表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女(あるいは聖女)と騎士の六百年  作者: ノワール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/39

Episode23 天竜暦313年 勇者と女王

「で、どうするの?」

「どうって?」


 シアの問いに、セレクィタは首を傾げた。


「どうやってグレジュ族を味方にするのよ。考えてないの?」

「別に。最後はステューが戦って、分からせればいいだけだし」

「他力本願は感心しないわね」

「私に味方してくれる人がいるなら、それも私の力。使えるものを使うだけ」

「それはいいけどね。でも、今回はお勧めしないわね。貴女についてこさせるには、貴女の力を認めさせないと」

「その方がいいのは分かってる。最終手段があるから気楽なだけ」


 それから、セレクィタの行動が始まった。

 まず、それまでに観察していたホロロ鳥や雪魚の生態を分析し、効率の良い罠や狩りの仕方を開発。屈強なグレジュ族の戦士達よりも短時間で多くの獲物を仕留めて見せる。

 さらにレプノも観察し、分析を進める。レプノを狩るのに罠や毒は使ってはいけない。グレジュ族にとってレプノは神聖な女神の使いであり、戦士が正々堂々と槍と短剣で戦い、勝った場合のみ食べることを許されるのだ。


 セレクィタはギロトに案内を頼み、数日間レプノを近くで見させてもらうと、付近の地形を見ていった。


 ある日、セレクィタは背中の部分を赤く染めた外套と剣を持ち、成獣のレプノに相対した。足には木の滑り板を取り付けている。バンジェの毛を裏に張り付け、前へ進む際は滑り、後ろに下がろうとすると毛が雪に引っ掛かるようになっている。この毛により、下る際は俊敏に滑り降り、登る際もすばやく歩くことができるのだ。これはグレジュ族ではなく、メル・アイザに古くから伝わる道具である。


 セレクィタはレプノに近づくと、背中を見せた。するとレプノは興奮し、セレクィタを目掛けて突進してくる。セレクィタは滑り板で斜面を滑り、速度を調節しながら追いかけさせる。そしてレプノが十分に加速し、追いつかれそうになった時を見極めて急激に方向転換をした。

 レプノの前足は短く、坂を登る際は速いが、下る際に急停止や方向転換ができないのだ。獲物を見失ってつんのめり、体勢を崩したレプノの前を横切り、首を斬りつける。体力は劣るが、幼い頃からメル・アイザの男達に混じって狩りに出ていたセレクィタは、剣の腕もそれなりにある。

 二度、三度と同じようにして、遂にレプノを一人で倒すことに成功したセレクィタは、その場で女神に祈りを捧げ、生き血を飲んだ。


「これで私はグレジュ族の戦士と対等ね」


 村に獲物を持って帰ると、グレジュ族の男達は驚きに包まれた。毛皮をほとんど傷つけることなく、首元のみの切り傷しかないなど、グレジュ族の一番の勇士であるギロトでも難しい。それを小柄なメル・アイザの少女がやってみせたのだ。


「本当に、これをあの少女が一人で?」

「本当だ。このギロトが保証する」

「いったいどうやって」

「俺には分からん」

「レプノは赤い色を見ると興奮して追いかける習性がある。茶色いホロロ鳥の中に、たまに赤い体の奴がいるでしょう?あれが前にレプノの近くを飛んだ時、興奮して追いかけていたのを見た。そしてレプノは前足が短くて、勢いよく下ると止まれないし曲がれない。体勢を崩させれば、狙って首に一撃を入れていく程度なら、私でもなんとかなる」


 ギロトは感嘆した。そういったレプノの習性は知ってはいたが、こうも見事に利用してしまうとは。それも、たった数日の観察で、習性を見抜き攻略法を考え出したのだ。尋常な智ではない。そして小柄な少女だというのに、それを実行する度胸。


「族長殿。今一度聞きたい。強さとは何ですか?私は強者か?」


 その場にいた誰もが、初めて来たときのやり取りを思い出していた。


「私がその気になれば、あなた達もこのレプノ同様に仕留めることもできる。強い者に従うと言うなら、私に従ってほしい」


 この物言いにはグレジュ族の男達の意見も割れた。多くの男達は、奇妙な道具や赤い色を使った狩りは戦士の戦いとは言えない、従って強者ではないと否定した。女達の多くは、非力な種族のさらに非力な女でありながら、それを工夫で補い見事に勝利したセレクィタを称えた。

 あちこちで言い争い始めたグレジュ族をまとめたのは、族長ではなくギロトだった。


「我らも(クグリ)短剣(アッキリ)を使うであろう。あの滑り板も外套も、それと同じ。罠も弓矢も毒も使わず、一対一でレプノを仕留めたのだ。見事な勇士であることに疑いはない」


 一族で最も強い勇者にそう言われれば、誰も反論ができない。続いて族長が言った。


「良かろう。セレクィタ殿に力を貸す。しかし、他の氏族は知らぬし、我らにも生活がある。貸せるのは百名の戦士だけだ」

「それでいい。ありがとう」


 実のところ、他の氏族は氏族の勇者に頑迷な者が多く、決してセレクィタには従わない。何故かシアがそう断言するので、セレクィタとしてはギロト達の助力さえ得られれば良かった。

 シアの言葉を裏付けるように、ギロトや族長から聞く他の氏族の話は、恐らく皆殺しにあっても多種族には従わないだろうというものだった。





 あの日、あの時のセレクィタの美しさを、ギロトは忘れられない。


 ギロトだけが、あの戦いを見た。

 小柄な少女が巨大なレプノを翻弄し、踊るように雪の上を舞い滑り踊るように剣を振るったあの姿を。

 そして、屈強なグレジュ族の勇士達に囲まれながらも、堂々と自分の方が強いと言い切る様。

 あの時、ギロトはセレクィタに惚れた。その気持ちは、男尊女卑の種族だと言うのに崇拝にも似ていた。自分の物にしようだとか、そんな気持ちはない。

 ただどこまでも付いて行ってみたい。彼女の見るものを、全て一緒に見てみたい。ギロトはそう思ったのだ。





 ミシテット王国への戦いは圧勝だった。北の雪山からの進軍に対して防衛陣を敷いた王国軍の横腹を突いただけだが、ギロト達グレジュ族の戦士達の強さは一騎当千で、王国軍はがたがたに崩れた。街に近いところまで戦線を押し上げれば、あとは時間の問題だった。


 わずか一月の戦いで、セレクィタ達はミシテット王制を打倒し、レーシュトを支配下に置く。


 そして、様々な亜人を平等とする多民族国家、アイザ王国の樹立を宣言したのだった。

 この小さな国は、数十年で北の大陸の大部分を占める巨大な帝国になる。その数十年は過酷な戦いの連続だが、女王セレクィタの直下部隊であるグレジュ族部隊は常に最前線で戦い、女王に勝利を捧げ続ける。

 やがてセレクィタが退位し、死んだ後も、グレジュ族の忠誠は変わらずアイザの女王に捧げられる。


 その忠誠の理由は、グレジュ族に伝わる歌やメル・アイザの民の口伝によって、現在まで語り継がれている。


 グレジュ族に伝わる歌は、初代女王セレクィタを称える内容だが、聞きようによっては、グレジュ族の勇者の恋の歌にも聞こえると言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ