楓が盗った!!
“やんちゃ”なJK達のお話です。
朝の慌ただしい自転車置き場
遅刻すまい!!と自転車を爆こぎして来たワタシは…その屋根の下、本来の私になるべくハンドミラーを覗き込んで身だしなみを整える。
ガコン! ラックに自転車を突っ込む音がして目をやると…黒髪ストレートの“ツルペタひょろ長”がよろけていた。
『クラス委員楓』だ。
いつもは朝一に来て教室掃除をしているこの子が“門限”ギリなんて珍しい…咎めだてしてやろうかしら
ワタシの一瞥に気付いたのか、この子、慌ててお辞儀した。
「お、おはようございます」
相変らずのキョドり様は朝からウザいが…自転車から手を離すとロボットのようなカニ歩きを始めたのでちょっといじりたくなった。時間も無いのに…
「変な歩き方! どうしたの?」
『クラス委員楓』は真っ赤になって俯いた。
「途中で自転車が縁石に乗り上げて…サドルにぶつけてしまったんです…それで…」
「ああ、それで遅刻しそうになったんだ! あ、やべ! 私先行くね!」
楓なんか捨て置いてワタシはさっさと教室に向かった。
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ワタシらがだべっていると楓がようやく教室へ入って来た。
しかし皆、一瞥もくれない。
始業前の人だかりをよけながら楓はロボットカニ歩きで自分の席を目指して行く…と、“あの”伊織様が声を掛けた。
「大丈夫?」
楓はその名前の通りにまで真っ赤に顔を染めてしきりと頷く。
そうよ! “見め麗しさ”はクラス1を自負するワタシ、この亜季を差し置いて!! アンタなんか伊織様から声掛けされるなんてミラクルなんだからねっ!
心の中で睨みつけていると伊織様は楓に何か耳打ちした。
「えっ!? どうしたの?」
いつもとは違う“様子”に…
目の前で私とだべっていた真姫がいつの間にか“耳ダンボ”している。
真姫と目で会話した美紀がスススと後ろへ下がる。
ピロン!
ワタシのスマホが一声鳴いてタップすると真姫からの“ブラインドタッチメッセ”だった。
『後で話す』
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11月ともなれば3年はルーフバルコニーからは殆ど“卒業”で…特等席は我々2年の占領下だ。
風も無く陽射しの温かい中、ワタシたち、『亜季・真姫・美紀』はランチミーティングを開催していた。
「見たでしょ!“これ見よがし”のガニ股歩き!!」と美紀
「あ~あれね! アイツが自転車でドジって恥骨をサドルにぶつけたらしいよ! どんくさいねえ~!」
「バカッ! それはアイツの嘘!! 仕方ない 亜季にも話すわ! “肉弾戦”の事…」
「なにそれ?」
「月曜に修学旅行のオリエーテーションが体育館であったでしょ! ワタシらその前の時間は体育でバスケだったから、そのまま体育館に残ってるコ、結構居てさ、楓もそのたぐいだったの。もっともアイツの場合はボールの後かたづけって大義名分で…男子のサッカーボールまで片づけしてた…もう一人のクラス委員の伊織様とね」
「それは…やむを得ないなあ…」
「やむを得ないじゃないわよ!! 楓のヤツ!!伊織様とイチャコラモードになってさ!」
「えっ?! ウソでしょ!!」
「ウソじゃない! ワタシも見てた」と美紀
「アイツ、“ツルペタ”じゃん! それを良い事にノーブラしててさ! その胸元に抱きかかえていた強炭酸のレスカを爆発させたの!!!」
「そう! 酸っぱい青春、大爆発!!」
「茶化すな!美紀!!」
「そうよ!!伊織様にかかったらどうするの!!?」とワタシ
「心配するのはそこじゃない!! 楓の体操服は半透けでさ!! ツルペタにくっついている“かさぶた”が“透け見え”した」
「エロエロだぜい!」
茶々を入れる美紀を真姫は睨みつける。
「美紀!! んっと!怒るよ!! …それだけでもあざといのにアイツ、慌てふためくフリして体操服の裾をたくし上げてひょろ長お腹を丸見せにして、服の裾でレスカのかかった伊織様の腕を拭いたの!!」
「お腹の上の“かさぶた”も顔出した!」と美紀
確かにコイツ…面白がってる…しかしこの事態!! ただ事ではない!!
「で、でも、それとロボット歩きの何が関係するのよ!」とワタシ
「私がさっき聞き取った二人の会話を再現するね」と美紀が口真似をする。
伊織様 『楓って! マスクの下 色っぽいんだね』
楓 『私、目も一重だし地味で味気ないでしょ? でもくちびるはふんわりしているから…せめて少しでも自信を持ちたくて…マスクの下で、こっそり艶出しルージュを塗ってるの! でも伊織くんだけです “私”をお見せするのは…』
「えええっっ!!!???」
私は思わず大声を出した。
「奈美ちゃん情報では『昨日、二人は手を繋いで街中へ消えていった』そうで~す!」
真姫は大きくため息をついた。
「親友のアンタになら…と伊織様をあきらめたのに…あんな奴に寝取られるなんて!!」
「えっ??!! そんな! まさか!!」
「何言っての! アイツ今朝から大げさに“初めて”アピしてんじゃん!! いくらなんでもあんなに痛いワケないじゃん!」
「―ん~そうね!比べてみると…直後はサドルの方が痛いかも…」と美紀
『「えっ?!」』
私と真姫はハモってしまった。
美紀は『しまった!』って顔で言葉を続けた。
「とにかく! ほら!こういうことわざがあるじゃん『オトコはいつだって“最初の”恋人になりたがる』って!」
「それ、ことわざかあ~」と真姫
「そうだそうだ」と言いながらも私はアハハハと泣き笑いして二人に慰められた。
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憂さ晴らしにと真姫・美紀に『カラオケへ行こう』と誘われ、ワタシたち三人ははっちゃけた。
真姫が『兄ちゃんから奪って来た』というフラスコスキットル入りのボンベイサファイアを…ドリンクバーで強炭酸にブレンドしてソフトクリームをのっけたメロンソーダーにドボドボ入れる。
ストローでくるくるかき回して一口飲むと
ガツン!とした舌ざわりだ!!
カラオケのコントローラーを手にした美紀がその液晶を見る。
「次、亜季だよね~!えっ?! この曲?!」
イントロが流れ
ワタシはウィンクして立ち上がる。
ステージに立ち
ウェストを折り返し折り返して際まで裾上げした制服のスカートをひらひらさせ、マイク片手に踊ってみせる。
「~欲しいものは欲しいとー言った方が勝ち!!!」
サビを思いっきり調子っぱずれに怒鳴った後、
「ゲフン!!」とゲップにエコーを掛けて
慰めてくれた二人を笑い死にさせた。
そう! ワタシが下品になるのは今だけ!
“見め麗しい”ワタシは…男のコの前では決して!!
下品なマネはしないんだからっ!!
ツルペタひょろ長の楓のモデルは私自身ですが…『現役の頃、このくらい腹黒かったら、もう少し明るい青春だったのに!』と後悔しきりです(笑)
ちなみに私は“色っぽいくちびる”ではございません(-_-;)
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