Prologue 紀元前115年 誕生
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少女は祈っていた。
ここは世界で最も信仰される『ヴィータ教』の総本山たる、グレーイル聖王国の大聖堂だ。
多くの人々が見守る中、数年前に女神の神託を受け、聖王より聖女に任命された少女は、一心に祈り続ける。
類稀なる魔力をその身に宿す少女は、人でありながら、既に人を超えた存在とされていた。
多くの国が領土を争い戦争をしている、弱肉強食のこの大陸において、その力は生身で一国をも凌駕する。
故に彼女の周りには人が集まった。
庇護を求める弱者から、彼女を利用しようとする魑魅魍魎まで、色々な人がいた。
女神から特別な力を与えられ、ただ人々を一人でも救けたいと祈った純粋な少女。
しかし、周囲の様々な思惑が少女の祈りを歪めていった。
救うべき人を救えず、ただ利権に翻弄される日々。
いつしか少女の心に闇が生まれていた。
(くだらない、くだらない。私のやることなんて、何の意味もない。女神様は何を考えているの?)
もはや信仰心も擦り切れている。
(くだらない。くだらない!)
そして少女の心が闇に呑まれきったその時…。
その強大な魔力は変質した。
祈り続ける少女を見守る人々は、誰一人として気付かない。
少女の祈りは続いた。
しかし、今やそこにいたのは人ならざるもの。
女神に仇なす『大いなる魔女』が生まれた瞬間だった。
同じ時、遠い異国の小国にて。
とある騎士が戦っていた。
類稀なる高潔な精神と、強靭な肉体を持つ騎士だった。
圧倒的な戦力差たる敵国に対し、人数でも装備でも練度でも劣る小国の軍を率い、たった一人で戦力差を覆す勇者。指揮を取れば自軍を必ず勝利に導く、一騎当千の騎士だった。
敵を殺して殺して、殺し切ったとき、騎士は遂に力尽きて膝をついた。
自分が死ねば、その武力によって何とか保たれていた祖国は滅びる。
それが分かっていつつも、しかし己がもう死ぬと理解した、その時だった。
目の前に女神が現れた。
『最強の騎士たる貴方へ、神託を授けます。魔女を滅ぼしなさい。今よりあなたは女神のしもべたる聖騎士なり。先ほど、強大な魔女が生まれました。世界を乱す魔女です。あなたはこれより老いず、死なず、戦い続けるのです。魔女を討ち果たした時、その魂は天上へと導かれ、我の祝福を授けるでしょう。いつの日か来たるその時まで、戦いなさい』
こうして、『不老不死の聖騎士』が生まれた。
女神に見出された、魔女の仇敵が生まれた瞬間だった。
二人はまだ顔も、名前も、相手のことは何も知らない。
しかしこの時、どちらかが死ぬまで殺し合う宿命が定められた。
二人が最初に邂逅するまでに、数十年の時を要した。