第七十三「悲しきスネイクン」の巻
「両手が蛇の頭か。特段、珍しくもないけど、そいつ毒蛇よね」
魔人ビキラは、寂しい裏街道で追い剥ぎに合っていた。
「そうだ。河豚を食べて毒性を高めてあるからな、お前らなんぞイチコロだぞ」
蛇革の衣服に身を包んだ追い剥ぎスネイクンが自慢する。
だが、実績が少ないので、低額賞金首であった。
「あいつ、噂の魔族じゃないんですか?」
ビキラの横に立つ、荒んだ顔の素浪人がつぶやいた。
「そう言うの止めて、ププンハン。魔人は魔族に進化するとか、根も葉もないデマだから」
「そうじゃ。純人間主義者らが流しておるプロパガンダじゃ。乗ってはならん」
古書ピミウォが上空から言った。
「共存もへったくれも無くなってしまうぞ」
ピミウォは、やがて始まるであろう戦闘を警戒しての上空を飛行中であった。
「命まで取ろうとは言わねえ、金目の物を置いていきな」
「金目の物と言えば、ビキラさんのヤミヤミヘビ革のインナーウェアとか、エテラモンテラ革のショートパンツとか、マニア垂涎の逸品じゃないんですか?」
「だっ、黙れププンハン!」
思わず横に立つププンハンの腕に噛みつくビキラ。
「いたたたたたた! 御免なさい、ついウッカリ」
「うっかりが過ぎるのよ、あなた! 分かってる?!」
「ヤメロ! 男女のじゃれ合いを見せるな! 俺様はこう見えても彼女いない歴二十五年だ」
「彼氏じゃないから、こんなオッサン!」
目を三角にして叫ぶビキラ。
「あの、私もロリコンじゃないんで。あっ、だから腕を噛まないでビキラさん」
「ジャレ合うなって言ってるだろ!」
我が身を振り返り、侘しくなって喚くスネイクン。
「私が先に攻撃していいですか、ビキラさん」
「いいけど、三万匹の子ぶたシリーズは駄目よ。相手を瞬殺しちゃって、見ていて全然面白くないから」
(えっ、三万匹の子ぶたシリーズ?)
界隈で名の知られた無法者が次々と、子ぶたの大群に倒された話を耳にしていたスネイクンだった。
(こ、こいつが? そう言えば、荒み切った顔。凶悪なバッドブラックのロングコート。剣呑なハザードレッドのデニム)
ごくりと唾を呑み恐怖を覚え、スネイクンは身を震わせた。
(やっ、やばい!)
「おっ、おっさん、お前は後回しだっ! うん。後で相手してやる」
(小娘を倒して、その隙に逃げよう)
スネイクンの作戦は完了した。
スネイクンは蛇の頭でビキラを指した。
「小娘から相手してやる」
「どうも」
と言うなり、回文を詠唱する魔人ビキラ。
「鳴き真似の寝巻きな(なきまねの、ねまきな!)」
詠唱に応じて、パジャマがワンワン泣き真似をしながら具現化し、スネイクンに巻き付いて、
ギュッ! と首を絞めた。
しばらくジタバタしていたが、程もなく気を失うスネイクン。
「うあ。瞬殺じゃない分、残酷……」
とのププンハンの言葉に、
「いや、このくらいしないと撥ね返されるかなと……、ああもう、凶悪そうな見掛けに騙されたわ」
と弁解するビキラ。
「もっとありふれた回文で倒せたのう」
ピミウォが舞い降りて来て、言った。
「弱いったらもう、もったいない事しちゃったわ」
「ありふれた回文て、なんですか? ビキラさん」
「そうね、たとえば、『ならず者の百舌らな』とか」
呟きに応じて、頬や額に刀傷をつけたモズたちが具現化した。
「で、どいつを仕置きするんですかい?」
リーダーらしいモズが、嘴を歪めて術師たるビキラにたずねた。
「なっ、なんで具現化してんの、アンタたち!」
ビキラは頭を抱えて声を裏返した。
うっかり呟いても具現化、寝言で言っても具現化。
回文妖術師の前途は多難なのだった。
(迂闊に使う)
うかつに、つかう!
「ならず者のモズらな」を見て、
「平す者のモスラな」と言う回文を思いついた。
モスラが出て来て、そこら辺を地ならしするのだ。
モスラを出す方が有名だしインパクトがあるかも知れない。
でもそれは、「有名」にオンブした安易な案かも知れない。
楽なんだけど、「有名」を使うの、かも知れない。
そんなこんなで、明日も「魔人ビキラ」を投稿するかも知れない。
第七十四話「ヤジュウロウの得物」かも知れない。
ヤジュウロウとは何者?! 読み返してないので分からない。
しかし、面白いかも知れない!
わたしと一緒に、期待しましょう、そこのアナタ。




