Episode33 天竜暦368年 王と騎士の邂逅
ヴィクトーリは仲間とともに北上し、亜人解放軍との合流を目指した。
戦乱が続き、疲弊したこの時代に、二百人を超える集団の衣食住を突然受け入れ、賄える村や都市など存在しない。
出発時に兄や領民が集めてくれた資金を消費しながら、狩りで何とか食いつなぎながら移動する。とはいえ、速やかに合流しなければ立ちいかなくなるのは目に見えていた。
それでも数ヶ月をかけ、リスタードの南にいたシェラクと、やっとの思いで合流を果たした。
元々、シェラクが将軍に就いていたのは南方同盟という、中央より少し南の、いくつかの小国で構成された同盟軍であった。
単に戦力に劣る小国達が、中央の、当時勢力を伸ばしていた国への対抗策として発足させた。
そして戦力増強の為に亜人を徴兵し、その指揮を亜人の中で当時から英雄的存在だったシェラクに任せた。
やがてシェラクの大隊は勢力を増し、小国が戦乱で崩壊した際に独立し、亜人解放軍を名乗り始めたのである。
従って、解放軍はどこの国にも属しておらず、ただ亜人を助ける目的で行動する。
その資金はリスタードを中心とした、いくつかの亜人に協力的な国々と、そして大陸全土の亜人達の協力で賄っている。
とはいえ、普段から職業軍人として生活できるわけもなく、普段は各地でそれぞれの仕事をしている。
「君が王となるのなら、我々もその国民にしてほしい」
会ったばかりのシェラクにそう言われ、ヴィクトーリは困惑した。兄が色々と話を付けてくれていたが、まさかいきなり、同盟どころか自分の傘下に入れてほしいなどと言われるとは思っていなかった。
そこへ、美しい白銀の髪の女が現れた。白い衣を着ており、まるで白の女神ヴィータのような、神々しい女である。ヴィクトーリは一瞬で心を奪われた。
「あ、あんたは?」
「私は女神の神託を受けた聖女、シャーリー。ヴィクトーリよ。王の器を持つものよ。貴方はここより北東に、国を興しなさい」
「北東に?そこに何があるんだ」
「肥沃な土地と鉱山があり、グレナ川も通るところです。今は亜人への圧政を敷く醜悪な王が収めています。貴方が打ち倒し、新たな国を建てるのです」
「それは、神託か?」
「いいえ。けれど、貴方が王としての一歩を踏み出すのに、これ以上の場所はない」
「なぜそう言い切れる?」
「かの国がある土地は中央の要所だからです。あそこを抑えれば、貴方達と亜人解放軍の戦力なら国の形を保てる。それに、元々亜人が多かった土地です。彼らを解放できれば、戦力としても北に対抗できるようになります」
「私の見立ても同じだ。そして、この聖女シャーリーは王の現出を見通していた。シャーリーが見出した王になら、付き従うのに何の異論もない」
結局、ヴィクトーリは言われるがままに、北東の小国に攻め込むことになった。
何もしないままでは立ちいかなくなることが目に見えていたし、聖女と英雄に強引にお膳立てされてしまっては、逆らう力もなかった。
しかし、そんな思いは敵国の調査報告書を見れば吹き飛んだ。
この戦乱の時代にあって、肥沃な土地を有することは大きな利となっているが、その恩恵に預かるのは一部の特権階級のみ。人間の平民はそれでもまだ何とか生活できているが、亜人の奴隷の生活は酷いものだった。
シャーリーによると、元々亜人が多かった地域らしい。その大人数の亜人を使い捨てるように、国の防衛に戦わせ、周辺国への侵略に使い潰し、まるで虫けらのように扱っていたのだ。
そのやり方は卑劣極まりなく、まずは亜人の家族の一人を人質に取り、理不尽な命令を押し付ける。そして人質にした亜人も別な土地で使い潰す。手紙などのやり取りは許されず、人間が知らせてくれる嘘の報告だけを励みに、亜人達は戦う。そうして引き裂かれた家族達が再開できることはほとんどなく、多くの場合は嘘にすがりながら死んでいく。
ヴィクトーリは報告書を握りつぶした。
「こんなことが許されていいはずがない。すぐにでも腐った貴族や王族を討ち取ってやる!」
「貴方ならそう言うと思っていました」
「とはいえシャーリー、勝算はあるのか?俺は戦の指揮はほとんど経験がないんだ」
「大丈夫です。シェラクをそばに付けるので、指示は彼に。そして、戦いが始まれば、こちらには切り札がいます」
「切り札?」
「私の護衛騎士です。シェラクの若い頃にも劣らない、一騎当千の騎士です」
「そんなやつがいるのか。まぁ、あんたがそう言うなら任せるよ」
ヴィクトーリには戦いにおける騎士の才能もなければ、指揮官としての才能もなかった。しかし、彼には類い稀なる王の資質があった。
即ち、人を見抜く力である。
幼少時には神童と言われた程の、高い知能を持つヴィクトーリだが、帝王学などの教育は受けておらず、政治的手腕も基本的には持ち合わせていない。
戦乱の世にあって戦いで名を馳せる王でもなく、平和の中で政で輝く王でもない。
しかし、彼はまず人を見抜いた。
彼が「任せられる」と判断して誰かに何かを任せた時、その結果に失敗はなかったと言われる。
そして、彼から向けられるその信頼と、そして彼自身の人柄により、彼が見抜いた人々は死ぬまで忠誠を全うする。
また、柔軟な思考で戦にしろ、政治にしろ、時に部下に気付きを与え、齎される結果を数倍にもする知見があったと言われている。
王の中の王、ヴィクトーリは自分で何かをするわけではなく、王らしく全てを人任せにしたが、彼ほど部下を輝かせる王はいなかったと言われている。
ヴィクトーリはシェラクの将としての器を見抜き、シャーリーの偶像としての資質、未来を見通す力を見抜き、そして護衛騎士ステイオンの武威も一目で見抜いた。
「ふむ。頼もしい限りだな」
そう言って、本陣にどっかと構えたのであった。
天竜暦三百六十八年。
後の世に大国アステリードの王都となる小さな国が、大陸中央に生まれた。
元は亜人を弾圧する小国の都だったその町では、亡国の王族、貴族は苛烈なまでに粛清され、女子供に至るまで、その血筋は断罪されたという。




