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3 勇者殺し

俺の放った渾身の一撃は秋葉の千鳥足の体裁きであっさりと躱されてしまった。


「おいおい、威勢よく向かってくるからどれだけのもんかと思ったら……ヒック。カスじゃね〜か。ゴブリン以下のゴミだな。ヒック」


秋葉が俺に向かって剣を一閃したのが目に入ったので、ほぼ勘で剣を動かして防いだが、剣が触れた瞬間、巨大な岩がぶつかって来たのかと錯覚する程の衝撃が走り、俺は五メートル程も吹き飛ばされてしまった。


「がはっ……ううっ」


全身が砕けたかと思うほどに痛い。

勇者の一撃を初めてくらったが、これ程か。しかもあいつは酔っ払って酩酊状態に近い。

それでこれなのか。

俺の二年間はあいつの一撃を耐えるだけに費やされたのか?

悔しい……。この理不尽な世界は何だ? 

何であいつが、あのクソ野郎が俺よりも強いんだ。


俺に力があれば。

力さえあればあいつを倒せるのに。

力が欲しい。

心の底から勇者を倒せる力が欲しい。

だが現実にはどれだけ渇望したとしても、力が手に入る事は無い。

俺は既に力が入らなくなった身体を無理やり立たせて秋葉に向かう。


「さすがによ〜。一撃で死んでくれると食後の運動にもならね〜から、もうちょっと頑張ってくれよ。ヒック。ゲームでもここまで弱い敵はいね〜。スライム以下じゃね? ヒック」


ゲーム? スライム? こいつ何を言ってるんだ。こいつも勇者特有の意味不明の単語を並べているが、俺はまだやれるぞ!

秋葉がフラフラこちらに向かって来たが、千鳥足にもかかわらず異常に早い。


「ゲハっ……ハァアッ……」


秋葉の蹴りが見えなかった。蹴られた瞬間俺は再び吹き飛び、多分肋骨が何本か折れた。

こんな酔っ払いのクソ勇者に一撃も見舞う事が出来ずに俺は死んでしまうのか。

ああ……ごめん。

俺は二年前に命を絶ってしまった二人に謝る事しかできない。

あれほど復讐を、勇者を殺す事を誓ったのに、もう出来そうに無い。

俺は剣だけはなんとか手放す事なく、地面を這いずりながら、秋葉へと向かって行く。


「ああ〜動いたせいで酔いが回って来たぜ。俺もよ〜、ヒック。人間を殺した事ね〜んだよ。これで他の奴らにも自慢できるぜ。ヒック」


そういいながら秋葉が向かって来た。

もうここまでか……


「おおっと……」


秋葉が、地面に這いずる俺を仕留めるために剣を振るってきた。這いつくばった俺を狙い低い位置まで振るうために必要以上に大きく振りかぶったせいで振り下ろす瞬間に、酩酊状態の秋葉はバランスを崩し、そのまま俺に覆いかぶさるように倒れて来た。

その瞬間、俺の手にしていた剣に重みが加わる。


『ズブリ……』


剣から俺の手に肉を貫く感触が伝わってくる。


「ガハァ! こ、この村人が……こ、この俺に。勇者様に……ガ……ア……ァ……」


やがて剣を伝って俺の手に感じていた秋葉の脈動が停止する。

その瞬間、俺の全身が燃えるような痛みを発して変化した。


「ガァアアアア〜な、何だ! グウウウアアアア〜」


全身の血液が筋肉が沸騰して燃えているような感覚。実際に筋肉と骨が軋むような音を発している。

何が起こっているんだ?

数十秒? いや数分にも及んだかもしれない痛みが収まると、俺の身体が変化しているのが分かった。

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