21 蒼花の力
小柄の蒼花が弾丸のようなスピードでトロールに向かって行く。
こいつもしかしたら俺よりも速いかもしれない。
俺の敏捷数値は五百を超えている。
完全な初期状態で俺よりも速いとは、やはり勇者侮る事は出来ない。
蒼花はもしかしたらスピードタイプなのかもしれないがトロールとはすこぶる相性が良く、トロールは緩慢な動きから重力級の一撃を放つが、蒼花が完全に速度で勝り避け切っている。
そして『風切り』による風の刃を振るう度に触れたトロールの皮膚が裂け肉が裂けた。
正直剣捌きはなってない。ただ力任せに振るうだけ。完全になまくらな一撃だが、『風切り』によって纏われた風の刃が鋭さと威力を圧倒的なまでに引き上げて、鋭い必殺の一撃へと昇華している。
「反則だろ……」
技術や鍛錬を完全に凌駕する圧倒的なスキルとそれを可能とする絶対的なステータス。
やはりこれが勇者。
これほど頼りない蒼花ですら戦いの場では絶対的な存在。
時間が経てば俺では倒せなくなるかもしれない。
今なら『ブレイブスレイヤー』の力で俺が優っている。今なら殺れる。
トロールと戦う蒼花の姿を敵に見立てて追う。
スピードはあるが、動きが雑で大きい。
ステップを刻むわけでもなく、ただ単純にスピードを持って移動して避けているだけ。
剣も当たれば敵を鋭く裂いているが、距離感が曖昧なのか空振りも多い。
俺なら蒼花の戦闘経験の浅さをつき『アイスブリッド』で牽制して懐に入ると同時に一気に仕留める。
「リュートさ〜ん。倒しましたよ〜。初めて倒せたのです。やりました〜」
俺の考えていることなど完全に無視するように、蒼花の気の抜けた声が聞こえてくる。
「ああ、全然ダメだが、まあ勝ててよかったな」
「このモンスターの死体はどうしたらいいんですか?」
「魔石を回収するんだ。おそらく心臓のあたりにあるはずだ」
「リュートさ〜ん、無理です。無理なのです。私魚を捌いたこともないんですよ。こんな化け物無理です〜」
「朱音……こいつやる気はあるのか?」
「リュートさん、女の子にとって魔石を取り出す作業は凄く大変なんです。私だって未だになれないんですよ」
「そうは言ってもやるしかないだろう」
「リュートさ〜ん、お手本をお願いします」
「……今回だけだぞ」
「はい、お願いしま~す」
俺は渋々トロールから魔石を取り出す。
「うううっ……グロいです。私無理かもです」
「次からは自分でやれよ。俺はやらないぞ」
「せめて半分お願いします」
半分って一体なんだ。
蒼花は相変わらず魔石を取り出すたびに大騒ぎをしている。
そして戦闘以外の時は虫に大騒ぎしている。
正直うるさい。
本来モンスター討伐はもっと緊迫感を持って臨むべきものであり、こんなに騒いでいる奴を見たのは初めてだ。
真面目にやる気があるとは到底思えないが、それでも既に三匹のモンスターを倒しているのだから侮れない。
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