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魔女(あるいは聖女)と騎士の六百年  作者: ノワール


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Episode30 天竜暦363年 抗えない死

 魔女と会ってから三年が経った頃。僅か十三歳で、シャーリーは村を旅立った。


 聖女の力を見せて人々に教えを説き、味方を増やしながらの旅だった。


 まずは海沿いに南に行き、それから北上して南の英雄シェラクに会う。さらにリスタードなどを経由して北まで旅をする。味方の勢力を増やし、特に亜人への迫害の厳しい大陸中央部から北部にかけてを迂回し、北の英雄ラムザとも会う。亜人解放の勢力を増やし、南北から挟み撃ちにして中央を平定し、戦争を終わらせる。終戦時には亜人の人権を各国に認めさせる。


 シャーリーが描く計画はそんなところだった。長い長い旅になるはずだった。魔女に死を予告されたが、膨大な神力をその身に宿すシャーリーはそう簡単に死ぬことはない。神力により病気もしないし、怪我は一瞬で治る。首を一瞬で落とされるようなことでもされなければ、首の皮一枚でも繋がっていれば死ぬ前に治癒できる。

 恐らく計画を実現させる前後に、力が発揮できない何らかの理由と共に自分は死ぬのだろう。そう思っていた。





 そして旅立ってからニ年目。十五歳の時である。


 南の海で、水竜オレアラに出会った。普段は遠い遠い海の沖合にいる竜であり、姿を見られるのは非常に幸運なことである。シャーリーは志を同じくする旅の仲間と足を止め、その偉大な雄姿に見とれていた。


 この時、オレアラは魔女が天竜を呪った影響で歪んだ海を鎮めるため、人には見えない海の魔素を操り、抑えようとしていた。歪みの影響は大きく、水と海を司る竜といえども完全に抑えられてはいない。他の竜も同様である。風竜も、火竜も、そして地竜も。


 オレアラが雄叫びを上げた時、地震があった。大きな地震である。

 シャーリー達は立っていることもできず、揺れる大地に翻弄されるがままだった。この大陸では全土で地震があり、シャーリー達も体験したことはあったが、この時の震度は未知のものだった。その原因が地竜にあることなど、分かる者はいない。


 大きな揺れが収まったあと、シャーリー達は高台に逃げようとした。海の近くに住んでいた為、津波の危険性を知っていたのだ。しかし、その津波の大きさは想像を遥かに超えるものだった。

 走って走って山を目指すも間に合わず、津波がすぐそこに迫ったその時、シャーリーは魔女の言葉の意味を理解した。


「皆さん、絶対に足を止めないで!」


 叫び、シャーリーはその場に跪いて、祈り出した。祈りに魔素が反応し、大地はせりあがり、木々も固まって津波を押し返さんとした。波そのものも祈りを受け、前ではなく上へ立ち上り始める。


「無念…!でも、悔いはありません!」


 神力をありったけ注いで祈り続ける。しばらくの後、シャーリーの祈りにより津波は引いた。沿岸に住む人々に被害はあっただろうが、被害は最小限に抑えられたはずである。


 シャーリーはその場に倒れ込んだ。自身の魔力、周囲の魔素、全てを限界まで操った結果、神力と生命力の枯渇により、その命の灯は消えようとしていた。逃げた仲間はすぐには戻ってこられないだろう。遺言を残したいが、それも叶わないようだ。


 そこに、かつて出会った魔女が現れた。傍らにはいつか遠目に見た騎士もいる。


「…だから言ったのに」


 魔女は悲しそうな声でそう言って、シャーリーの身体を優しく抱き上げた。


「そうですね。でもいいんです。私は全力で今を生きました」

「そうね。…ごめんなさい、あたくしの力をもってしても、あなたをこの運命から逃がすことはできなかった」

「別にいいですけど、死ぬ前にどういうことなのか聞いても?」

「あなたも感じている通り、今この世界には様々な歪みがある。土地の歪み、海の歪み、魔力の歪み、運命の歪み…あなたは本当は、戦い抜いてこの戦乱の世を終わらせる真の聖女。けれど、その運命も歪んでしまった。天竜を呪った悪しき魔女の作った、最大の歪み。あなたはあの村を出てしまえば、どう生きてもこの日この時間に死ぬ。そういう強い歪みが、あなたに集約してしまった。あたくしにもどうにもならない、大きな歪み」

「…偉大な魔女さん。あなたにもどうしようもないのなら、『本当』がどうであれ、これが私の運命ということなんじゃないですか」

「でも、あなたが死んでしまえば、その瞬間に世界の終わりが『正史』になり、この世界は消去され再構築される」

「…そんな…」

「だから…あたくしが引き継ぎます」

「…どういうことですか?」

「あたくしがあなたの姿になり、本来あなたがするべきだった全ての偉業を代わりに成し遂げます」

「わお、そんなことができるんですね」

「…許してちょうだい。あなたを救うこともできないのに、あなたの功績だけかすめ取ろうとするあたくしを」

「…そんなこと、思いませんよ。だいたい、わざわざ私に言う必要ありました?それ」

「恨んでいいのよ。あたくしのこと」

「いいえ。私はここで死ぬ運命だったんです。それなのに、あなたが私の名前で、私の顔で、私のしたかったことを代わりに成し遂げてくれる。悔しいですけどね。自分の手でしたかった。でも、いいんです。それは、私の想いがあなたを通じて、皆を幸せにするってことだから」


 レイアはシャーリーを強く抱きしめた。


「あなたのことは、遠い遠い未来まで、人々の記憶に残ります。あたくしの知る、最も偉大な聖女シャーリー。あたくしがこれから成す全てのことは、あなたの功績なのです。あなたにしか出来ないことなのです」

「…それ、は…最…高の…誉め言葉ですね」

「ゆっくり休んで。何も心配することはないの。あたくしが、きっと全てをうまくやるから」


 シャーリーはその言葉に僅かに微笑んで、息を引き取った。


「…オレアラ」


 ほんの僅かなさざ波もなく、水竜オレアラが海からすうっと浮かんできた。

 レイアはシャーリーの遺体を浮かせると、オレアラの頭に乗せる。


「どこか、静かな…綺麗な海で眠らせてあげて」


 シャーリーが息を引き取っても、世界は消去されていなかった。レイアの想いと覚悟が女神に伝わっていたためだろう。


 遠ざかるオレアラが見えなくなった頃、レイアはシャーリーの姿に変身した。ここからは、迂闊に魔術を使うこともできない。

 シャーリーにあった神力とレイアの魔力は本質的に同じものであり、その総量はレイアの方が遥かに大きい。

 シャーリーがいくら生まれつき膨大な神力を宿す聖女であったとはいえ、長い時を生きるレイアには及ばないし、また、それを扱う技量は比べるものもない。


「ここからが正念場、か?」

「そうね。シャーリーが…()がこの大陸を平定する鍵になる。あとは大陸中央で王となる、二人の男がいれば、この戦乱は終わらせられる」

「そうか。吾輩は何をすればよい?」

「騎士として、私の守りを」


 こうして、聖女シャーリーと英雄ステイオンの伝説が始まった。


 それまで歴史の裏側を歩いて来た二人が、最初で最後に表舞台を生きる物語は、古代の魔女シャーラクレイア・ヴェリチアーデ・アルトラヴィクタと古代の聖騎士ステイオン・ド・ゴーリ・ブラーシュの話ではない。


 大聖女シャーリー・リュミエレルと、流れの騎士ステイオンの伝説である。


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