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魔人少女の日常と捕り物控え

賞金稼ぎをなりわいとした魔人少女ビキラの、日常と捕り物。

頼りの相棒は、寝て食べて空を飛ぶ古書ピミウォ。

少女の武器は、丈夫な身体と妖術「回文」。


四百字詰め原稿用紙十枚以内(理想)の、一話読み切りショートショート連載物。

第一話「魔人少女は危険だろう」の巻


ここは日本によく似た国、ムカウ共和国である。

軍事独裁政権が倒されても、ムカウ列島に騒乱が絶えることはなく、「負」の毒素が撒き散らされていた。

そのために、今もヒトビトの魔人化、ケダモノらの魔獣化は続いているのだ。


主人公のビキラもご多分にもれず、大昔の戦乱の毒素によって魔人化した少女だ。

ビキラは職業を「賞金稼ぎ」と定め、魂を宿した古書ピミウォと共に、おたずね者を駆逐するために列島を彷徨(さまよ)う。

身につけた妖術「回文」を武器として。



タイ焼き器が名産のとある街で、クレイジーレッドの革ジャンにスラックス。

加えて、モヒカン刈りの頭、長い長いドジョウ髭など、精一杯ワルぶった魔人を見つけたビキラは、

「あなた、おたずね者のアニャンよね」

  と声をかけた。


モヒカン男は振り返り、ビキラのヒョウ柄ジャケットにロングブーツ。

黒革のショートパンツという姿を確認して、

「なんたよ、イケイケ小娘」

  と言った。

「今、おたずね者とか言ってやがったが、オレぁまだ、そこまで出世してねぇよ」


「シラを切っても無駄じゃ。これを見い」

  ビキラの肩に立つ古書ピミウォが、自分の体を開いた。

古書のページには、公安署で配布している手配書が、どっさり写してあるのだった。

「この痴漢の常習犯、おさわりのアニャンとお主の人相がウリふたつじゃ」

開いたページに表示されているヘンタイ男を、しおりヒモでぺしぺし叩くピミウォ。


「いや、オレの名前はソウゲンだぜ」

  悪党を気取ってはいるが、痴漢はイヤなちんぴらだった。


「名前なんか、なんとでも言えるじゃないの」

  何度も偽名を使ってきたビキラが鼻で笑う。


「モヒカン刈り、仙人の如きドジョウ髭、そしてなによりひたいから生えておるステーキレッドの一本ヅノ! 言い逃れ出来まいが、おさわりのアニャン」


「オレ、そこまで悪党じゃねぇし」

  ピミウォの開いたページを指し、

「そこまで男前でもねぇ」

  と正直に言うチンピラ。


「お前の言い分はよく分かった」

  ビキラは問答を打ち切り、回文を詠唱した。


「母上うはは (ははうえうはは)」


魔人ビキラの妖力が渦巻き、うははな母上となって具現化する。

アルテミットピンクのワンピースに、デスホワイトのエプロンを付けた若いおかあさんは、実体化するなり、

「うははははははは!」

  と高く笑った。

     ハイテンションな若妻だった。

手にサバイバルナイフを握っていた。

  刃渡り三十センチはある業物(わざもの)である。


「ビキラよ、アレはどういうイメージじゃ?」

具現化した仮初(かりそ)めの若妻が気になって、肩の上のピミウォがたずねた。

  世捨て人の魂を宿したサビ色の古本である。


「昔に読んだ『アウトローおかあさん』ていう小説をヒントにイメージを育てたんだけど」

  と言いながら首をかしげるビキラ。

「イメージしてたのと随分違うわねえ」


頭の中で育てたイメージと、具現化物体の印象が食い違うことは、よくある話であった。

まして、同じ詠唱は二度と使えぬ妖術の摂理(せつり)のため、試し射ちが出来ないのだから。


「こいつ、女性の敵なんでしょ?」

若妻は大きなナイフを縦横に振って鋭い音を立てながら、術師ビキラに確認した。

「ヤっちゃって、いいわよね」

  と。


「いや、コロすのは駄目じゃ。賞金額が下がるでな」

「承知。では、半分コロす。で」

「ま、待てよ! オレは痴漢なんてしてねえぞっ」

「手足を切り落とされてもそう言えるかな?」

  アウトローな若妻はナイフを()めた。


「今どき拷問かよ?! 独裁時代じゃねぇぞ。禁止されてるだろうがっ」

  チンピラは逃げたかったが、

(逃げたら背後からヤられる)

       と思うと、動けなかった。


そんなところへ、呼子(よぶこ)をぴりぴり鳴らしながら、太った男が駆けて来た。

ワークブルーの作務衣(さむえ)に金ピカのちゃんちゃんこを羽織っていた。

ちゃんちゃんこの胸と背中に、書体で「岡」の黒文字がみえる。

腰ベルトのホルスターには、(ふさ)のない十手が差してあった。


「こらっ、ソウゲン。また下らぬ悪さをしでかしたかっ!」

  市民の通報でやって来た岡っ引き、オダムだった。

一人で。しかもただの人間だ。


話を聞けば、魔人化する前の子供時代から、このチンピラを知っている人物であった。


「むう。人違いであったか。面目ない」

  古書ピミウォは素直に(あたま)を下げた。

「だから言ってんだろうが、最初からっ」

仕方なく、ビキラは、ぱちん! と指を鳴らして妖術を解き、うははな母上を消した。


人違いがはっきりして、急に元気になるチンピラ、ソウゲン。

「こいつら捕まえてくれよ、オダムさん。オレを殺そうとしたんだぜ」


「いや、ソウゲン。こんな悪党にそっくりなお前も悪い」

  ピミウォの開く手配書を見て、岡っ引きオダムが言った。

「そのモヒカン頭とドジョウ髭をやめろ」


「これがオレの個性だよ。個性は大事だろが。子供の頃に、あんたに言われたぜ」

「ワルぶっても、海岸や公園のゴミ清掃をしてるのを、わしは知っているんだぞ」

「うるさい。あれは腰を痛めた隣の婆あの代理でやってるだけだっ」

「だいたい、チンピラの何が楽しいんだ、ソウゲン。いつか大怪我をするぞ」

「怪我じゃねぇ、殺されそうになったんだよ、こいつらに!」

「失礼なことを言って申し訳な……、あっ、いない?!」

「畜生、逃げやがったな」



「危なかったわねえ。やっぱ、人違いはヤバいわね」

「久しぶりにやらかしてしもうたのう」


ソウゲンとオダムが会話に気を取られている隙に、一目散に逃げ出したビキラとピミウォだった。


「問題は、おさわりのアニャンよ。あんなチンピラにそっくりだなんて」

「うむ。見つけたら、ただではおかんぞ」


程もなく、アニャンを捕えたビキラたちは、近くの公番に突き出した。

  そこには(くだん)の岡っ引き、オダムが居た。


「すごく抵抗したんですね。よれよれじゃないですか、そいつ」

八つ当たりをされ、ぐったりしているおさわりのアニャンを見て、オダムさんは言った。


その後、ビキラたちは近くの雑貨屋で、名産のタイ焼き器を買い求め、公番に差し入れ、改めて先日の逃走を()びたのだった。


「おお。これは良い品だね。さっそく焼いてみるよ」

  オダムさんは嬉しそうにそう言った。



(タイ焼き焼いた)

たいやきやいた


ナンセンスな話にお付き合い下さいまして、ありがとうございます。

こういうモノしか書けませんが、一話完結形式で、週にニ、三話は載せていきたいと思っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アウトローな点では一致してそうな「母上うはは」、ビキラのイメージ通りだとどんなものが具現化されていたのか‥気になります! これからも更新を楽しみにしています。
[良い点] 登場人物がみんな良い味出てるキャラクターばかりで面白かったです
[良い点] 回文での魔法が色々想像できて楽しい。なかなか単純に楽しく読めるのを書くのは難しいと思うのだがそれに成功してると思う。 次回も楽しみにしている。 [気になる点] カタカナが苦手です。この先よ…
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