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魔女(あるいは聖女)と騎士の六百年  作者: ノワール


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Episode28 天竜暦339年 南北の英雄

 変わらず戦乱が続く中で、東大陸の戦いは徐々に、亜人の人権を謳う亜人解放勢力と、人間至上主義勢力の争いの様相を呈していく。


 大陸の南側、リスタードを中心とした亜人解放勢力には一人の英雄がいた。シェラクである。

 小国群に生まれた亜人の男は三十代を超え、その武威は円熟の極みに達し、アレイオンから受け継いだ将の志は、シェラクの指揮官としての才能を開花させている。


 シェラクは南側の乱立する小国や勢力をまとめ、亜人を含めた人々の人権を勝ち取り、大陸を平定せんと戦い続けていた。


 グレーイルは食料などの支援こそ多少はしてくれるが、戦力を出す余裕はなく、小国群は東地域の安定の為に紅龍王国などが全力を尽くす中、シェラク率いる南方同盟は必死に戦っている。しかし、大陸の北側の大半は亜人を奴隷として扱っているままであり、その戦いは厳しいものだった。


 そんなシェラクの元に、一人の青年が現れる。


「あなたが南方同盟のシェラク将軍か?」


 青年は二十代ほどの亜人だった。白い髪と黒い体毛、黒い尻尾。精悍な顔付きで、一眼で鍛え抜かれていることが分かる。

 その手には槍を持ち、腰には変わった形の短剣がある。

 シェラクは知らなかったが、それはグレジュ族の伝統的な武器だ。


「だとして、何用か。其方は?」

「突然ですまないが、手合わせ願いたい」

「何者か知らないが、名乗りもしない者の相手をするほど、私は暇じゃないんだ」

「グレジュ族の勇者、ラムザだ」

「…聞いたこともないな。なぜ私と戦いたいんだ?」

「俺は北の大陸で最強の戦士となった。この大陸で最強の男と戦いに来たんだ。誰に聞いてもあんたの名前を言われた」

「最強、か…。私に勝ったら、どうなるというんだ?」

「二つの大陸で最強の勇者として、先祖に報告する」

「…帰りたまえ。そんな下らないことに付き合っているほど、暇じゃないんだ」

「下らないものか!問答無用!」


 ラムザはシェラクに襲いかかったが、あっさりと返り討ちにされた。それはもう見事なまでに簡単に叩きのめされ、それも手加減をされていた。

 北の国で、父ギロトにも認められたはずの強さを身に付けたはずだった。しかし、シェラクとの間には想像も付かないほどの隔絶した差があった。

 ラムザの誇りは粉々に打ち砕かれ、呆然と大地に転がった。


 一方、シェラクはラムザの秘められた才能に感嘆を覚えていた。

 今は荒削りだが、若い頃の自分すら凌駕するかもしれない才能を感じたのだ。


(なんと勿体ない)


 だからシェラクはラムザに問いかけた。


「強くなりたいか?」


 答えを聞き、シェラクは手紙を持たせた。

 ラムザはリスタードに行き、既に老人となったアレイオンの元で修行をすることになる。


「その騎士は、本当にシェラクよりも強いのか?」

「強いとも。シェラクでも、そして私の全盛期でも、全く足元にも及ばないよ」


 アレイオンはラムザにステイオンの話をたくさん聞かせた。その高潔さを、その強さを。

 やがてラムザもシェラク同様、ステイオンから受け継ぐ騎士道に感じ入り、一人の騎士として成長して行く。





「姉さんは何でもできたんだ。母さんに似て頭が良くて、次期女王として誰もが認める人だった。俺は出来が悪くてさ。腕っぷししか自慢できるもんがなかったんだ。だから強い奴を見たら、片っ端から戦いを挑んでた」

「ふ。シェラクにもそんな時期があったな」

「師匠にはあったのかい?」

「私は…若い頃は色々な物に縛られていてな。お前達の自由さが羨ましいくらいだよ」

「自由、か。…本当はさ、父さんが俺を北大陸で最強って認めてくれたのもさ。厄介払いがしたくて、こっちの大陸に行かせる為に言っただけなのか、なんて思ったりもしたんだ。俺が戦う相手がいなくなった時、急に人間でも強い奴がいるって言い出したから」

「グレジュ族の強さというのを私は知らないけどな。今もそう思うのか?」

「グレジュ族にも、アイザが戦う敵国にも、俺より強い奴はいなかった。だから、嘘ではなかったと思う。でも、こっちに本当に俺より強い奴がいると思ってたのかは、分からないな」

「お姉さんやお母さんはなんと?」

「姉さんは、好きにしなさいって。次期女王として勉強とか忙しかったし、俺に興味なかったんだよ。母さんは…世界は広いよって。見てきなさいって、言ってたな」

「お前の家族はきっと、お前に自由にさせたかったんだ。広い世界を見て、色々な体験をして、好きに生きさせたかったんだ」

「そうなのかな」

「修行が終わったら、会いに行ってみるといい」


 数年の修行を経てから、アイザに帰ったラムザ。彼は後に北の亜人を連れ、東大陸の北端に亜人解放勢力を立ち上げる。


 北の小さな漁師町から戦いの狼煙を上げたその勢力は、凄まじい勢いで大陸中央まで勢力を広げ、ラムザは亜人解放戦争の中期における英雄となった。


 北のラムザ、南のシェラクとして吟遊詩人の歌になり、語り継がれていく二人の英雄。特にラムザは聖女シャーリーや英雄ステイオンの伝記にも登場することから、非常に有名となる。

 シェラクの名前は歴史学者の間でしか知られない程度であるし、その二人が兄弟弟子であることや、師であるアレイオンのことは、後の世ではほとんど知られていない。


 アイザの二代目女王であるレーザは、初代女王セレクィタより英才教育を受けた。女王に即位してからは、アイザ王国を拡大し、北大陸の大半をまとめ上げた。北大陸における亜人の権利向上にも大きく貢献し、君主制から共和制に変遷するまでに、世界史上で最も権力を持った亜人だったとされる。


 アイザの初代女王であり、『亜人解放の母』と言われるセレクィタは、差別の根深い北の大地で平等を掲げ、多くの亜人を味方に付け、レーザの治世の土台を作った。また、体内魔力、即ち『心威』を使った古代魔術の衰退が著しいその時代において、その後の『魔素』を使った魔法の基本となる理論を作り上げたのもセレクィタである。

 アイザが長らく閉鎖的な政策を取ることで、百年戦争後の南の大陸では、魔法の発展は非常に遅れたが、天竜暦千年頃にアイザがレングテックを通じてドラクレア帝国と国交を回復してから、魔法学はセレクィタの魔法理論のお陰で大きな発展を遂げた。

 また、北の大国アイザ王国の獅子王レーザを産んだことは間違いないが、一部にはラムザも、セレクィタの子であるとする説がある。

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