表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女(あるいは聖女)と騎士の六百年  作者: ノワール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

Episode37 聖女シャーリーと英雄ステイオンの伝説

 遂に南北に、亜人解放戦争を終わらせる王が生まれた。


 北にドラクレア帝国。初代皇帝アクティレーン・フィード・フォン・ドラクレア。

 南にアステリード王国。初代王ヴィクトーリ・ヴァイス・ラ・アステリード。


 特に、ドラクレア帝国は北の小国を数多く吸収し、ブロッネーリなど神聖ティーリアン帝国の血や文化、価値観を色濃く引き継ぐ「亜人差別国」を直接打倒し、実質的な亜人解放戦争を終わらせる国である。


 とはいえ、ドラクレア帝国はこの時建国されたわけではない。アクティレーンは大陸平定時に建国すると宣言しており、この時は北方の小国同盟の総大将という肩書であった。そして、亜人差別国は強大であり、北の同盟軍だけで簡単に打ち倒せる敵ではなかった。南部をアステリード軍がしっかりと抑えていたから成し遂げられたことである。


 その南北の同盟を結んだのが、歴史に名高い聖女シャーリーであった。


 シャーリーは大陸の各地を回り、多くの亜人や人々をステイオンと共に助けながら旅をした。そしてヴィクトーリに王になるよう促し、聖女マリネアとの友誼から、アクティレーンとも親交を持ち、ヴィクトーリとの同盟を提案したとされる。


 天竜暦三百七十九年のある日、アクティレーン総大将とヴィクトーリ王がリスタード王国にて会談し、同盟締結の調印をした際も、会談はシャーリーが進行し、その後ろには英雄ステイオンが立っていた。


 そして亜人差別国へ、南北同盟軍は大攻勢をかける。

 その先陣はステイオンだ。


 ステイオンは雷のような速さと鋭さで敵陣に斬り込み、多少の傷などものともせず、嵐のように敵陣を蹂躙したという。その圧倒的な武威と高潔な精神は騎士や兵士たちの間で語り継がれ、英雄として後年まで語られることになる。

 そしてドラクレア帝国軍の騎士や兵士が傷を負っても、聖女シャーリーの祈りによりたちまち傷が治り、ほんの半刻で戦線に復帰したと言われている。

 その慈愛に溢れた微笑みと献身は見た者全ての心に焼き付き、聖女の中の聖女としていつまでも歴史に名を残すことになる。


 戦争は苛烈を極めた。

 中央のいくつかの大国における亜人差別は根強く、民間人も含めて多大なる人間を断罪した。それでも平民の中で比較的亜人に寛容な者たちは許されたが、敗戦国の王族や貴族は一切生かされず、例外なく粛清された。国土は割譲され、結局はドラクレア帝国とアステリード王国で大半は統治することになり、大陸の大部分は二国で占められた。





 百年戦争、あるいは亜人解放戦争と呼ばれ、ドラクレア帝国やアステリード王国が建国を果たした戦争についての史料は非常に少ない。


 三百三十年代が特に戦禍が酷く、戦乱は魔法世界全土に及んでおり、あらゆる町が焦土となった。その頃に文化、技術などの継承が途切れてしまった為と言われている。同時期に飢饉や流行病もあった為、戦争には直接関わっていないグレーイルでも人口は激減し、史料の紛失や流出が相次いだ。


 内陸部は、天竜暦の紀元前後は約三割という非常に高い識字率を誇り、高い文化水準、生活水準、技術水準があったと言われているが、戦争によりその史料のほとんどは失われ、人口も約三割まで減ったと言われている。


 ドラクレアと同時期に設立した紅龍連邦は政治体制こそ百年戦争の頃から続いているが、この地域では元々文字の文化がなかったこと、また内陸部からの侵略を跳ね返す武力を持っていた代わり、植民地化などもされなかった為に文明的な遅れがあり、やはり歴史的史料に乏しく、口伝がいくつか残るのみである。


 また、同じ頃科学世界側でも天竜の災害により大陸全土が焦土と化したため、奇しくも同じ時期に歴史の空白が生まれたのであった。


 これを機に、全世界的に、数百年に渡って非常に生活水準の低い文明が続いていくこととなり、そこからの発展が今日の、科学と魔法という全く違った二つの体系を持つ世界が一つの惑星に混在する状態を作っていくこととなった。


 この頃、中立圏は非常に文明の遅れた原始民しかおらず、歴史の空白を知る者はもはや大魔女と女神しかいないと言われている。

 しかし大魔女は"世界の傍観者"であり、あくまで観測するのみ。過去現在未来、多次元宇宙まで見通すと言われる彼女だが、そういった歴史の裏側について口を開くことはほとんどない。


 戦争の末期に活躍した英雄ステイオンと聖女シャーリーについても、公的な記録はほとんど残っていない。

 ただし、初代アステリード王ヴィクトーリに王になるよう諭した逸話や、最後の戦いでの華々しい活躍など、多くの伝説が今も伝わっており、それらを取りまとめた結果、ある程度の通説は魔法世界の共通認識となっている。

 ステイオンについては、グレーイルに伝わる歌物語や、現在のアイザにあるレーシュトという町に伝わる伝記など、年代の違う伝記がいくつかあり、別人の話が混同されたと思われる為、年齢や出自について、今も未解明となっている。


 また、戦争終了後のステイオンとシャーリーの足取りはほとんど残っていないが、とある伝承では数十年後にステイオンが永眠したとされ、そばで添い遂げたシャーリーには"ステイオンが死す時も若く美しいままだった""黒髪赤目の美女だった"と伝えられている。その為、大魔女と同一人物なのではないかと議論された時代もあった。しかしこれは後に、大魔女アルトラヴィクタ本人によって否定されており、聖女シャーリーは白銀の髪と黒い瞳だったと証言した。


 時を経ると共に様々な解釈が生まれ、歌劇や本、果ては科学世界で漫画やアニメに至るまで、長く長く語られていく物語。その真実は闇の中だが、数千年を経ても伝わる伝説には、人々の心を捉えて放さない何かがある。

明日の21時に更新のエピローグで完結となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ