自信があるわよ」


『金剛力は妖術ではない』

  と聞かされて、警戒を強めるヤジュウロウ。

だかしかし、

(こっちは手の内を知られちまったと言うのに)

(いや、ハッタリだ。小娘の青臭いハッタリに違いねえ)

  ヤジュウロウは、自分の都合(つごう)の良い方向に結論した。


(とは言え、あの金剛力。どう攻めたものか)

(持病の(しゃく)の術で行くか? いやあれは、爺婆(じじばば)以外には()き難いか……)

ヤジュウロウが、あれこれ迷っている間に、(しび)れを切らしたビキラが斧を持ったまま、回文を詠唱した。


「鑑定土器退いてんか (かんていどき、どいてんか!)」


ビキラの詠唱で具現化した鑑定待ちの巨大土器は、

「退けというなら、そちらに移動させてもらいます」

  と言って、そちらのヤジュウロウにのし掛かった。


土器の質量に押されて地面に倒れるヤジュウロウ。

  地面もそれなりに固い。土器も硬い。

固いと硬いに(はさ)まれて、比ぶれば格段に柔らかいヤジュウロウは、

「ぎゅっ」

  と言ってもろくも失神した。



手配書にはなかったが、前科がありそうな人物なので、公安署にヤジュウロウを突き出すビキラたち。


すると、

「ああっ、こいつだ!」

人相風体(にんそうふうてい)が報告通りだ!」

  と騒ぎ出す公安職員たち。


なんでも、屋根瓦付きの自立型機動式二足歩行自販機が、

「人間の眼には見えない得物(えもの)を利用して、自分を壊そうとしまたし」

  と訴えに来たそうだ。


(それは、パーピリオン77に違いない)

  ビキラもピミウォも、そう思った。

「ナナさんの電子眼は(だま)せなかったと言う事かのう」

「ナナちゃん、こいつ逃しちゃったんだ」

  感心の(てい)でヤジュウロウを見るビキラ。

「あなた、案外やるわね」


(この小娘、あの激ヤバ自販機の知り合いか? 分かっていれば相手をしなかったものを)

と、我が身の不運を今更(いまさら)(なげ)くヤジュウロウだった。


「狐耳に九本シッポのコスプレ娘が、『見えない斧を持って街をウロついている奴がいるから取り締まれ』と陳情に来たんですが」

  作務衣姿の公安員が言った。

胸と背に、丸印の中に「公」の文字がある。

  公安職員の「公」だ。


「眼に見えないモノをどうして分かったんだと、口論になってしまいましてね。追い返したんですよ」

  と、別の公安員が言った。

「イタズラ報告だと判断してしまって。失敗でした」

  とまた別の公安員。

「『人が死んでも知らんぞ』とか言ってたのが嘘臭くて」


「キュウちゃん、大人しく追い返されたんだ」

  と、ピミウォにささやくビキラ。

「人間が、いや狐が出来ておるのう」


「あの人、九本シッポでしたが、まさか本物の凶魔獣、九尾の妖狐って事はないですよね?」

「伝説に名高い大凶獣が、そんな小さな親切をするわけないじゃないの」

  と、ビキラ。

「政府は、随分昔に九尾の妖狐の死亡を、発表しておるしのう」

  と、古書ピミウォ。

「そ、そうですよね」

「それとも、政府の発表が(いつわ)りだったと、あなたは言いたいのかしら?」


「いえそんな、とんでもない!」

  小役人は慌てて手を横に振った。

周囲の小役人も釣られて手を振った。


「政府の発表は間違いないの。国の威信をかけて、言ってるんだから」

  カケラも思っていない事を放言するビキラ。

九尾のために。

「国を信じて働くのが、あたしら平民の義務ってもんでしょうが!」


ビキラの方便を聞きながら、

(さすが野良犬娘、堂々と空音(そらね)を吐くのう)

  と、改めて見直すピミウォだった。



(嘘で諸々も出そう)

うそで、もろもろも、でそう!





次回、「魔人ビキラ」は、

第七十五話「ポウエムの災難」の巻。

例によってまだ読み返してないので、ポウエムがわからん。

ポエムに引っ掛けてあるのは、分かるが。

なんでこんなツマラン名前にしたんだ?

一緒に昔のオレにあきれつつ、来週金曜日まで待て!


明日は、在庫ができたら、「続・のほほん」を朝のうちに投稿します。

ほなまた明日、続のほほん、で。

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