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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドッペルアバター

作者: 裸形炉

「ハナト・セゲ?」何気に見つけたオンラインゲーム。小学生の頃、クラスの誰もが必ずといっていいほど、オンラインゲームをしていた。クラスと言っても直接は一度もあったことは無い。その昔、人々は″争いに明け暮れていた″国同士、仕事、学校、人と人が触れ合えば必ず″争い″は起き″不幸″が起きる可能性も低く無かった。そんな中一つの思想が生まれる″人と人の直接の接触の禁止″勿論そんなもの認められなかった。″出会いが無い″子孫繁栄しないとの意見もあったが………遺伝登録と人工胎盤の開発でコンピュータで選ばれた最適な男女の組み合わせで″勝手に子供を創り育てる″システムの開発が成功する。両親の顔と名前は判るものの、一生その親と会うことはない、与えられた部屋という監獄から出ることはない。全てのことはAIが教えてくれる。生活に必要な物も全て揃っている。外との接触は自らを介したロボットが行う。一生、誰とも″直接会うことなく生を終える″そんな世界だ。ハナト・セゲ、そんなタイトルのゲームを小学生の時分遊んでいた。懐かしい響きどのくらいやりこんだのか覚えていない、確かサーバーのメンテナンスが多くなりログイン出来なくなる日が続いたので………いつからかやらなくなった。ふと思い出しアクセスしてみる。あれから10年…………サービスは終了しました。そんなオチを頭で思い浮かべながら………しかし″ハナト・セゲ″しぶといというか着々とユーザー数を増やし″一億人突破キャンペーン実施中″のバーナーが大きく目に付く。驚くなんだこれ、確か部屋の端にあるダンボールの中身を引っ張り出す。これでもない、あれでもないといつの間にか部屋の中はゴミ箱とかす。あった!1枚のメモを取り出す。そこにはメールアドレスと暗証番号が記してある。そのメモを見ながら″ハナト・セゲ″のゲームを始める。ログイン画面へ″引き継ぎますか?″を迷いなく選ぶ″メールアドレスと暗証番号を入力プリーズ~♪″音声ガイドの指示に従い打ち込むものの次の瞬間目を疑う答えが帰ってくる。″このアカウントは使用されています″…………はい?はい?アクセス出来ないでも確認出来ないでもない。使われている?あぁーもやめやめ最初からなんてやってられるか。電源を落としベットへ…………クソ、クソ、やっぱり腹が立つ。数年間とはいえ人生の一部を費やしたモノが誰とも判らない奴に使われている。そう考えただけで頭に湯気が上がる。再び電源を入れ″ハナト・セゲ″のベージへ今度は引き継がず、最初から始める。″ではアバターの選択へあなたは男性それとも女性″変わり映えしない質問………だが″女性″を選ぶ前と違うモノを選びたいそのあとも昔と変わらない質問数を答えアバターが完成する前は″戦騎″″男性″″小柄″にしている。なので真反対の″秘導″″女性″″大柄″にした。大きな街に転送される。懐かしい「変わってないじゃん」つい言葉が漏れる。ここに来た理由は一つ″ルゥ・アーフ″乗っ取られたであろう自分が使っていたアバターの名前だ。もうすぐ一千万ダウンロード記念が開かれるというバーナーを最後に見ていたからユーザー数はあれから十倍か、その時不意に声をかけられる。「そこの彼女~♪オレらの″囲所社″にドゥーヨ♪」囲所社……この世界におけるギルド、騎士団みたいなもの。基本このハナト・セゲには大きく分けて″戦騎″と呼ばれる傭兵と″秘導″と呼ばれる魔術師の二つが存在する。ユーザーは必ずどちらかに所属する。魔力を持つか持たないかに分けられる。無論魔力を持つ方が有利だと思われるが″攻撃魔術は戦騎には効かない″この大前提があり、秘導を選んだ者は身体能力が低く幾ら経験を積んでも身体能力は向上しないのだ。声をかけた男の横を無言で通り抜けようとする。だが数人の別の男たちが行く手を遮る「つれないなー、あんた初心者だろ?この世界では囲所社に入んないとなーにも出来ないんだよ。だから俺らの″囲所社に登録って事で″」男の肩に乗せた手を弾きながら「新規登録者勧誘のアイテム狙いかあんたらのランクは何だ中堅ランクですらない。ハァ~せっかく囲所社まで創ったなら″社仕事″やりなよ。あんたらのランクでもそこそこいいアイテム取れるから、勧誘アイテムなんて中堅以上になると何の役にもたたない」けっ初心者が粋がるなと胸ぐらを掴んできた。あぁ端から面倒事だなぁ………リセマラするかな。等と思っていると「その手を離しなさい。運営へ報告を入れますよ」背は私より低い女の子で蒼い甲冑を身に纏い、背丈ほどある盾を持っている。覚えていろとそそくさと退散する男たち。女の子が振り返り見上げる「お、大きいアタシもデッカくすれば……って違う違う……大丈夫ですか?その」タスケテ貰ったのか一応しゃがみ込む「助けていただきありがとうございます。私の名前はルゥアー………じゃなかった。キク・アゥロと言います。キクと呼んで下さい」丁寧に挨拶する。「ご丁寧にではキクさんとお呼びします。私はリオ・ハシザキといいます。マジネームです。」マジネームとは天然さんなのかなどと思いながら「よろしくリオさん」とフレンド登録の流れへ………「へぇ、それじゃあ冒険始めたばかりなんですね」悪い人ではなさそうなのでリオさんには悪いけどしばらく虫除けに装備集めを手伝って貰っている。今は初期装備を卒業がてらリオさんおすすめレベル上げに「まず戦闘から教えますね私は“戦騎“なのでドッカンイケイケです」敵めがけて走り出すリオさんアタシの方を見ながら「キクさんは“秘導“なので回復と援護お願いします。出来る範囲でいいので」いい子だな。相手はクリアキューブか、防御は高いけど経験値が高い。一気にレベルアップするには持って来いだな。リオさんは防人なのかな等と考えていると、クリアキューブに盾ごと突っ込む。力押しか一撃の元クリアキューブ粉砕。ドヤ顔が見え隠れする。さっきの毛の生えた初心者レベルよりちょいと上かな。ある程度スキルや装備も整えないと防御の高いクリアキューブは倒せないからな「リオさんは凄いですねおかげでレベルも一気に上がりました」いやぁと照れるリオさんだが彼女の後ろにクリアキューブが現れる「じゃもういっちょレベル上げますます?!」盾突っ込みをかますが盾ごと弾かれるリオさん「あれ?無傷」怯むことなく攻撃を繰り出すクリアキューブ。そんなリオさんのの後ろからクリアキューブ目掛けポーションをかける。そのまま「リバイド」の呪文を唱える注意をリオさんから離すため「プラチナル」を続けて唱えるクリアキューブは此方を敵として捉える。其れを確認してアイテムから初心者救済の“タイムリミット“という無敵アイテムを使う。タイムリミットは攻撃は出来ない、呪文も捉えられない、アイテムを使うと次のアイテムを使うまでのリキャストタイムまで考えられるというアイテム。ハナト・セゲはリアルタイム性のゲームだ何も行動しなくても戦闘は進行してしまう。このゲーム開始時操作に慣れるまで苦労したか。運営も気に掛けてこのアイテムの配布が決まったほどだった。このアイテムがまだ初心者ようにあるということは、システムは変わってないのか、よく文句でないなぁ、でもおかげでクリアキューブの攻撃はクリティカルを示すが与えるダメージはゼロと示される。それどころか攻撃を与えているクリアキューブには100のダメージが攻撃のたびに示されている。「1,2,3 ,4,5よし終わり」リオさんに聞かれないようにカウントするとクリアキューブは消滅する同時にアイテムのリキャストタイムが終了する。「あれ?どうなったの?強いクリアキューブは倒したの?」そういうリオさんに「どうやら運営のバグみたいですね、経験値もさっきのモンスターの数十倍みたい。やりましたね」柔やかに微笑むあたし「まぁ倒せてよかった」と安堵するリオさん気分を変えて「あれだけ強いんだからドロップアイテムは凄いよね!」と宝箱を開けるがそこには「水晶の欠片?えっーと古い定石痕………効果も無いアイテムか」項垂れるリオさんに「良かったらアタシがもらってもいいですか?」ももちろんと何の効果も無いアイテムを手渡すリオさん。チャットボイスの呼び出しがかかる「キクさん。ちょっとゴメンね」チャットボイスをオープンにするリオさんが『リオ、次の団の会合なんだがって周りにカウント反応があるんだが“奪戦中“なのか?』「違うよ、始めたばかりのプレーヤーと仲良くなって」『バッカーー!!オープンチャットにするアホがどこにいる!!』そのあとリオちゃんは怒られながら所属する囲所社へダッシュしていきました。然しまだ歪みキューブとアカウントするとは………歪みキューブとは運営がこのゲームで隠しモンスター略して“カクモン“の一体だ。最初は祝百万ユーザー突破記念と名うち始めた永久クエストだった。最初こそは難しくさっきのリオさんみたいに力押しではクリア出来ないものばかりだが、攻略サイトの開設やイベントの増加で廃れてしまい運営公認の放置クエストとかしてしまったのだ。先ほどの歪みキューブは防御こそクリアキューブの100倍というとんでもモンスターだが体力は五百しかなく毒や火傷等の状態異常耐性はゼロ然し攻撃は全てクリティカルなのでレベルが上級者で装備も一級でなければ一分も持たないのだ。そういう効率の悪さもたたり放置クエストとなっている。とはいえレベル上限も今は五百でありそのクラスのプレイヤーなら一撃でしとめられるレベルなのだ。えっじゃあ倒せないって………最初に投げたポーションは異常を付加するポーション今のキクでは調合のレベルが足りず固定の状態異常のポーションは作れない“シロウトシロップ“敵味方問わず使用可能、状態異常のどれか、ごく稀に体力回復というアイテムが作れるこれを散布回復したらアウトだったが多分高確率で異常になる。運良く毒だったのですぐに効果を2倍にする初心者秘導“リバイド“を詠唱リバイドは一分しか持たないのでリキャストタイムが無い続けて“プラチナル“で誘導する。プラチナルは指定が出来るので自分自身にかける。後は“タイムリミット“で時間を稼げば毒で消滅する。そうそう歪みシリーズが落とすアイテムは“古い定石痕“といわれるお飾りアイテムなのだが………着いた“黒薔薇学園“ハナト・セゲの世界観はぶっちゃけ無茶苦茶だ。このゲーム自体ここまでサービス続くとは想定していなかった。なので一年ごとに改築増築の追加設定つけまくるもんだから最初は魔王を倒すRPG系だったが、乙女ゲーが流行れば魔王の息子と恋に落ちる攻略イベント始めるし、狩りのゲームが流行ると巨大モンスターから素材集められるようになった。ホラーが流行ると夜の町を徘徊する頸無し先代王が現れる追いかけっこ……そんな綱渡りが今もあちこちにある。そんなこんなで多種多様な事が出来るってのがこのゲームの人気かもしれない。その一つがここ“黒薔薇学園“表向きは学園に通う多種多様なイケメンを攻略していく常駐クエストだ「ナラサ様は駄目だから!」学園に一歩踏み込もうとすると黒髪を前からたらし白いドレス姿の女の方に留められた「君何?ここに何しに来たの?」と乙女警察に掴まってしまった「アイテムを使じゃ無くて出会いを探しに!」手をしっかりと握られ「分かった皆までいうな、アタシの名前は“ぬかるみ“よ、周りからはぬかるみの乙女と呼ばれてる」それで狙いはと聞かれる「えっーとまだ決めてません」と答える「ナラサ様は駄目だからナラサ様は駄目だから!」近い近いそしてのぞき込む目が怖い「わかりましたナラサ様以外にしますから」いい心がけだと言われ学園の中へ言ってしまえばダンジョンだしかもレベルは高いアイテムもそこそこ用意して目的地まで隠れながら進むつもりだったが「私のおすすめはコノミくんかなちょっとイタズラっ子だけど、それは寂しさの裏返しなの、たまに見せる表情がほっとけない、違うのよナラサは特別なの違うったら」等とイケメン攻略法を指南しながらグラスノチア、デットリージョーンズ等過去にイベントクエストのボス擬きとはいえ使ってくる上位秘導やイベントボス特有の体力は健在なのだが、其れを其処らにいる雑魚敵並みにサクサクと進んでいく。ここに入るまではレベルが一桁だったのに気づいたら一気に中堅レベルに近づいている。「ここが最深部ハーレムへご案内ってあれ?おかしいな暗い」辺りを見回すぬかるみさん動揺する彼女に一言「いえ間違ってません。ただし」暗闇の中に点滅するエンカウントの文字が浮ぶ「戦闘?!ここで?ちょっとまって!今までここで戦闘なんて無かった!ここでは頑張って攻略したプレイヤーがハーレムクラスへ転校告白イベントが用意されて!!」ぬかるみさんとキクの前に白衣を着た黄緑色の髪の毛をして背中から牙が刺さっている男が現れる「あれは“黄緑の君“NPC代表の保険医、黒薔薇ランキングでもモブキャラにしてトップ5に入る人気キャラだった。あたしも秘かに狙ってガチャ引くために薔薇の刺集めてたけど無理だった」爆死の情報と共に項垂れるぬかるみさん『また来たのか、担任のアルスト先生に小言と…………心の中では感謝かな』笑顔で語りかける黄緑の君「イベントキター、攻略、攻略選択肢はどこかな………おちつけ慎重に慎重に選ぶんだエヘエヘエヘヘヘヘ」ぬかるみさんの頬が揺るみっぱだよ。しかし『困った君へのお薬は………僕の』シャツのボタンを外しながら!!と同時に周囲に攻撃判定が示されるとても広い部屋一面に広がる攻撃判定に避けられないと判断するキクすぐに「“プロクションヲォール“アンド“アイスミスト“」補助秘導を唱えたすぐ後に黄緑の君の周囲で爆発が起こる。爆発後にぬかるみさんとキクの体力ゲージが半分になっているフラフラになりながらも立ち上がるぬかるみさん「全体の攻撃秘導“エレメントブラスト“秘導士でもレベル200以上で覚えるのにレアアイテムが必要な秘導じゃない。ここのレベルって平均75程度なのに?でも即死してない?」驚くぬかるみさんに「エレメントブラストはその特性から“火、水、風、土“の基本元素と無の巡環である“光と闇“この六つのどれかの属性の攻撃が起きます。さっきのは“火“のエレメントブラストでした……なのでプロテクションヲォールで秘導でのダメージを半減させ、同時に火の属性に強い水の属性をぬかるみさんと私に付加しました」説明を聞きながら「なるほどね、でもプロテクションヲォール自体は攻撃判定の広さでわかったと思うけど、エレメントブラストの属性の判断はどうやったの?いくら何でも運任せじゃないわよね」髪の間から見える目は怖かったが説明を続ける「えぇ、実は属性によってエレメントブラストを使う際の発動時間や攻撃判定が微妙に違うんです。例えば先ほどの火の属性は発動までの時間は全属性中最も早いです。それに発動範囲も広い、ちなみに一番長いのは水属性です。黄緑の君の会話が途中で区切られていました話の途中で攻撃判定が出た事と範囲の広さから判断したわけです」貴方ほんとに初心者というぬかるみさんに「攻略サイトをたまたま見ただけですよ。このゲームを始める為にも前情報は必要でしょう」まぁこの頃始めた人も多いからそんなもんなのかと納得するぬかるみさん「でもここからが問題ですよ。今のは半分に減らして何とか耐えたけど、次のリキャストタイムまで三分ここは逃げても」そんな私の肩をたたき「三分か確かに余裕ぶってやれないか、せっかくの低確率発生のレアイベントだし…………(白いワンピースのポケットから七色の懐中時計を取り出す)“ロード“」ぬかるみさんの周りの空間が揺らいでいる。彼女の持つ鎌の形状が変化「あの懐中時計………それにあの鎌グレシアノイズ!!?」黄緑の君は一刀両断される“即死“と表示された後宝箱が現れる「しまった。えぇ黄緑の君消えちゃうの!!?」後悔しても目の前には宝箱とかした保険医の先生が静かに鎮座していた。宝箱を開けながら「やっぱり君は初心者じゃなかったね、一度このゲームをプレイしてる“古参だよね“」プロマイドかと少しガッカリするぬかるみさんに「その武器“グレシアノイズ“ですよね。第五回のイベントにその武器を創り上げる為の素材狩りがありました。必要数は五千、あのイベント以降は大量にはゲット出来ないはずです。だから今その武器を持っているのは古参の中でも限られたプレーヤーだけです。ぬかるみさんも古参だったいいえ、今も古参なんですね」羨ましそうに述べるキク「ふーん、なるほどそれで新しいアバターを作って捜してるってわけか」一通り昔使っていたアバター探しにゲームを再開させたことを話す「ルゥ・アーフか………それならすぐ逢えると思う」意外な事実がぬかるみさんの口から伝えられる…………一通の紹介メールをぬかるみさんから貰った。ぬかるみさん曰くナハト・セゲの中心八城にルゥアーフがいるらしい………赤い羽根帽子に刀身が爛れ落ちた大戦剣を振るう小柄な戦騎………デフォルメは変わっていない僕が使っていたルゥアーフそのものだった。今は“心徒八奴“と呼ばれるナハトセゲの八つある囲所社のトップの一つの長をやっているようだ。やっぱり検問はあるんだ。八城は最初からある街ではない。プレイヤーがギルドを作りギルドが連合を作る。その連合の一つが管理するプライベートな街だ。ルゥアーフとしてプレイしていたさいからあったがギルドを作らなかったし入らなかった誘いも多かったが、時間を会わせるのもキツかったし単独でもこなせるクエストが充実していたからギルドへの執着もない。今だってギルド戦はあるもののランキングがないのでソロプレイヤーが多い。ギルドがあるのは運営側の意向とワイワイやりたい感じなのかもしれない「ここに登録名、ギルドをうちこんでくださいそれから連合に所属されているなら所属名もよろしくお願いします」受付ではセーラー服を着たお姉さんが指示をしている「キクアゥロ………ソロプレイヤーですか、そこのあなた」セーラー服のおねーさんが近づいてくる「少しよろしいですか」別の部屋に連れて行かれるキク。ドアを開けると先客が「ここは休憩室ではありませんよ、クルスト」その名前を聞いた瞬間体が固まる「五月蠅いわねどうせ使わないんだから良いじゃない?何、レズレズしたいとか?」違います!と否定しながら「今から使うので」追い出そうとすると「いいじゃん邪魔しないからさ、続けて続けて」間違いじゃない起き上がったのは背の高い女性、チアガールのような際どいコスチュームの上から晴天の空色を見ているようなコートを纏っている。横の棚には彼女の持ち物であろう七つの鮮やかな色の本が収められたベルトがある「ザルス……」つい言葉が漏れた「何か言いました?」セーラー服の女性が足を止め聞き返す。「いえ、何でもそれでここへ呼ばれた理由は何ですか?他の方は通されているみたいだし」椅子へ座るよう促され「まずは自己紹介からえっと私はこの八城連合のゲートマスターを任されているテンプレスト・ミドウスジといいます。ギルドは“北方の開拓“でギルドマスターをしています。ちなみにあちらは」紹介しようとするとキクの口から「クルストさん……七導のクルストさんですよね」と先程まで寝ていた女性の名前を当てる「えぇ、でもどうして?」棚を指差し「七つの魔導書、光、闇、水、火、風、土それに透明な真理の書これら七つの本を持つのはこの世界では七導を関するクルストさんだけだというのは有名な話です。ハナト・セゲの関連サイトではよく見る名前です」へぇーと少し笑みを浮かべるクルスト「まぁ、昔のサイトにインタビュー記事やアバターの写真も載せてたから不思議じゃないか~照れますなぁ~♪」コホンと咳払いするテンプレスト「では本題に実は今日の日付で“心徒八奴を潰す“という書き込みが1週間前に公式の掲示板に投稿されたんです。心徒八奴の方には運営からも活動の自粛を提案されました。一旦はギルマスである“ルゥアーフ“が了承したのですが心徒八奴が所属する連合である八城がそれを拒否連合の問題はあくまで自分たちで解決すると、困った運営は折半案として八城の廻りに“エンジェルキューブ“を数体配置させることにしたんです」なるほどこの警備体制はそのせいか「だったら尚のこと八城への来訪を中止すれば」そういうキクに「八城の長共はこのハナト・セゲをプレイしてきた“古参“だぜ、プライドとお鼻はすごーく高いの、そんな連中が脅し程度に屈したなんて広まってみ、古参なんて粗大ゴミってズタボロさね、だから通常運転を続行するの自分達のプライドを保つために………意地でもね」とテンプレストの脇から話すクルスト「中堅から古参の特級のプレイヤーまでの把握は出来ています。しかしながらここ数日で始めたプレイヤーまではデータとして揃えてなかった………なので」気まずそうに説明するテンプレストに「なるほど、初心者で情報がない私がその投稿者かもしれないと思ったわけですか」気分を害されたならごめんなさいと頭を下げるテンプレストそんな彼女に「それでその日付にはいつ頃襲うと書いてあったのですか?」今日の正午ぴったりだと答えるテンプレスト「では、この部屋に監禁してください。私がその投稿者本人にしろ仲間にしろ。ここにいれば手出しはできません。このままログアウトしても気持ち悪いですから、一日ここに居ます」そうして貰うと助かりますがえぇっーとと目が泳ぐ。そんなテンプレストちゃんを見かねて「だったらあたしが見張ってやる。アタシの秘導の腕は折り紙つき初心者に負けるわけない。テンプレストちゃんはお仕事ギルメンにずっとは押し付けらんないでしょ」その言葉に礼をいい急いで持ち場に戻るテンプレスト………「さて、じゃお話しましょうかたっぷりねぇ………ルゥアーフ」沈黙が続く「………」「あらだんまり相変わらず“必要ないこと話さないわね“さっきの手際“無駄がない所、永年相方やってたアタシが分からない分けないでしょ?」相変わらず直感はバケモノだなぁ「永年の相方ですか、ルゥアーフさんならこの八城の最深部にいるじゃないですか?私は数日前にこのゲームを始めたばかりですよ?昔の相方みたいに言ってくれるのは嬉しいですけど」ニコニコと両手を挙げるこちらに戦意はありませんよーという感じだ「ルゥアーフか、まぁネットゲームなんだし男が女のふりしたり、またその逆もあるのは常識だ、龍点の星空……フリークエスト中心の個人戦………ギルドでの参加はこのゲームのバロメーターを色濃く傾かせた。その修正または新たな試みとして開かれたイベントだよ。お前さんと一緒に戦った最後のイベントだ」覚えているハナトセゲというゲームの概念を変えたといっても過言ではない。クルストさんに言われた言葉“リアルで遭いたい“いい仲と言えばいいのかこの頃は一日の大半をクルストさんと過ごしてたっけ。親友、恋人、夫婦みたい?とにかく居心地はよかったんだと思う。当然の帰結…………怖かった今のこの心のどこかで虚構と分かっている世界が崩れるのが…………だから龍点の星空のラスト共闘クエストをすっぽかした…………ハナトセゲを辞めたんだ「どうしたの?さっきみたいに龍点の星空の説明はしないの!そこで独り孤独に優勝したアタシの伝説は語らないの?!」真っ直ぐな目を見られない「あんたが定時になっても来ないのは、何かあったんだろうって?馬鹿みたいボロボロで保存アイテム使い切って課金しまくり………まってたのはネットの無機質な賛辞とスタイル批判そんなことどーでも良くて………数週間ぶりに現れたルゥアーフはギルドマスターになってた。あれだけ嫌ってたギルマスに会って話して………気付いちゃった“これは別人ナンだってだって違うんだもんアタシの識ってるルゥアーフじゃない………でもそんなルゥアーフからギルドに誘われた偽物でもよかったでも………それでキミは何しにきたのかな?このゲームを囓った初心者が来るにはまだ速いよこの場所は?」……………「はぁ~」溜息が漏れる「どうしたの?ギルマス?ゲートマスター任されたんだからシャキッとしなきゃでしょ」同じメイド服の長身の女の子に背中を叩かれる「分かってる。このゲームでテロみたいな真似させないんだから」憤慨するテンプレストに「そういや、さっき連れて行ったプレイヤーはどうしたの?」質問に「こっちの仕事あるからってクルストさんに預けた」と返すと「いいの?!何かあったらあたしらより七導の方が数十倍の戦力だよ!」うーーうとうなりながら「フェードストアのマーキングもあちこちにあるから大丈夫よ、すぐに呼び戻せます………チクタクチクタク正午の鐘が鳴り響くプレイヤーの影が実体化する影はプレイヤーを襲う!「何よ!コレ?!キャー」先ほどの女の子が影に取り込まれる。黒い鎧姿に変化すると今度はテンプレストに襲いかかる叫んでも反応はない。廻りを見渡せばそこかしこで似た状況「ごめん!」テンプレストは黒い鎧姿のギルメンを白銀の籠手で地面に叩き伏せる。倒され体力ゲージがなくなると「なるほど復活の神殿じゃない!これって強制ログアウト………運営もあらゆる手で止めにかかってるわけか」黒い鎧姿はその場にとどまりログアウトだけが表示される。状況を把握したテンプレストは八城に属する連合のチャットチャンネルを全開にして伝える『こちらはゲートマスターのテンプレスト、緊急事態につきチャンネルはオープンで行っています。現在ゲート前で複数の黒い影の者、正確には影がプレイヤーを襲い取り込みます………これからは取り込まれたプレイヤーをアンチプレイヤーと称します。アンチプレイヤーと交戦中、数体を戦闘不能状態に追い込みました。戦闘不能にした場合、運営の判断で強制ログアウトされる模様です。影自体は実体を持って居らず戦騎の攻撃も秘導の攻撃も受け付けません。黒い影?の出現条件は不明………躊躇いなく撃破を推奨します』オープンチャットを切る。廻りで残っているのは数人だけだ。数百いたプレイヤーは復活の神殿に転送、撃破してログアウト状態でフリーズ、通常のログアウトするプレイヤー今残っているのは連合のメンバーか恐い物見たさの烏合のプレイヤーだけ「ここに残ったプレイヤーへ、もはやゲートの役割は果たす事が出来ません。取り逃がしたアンチプレイヤーは八城の深部へ向かっています。私は後を追います!」ガヤが一層酷くなるが構わずアンチプレイヤーを追跡する。どのくらいいるんだろうここにいたプレイヤーはアタシよりランクが低い。アンチプレイヤーはあくまで元となったプレイヤーの力に比例していた。ならここより奥にはアタシの遥か上のプレイヤーが犇めいている。それがアンチプレイヤーになっていたら…………勝てない、、、足が止まるテンプレスト、たかがゲームじゃない……こんな非常時にあたしだけ向かっても………そうだよ………そんな油断からか背後に迫る刃にすら気づかずに「降り注げ!ロックスノウ!」辺りが岩石地帯に、数体の岩に亀裂が入る!「メタイド!!」ヒビの入った複数の岩を金属に変える「ありゃ、数体は耐えてるって事は、中級以上のプレイヤーかな」「多分そうでしょうね、大丈夫ですかテンプレストさん?」手を差し伸べるキク「二人とも無事だったんですか?」手でテンプレストを引き上げながら「クルストさんが黒いのに覆われたときは何事だと思いましたけど、何とか」えっ何とか「ちょっとまってください?!クルストさん黒い影に呑み込まれたんですか?でも今は」クルストはいたって元のクルストだった暴走もしていない「あーあでも心の奥底でルゥアーフを倒したい倒さないととか目の前の敵倒せだの………うるさいけどね、相手の出方が分かるからこれはこれで便利よ」どうやってと詰め寄るテンプレスト「アタシも使える限りの秘導や持ってるアイテムを駆使して何とかしようとしたのにできなくて」泣きながら話すテンプレストさんに「まぁ私は何………」コホンと咳をするキク「クルストさんはちょっとした裏技使ったんです」……………「鐘の音?!何だ!?影が絡みついて!取り込まれ」彼女にボトルに入ったアイテムをかける「すいません!先に謝りますよ!」すると「体が痺れ……」影の浸食が止まる「すぐに“再起動“ログトライアルしてください。いいですか!多分ログアウトするとアカウントは強制停止され戻って来れません。今は一人でも力が必要です」クルストさんが消えてしまう「ゲームから降りて………」2分後召喚陣が現れ「よかった、戻れたみたいですね」そこにはいつものクルストさんがいた「どうなってるのか説明求めても?」辺りを見渡すクルストさんそこには黒い影が数体捕獲されている「これですか?これはさっきアタシを襲った影です」秘導を使おうとするクルストさんに「駄目ですよ!この黒いのは貴方のではありません。まだ詳しくは判りませんが外に居た戦騎二人から出て来ました。クルストさんの影とは違います」クルストさんの回りを確認の為一週する「問題ないみたいです」影を叩いたり指で押したりするも影が飛びだしたり襲ってくる気配はない「あの鐘の音?正午を知らせるあの鐘の音を聞くと同時に影が現れたみたいです。先程知り合いに連絡を取りましたが、ここ八城以外のエリアでは異変は起きていませんでした」辺りを見渡しながらクルストさんが「ルゥの影は平気なのは何故?」ルゥではないと否定しながら「さっきの二人の胸には“城のワッペン“が着いていました。クルストさん貴方も着けている。それって連合の参加者である証なんじゃないですか。テンプレストさんも同じモノ腰につけてたみたいだから」さすがルゥよねーと感心するクルストさん………相変わらず直感だけでゲームやってるな遠い目で見るキクに「だったら内通者がいるというテンプレストの読みは外れてないって事だよね、これだけの仕掛けゲーム内からじゃないと無理っしょ………偽団長殿を狙うならこのまま影も奥へ向かう。そういうことよね」キクは飲み込みから行動まで早いなと心で思いながら「そうと決まれば私たちも最深部へ向かいましょう」と八城の最深部ルゥアーフがそこにいる…………と今の話を割愛してテンプレストさんに話した「なるほど同じ連合メンバーですか」自分の身に付けていた城のワッペンを眺める「なら………アタシも影に取り込まれるんじゃ」足が止まるテンプレストさん「それはないと思います」と断言する「さっきの話の中にもあったように一連の事件を起こしたのはこの連合メンバーの誰かです。理由もルゥアーフの団もしくはルゥアーフ本人にあると思います。なら影を使っての分断は劣りの線が濃厚です。犯人は単独か少数だと見ます。なら影を使って連合の相手をするというのは得策とはいえない。狙いは運営の強制ログアウトか自主的なログアウトを行わせることです。だから影による支配は上手く言っても上手くいかなくても鐘の音を使ったあの一度きりなら直接!止まってください!」再び動き出した一行は大広間に到着する手前で止まる。大広間の中心には一際ガタイのある影が佇み奥への侵入を防いでいる。廻りにはここを護っていた連合メンバーやキク達より先に到着したものの返り討ちにあった戦騎や秘導のメンバーが倒れている「誰か分かりますか?連合メンバーだと思いますけど」柱に隠れ奥を伺う「あれ!リトマスさんじゃないですか?」確認するようにクルストさんをみるテンプレストさん「まぁアタシも影に取り込まれそうになったんだからこの展開は無理もないか、あいつレベルが足止めって奥は古参クラスがゴロゴロいるんじゃないの」やばいはねというクルストを見ながら「クルストさんここは任せます」と発言するキク「任せるってこの先にまさか私たちだけで進むんですか、無理ですよリトマスさんは強いですが団長クラスではありません。クルストさんの言うとおり団長クラスは奥にいます。しかも」そんなテンプレストさんの意見を遮り「あの影見てください鎧のあちこちに傷が見られます。それに奥のドアは半開き、数人はリトマスさんの影の猛攻を切り抜けここを通過出来ています。つまりあの影は“ここの死守“が目的なんです。深追いはしない」だけどというテンプレストさんに「だけど私やテンプレストさんでは相手になりません。装備品やレベルが違いすぎます。このハナトセゲはレベルが十違うと強さに差が明らかに現れる。私も戦ったから分かりますあの影はオリジナルの力に比例していた。初心者の私は論外ですし、テンプレストさんでは仮に通過できても時間がかかる。ならクルストさんを囮に私たちが隙を見て通過した方が時間のロスがない」柱の影から門番を監視しつつ話を進める「クルストさんできますか?」一目も見ること無く確認をとるキク「オッケーじゃ先行っててくれ」と一瞬でリトマス影の前に立つ。その様子にビックリせずに両刃一対の青竜刀を構える「“骨棘“と“捌希求“か錬成を十二回、必要な錬石は特級クラスの戦利品ばかり見たのはこれで二度目、一度目は特番ハナトってセゲ?年末放送のPV紹介だったかなぁ、無理ゲーが画面いっぱいとコメント欄を埋め尽くしてたのよね~」無機質は軌道を描く青竜刀これはリトマスさんの個別スキル“湾曲“見えている軌道を誤認させる効果を武器に付加する「固有スキル持ちって………250以上のレベルじゃない!昔っから前線のアタシへの敬意が希薄なんだから、でも悪い気はしないわね!懐かしくてさ!」低ランクの秘導を連発し、リトマス影の動ける範囲を狭めていく。攻撃系の間に状態異常系を挟む事で身動きを止めていくのはさすが七導の二つ名は健在だ「このまま私たちも加勢して一気に」というテンプレストさんを引っ張って奥の通路を目指すが私たちの数センチ前に斬撃が走る「あれだけ押さえ込まれていてこちらに攻撃!?加勢して」とクルストさんに向かう攻撃は止んでいない。足止めはきっちりされている「走ります。テンプレストさんは先へ私がしんがりを努めます!」此方へのちょっかいはただの牽制抜けきれる。ドアへ手をかけようとしたテンプレストさんの首を引っ張る「何で?!」叫んだと同時に触れようとしたドアは爆発してしまう。爆風の中辺りを確認するキク「これは………秘導だとしたら範囲的に………そこだ!」柱に向かい「アイフルート!」光の弾丸を杖の先から発射する。放たれた光弾のスピードは遅いものの柱に命中する。キクの秘導で崩れた柱の奥からマントを羽織った影が現れる「これだけ広いフィールドだから援護者は当然いるよね?」リトマス影さんの相手をしてもらっていたクルストさんにキク達の近くに戻って貰う「いいの~戻っちゃってこれであの門番の注意は引きつけられないわよ。それにしてもまさか秘導の相棒がいるなんて~、おねーさん驚いちまった」防御の秘導を重ねがけをしている。さっき擦ったテンプレストさんの傷を治癒しながら「そうですね、門番は単体影への認識を変えないといけない。経験やレベル、武器や道具だけではなく私たちプレイヤーと同じ感覚で戦っている。しかも時間が経つにつれその傾向が色濃く表れているそう認識しなおしましょう」治癒されながらテンプレストさんが「意識がなくAIのように学習する。とても怖いですね。これが一過性のものだとしても、運営は何をしてるんでしょう?」少し険しい顔になるテンプレストさん「運営はこの不祥事を揉み消すことに必死です。スポンサーや課金者が離れてしまえばこういうゲームは廃れてしまう。あれやこれやイベントで引き留めては来たけど、今回の件はかなりやばいみたいです。特に運営が握っているゲームのOS自体も書き換えかねない、この“影“への対処で今は精一杯あたし達の攻撃は防御がきくのは運営がこのゲームの支配権を持っているんだと思います」分析するキクの発言に付け加えるように「ならあたし達が勝つチャンスは」キクを見るクルストさん「はい、今しかありません、とりあえず狙うのはリトマスさんの影じゃなくく奥にいる秘導者です!スプレスト!」速度アップの秘導を3人に付加する「“ミストサウナ“」クルストさんの廻りからモクモクと霧がたち部屋一面を埋め尽くす。しかしリトマス影の剣戟が風圧と共に霧を吹き飛ばそうとする。同時に位置を変えるリトマス影「やっぱり、狙い通りにお願いしますクルストさん!」あいよと巨大な炎の球体がクルストさんの頭の上に「コアファ・キューブルーティア」掛け声で打ち出される火球然し火球を止めるリトマス影さん踏ん張り火球を弾けさせるリトマス影さん……然し火球の中からテンプレストさんが現れるテンプレストさんはそのまま奥へ「行けー!」合図を受け「草神楽“ホーミット“」たん筒を延ばしたような剣を取り出すリボルバーのような刀体は回転速度を摩していく「擦り切れ演武毎……補だれる弾核蓋慣れ」影を分割する一息入れるテンプレストさんを連れ八城の更に奥へ進む……八城の最深部そこには満身創痍な二人の戦騎と一人の秘導が潜伏していた「ギルドの半数以上があの影に取り込まれた。八人いたギルマスも3人は取り込まれ二人は相打ちでログアウト一人は逃走、残った影である副連合長の非職業安定所さんと連合長のプナラディアさんが戦ってる……どうしますルゥアーフ団長?」言葉を返され「えぇっとそうですね、ログアウトするってのははい駄目ですね、ならプナラディアさんの援護をしましょう。どの道影の数は多い八城を逃げ切ることは出来ません。それでいいですかトイレットさんに………リオさん聞いてます?」外部との連絡を取ろうとしたのかフレンド呼び出しボタンを押そうか迷っているリオ「えっあーぁはい聞いてます。ここからの脱出でしたっけ?」トイレットは顔を近づけ「リオお前また例の新規プレイヤーか?」新規プレイヤー?と首を傾げるルゥアーフ団長「そうなんですよ、この前の団の会合もすっぽかす寸前だったんですよ」「だって新規プレイヤー狙いの奴らに絡まれてたんです。ほっとけないよ。ですよねルゥアーフ団長」眼差しを向けるリオ「そういえばリオさんに声をかけたのもそんな感じでしたよね」にこやかに返すルゥアーフ「こんな時に何ですが、キクさんっていって秘導の方です」リオの話を聞くルゥアーフ「あぁもうこんな非常時に勧誘ってまだ初心者なら戦力にならない。ギルドに入るのはまだ早い」トイレットの言葉にそんなのというリオに「私も賛成はしませんハナトセゲを始めたばかりだしこのゲームを一通り楽しんでからその方がキクさんのためにもいいと思います。最初に出会ったのも無理な勧誘で困られていたのですよね」優しくかけられる言葉に半分納得という顔を示す「ギルド勧誘?私は誘ってくれないんですか?ルゥアーフ様」真っ赤な日傘に黒いゴシック風のメイド服背丈の半分はある天狗の掃くような下駄をならしながら近づいてくる「“昼下がりのスタンチュール“私が初めて参加したイベント右も左も分からなかった素人プレイヤーの私を相方に選んでくれたこれはもはや運命、握られる手の温もりと高鳴る胸の音が廻りの雑音を掻き消してしまう。私はあなたが欲しいでもあなたはつれない龍点の星空以降話すら聞いてくれない」鳴きながら話すメイド服に「花咲九段さん………あなたがこれを起こしたんですか?」笑顔で「決まってるじゃないですか………貴方は私だけのものだからルゥアーフと私の花園でゆっくりと話しましょう。では」トイレットさんの胸が貫かれる「体力がゼロ?即死武器か………」強制ログアウトの文字が浮かびあがるトイレットさん。すぐに黒い影はリオの真後ろへ「さすがルゥアーフ様だわ~❤」黒い影は真っ二つに切り裂かれ強制ログアウトが示される「ごめんなさいトイレットさん初動が間に合わなかった」体に似合わない巨大な刀体小柄な体で振り回すそのすがたは刀が踊り狂うようだ「鮮やかな身のこなしあの時を思い出します。でも思い出に“要らないモノ“は処分しないと」複数の影がリオの廻りを取り囲む。数体いた黒い影は全てログアウトの表示に変わる「戦い方は少し変わったけど、あなたはあなた、大丈夫そんなあなたも愛しています」………花咲九段彼女からのギルドの加入申請は概ね六百回以上、断っても断ってもしつこく申請を重ねた………トイレットさんからは加入を許してもいいのではといわれたが、私は怖かった彼女の直感が………私はルゥアーフじゃない………ギルドを創ったのは私だ。でもルゥアーフの名前はギルド発足前からハナトセゲで語り草だった。狂刀騎ルゥアーフと七導のクルスト………イベントチャットの話の種に出ない時は無いそんなチャットの参加者だったはずのわたしが偶然見つけたパスワードでルゥアーフになったんだ。はじめはすぐに見つかり垢バンされるのがオチだと思った……………けど一日が1週間、一ヶ月一年たってもルゥアーフのアカウントはあたしが使えている。念願のギルド立ち上げ見る見る仲間が集まっていく。引き戻せない程に、八城を創るハナトセゲが一億ダウンロード手前そんな話が古参者のチャットで立ち上がる。運営への嘆願や新規プレイヤーへの中間プレイヤーの無理やりな囲折合への安易な勧誘防止最初は運営の非公認だったが、一億ダウンロード記念に正式に連合システムが導入された………その間も花咲九段からのギルド申請はやまず彼女はあの手この手でルゥアーフのストーカーを続けた。運営としては加入はあくまでギルマスの判断としている。これが現時点での変わらぬ双方への解答だった。それが今目の前にハナトセゲ最大の問題として立ちはだかる。私がうんといえば決着が着くのかなそんな思いが頭をよぎる。私の横でリオさんが構える「私も一緒にすぐやられるかもしれないけど、一緒に!」そんな彼女を見て「痛み耐えて………ホントによかった」小さな声が洩れる。数体の影が現れる。握る剣に力が入る「さっきの雑魚とは違いますよ皆高レベルの古参者ばかり、イッツショウタイーム!!」震えるルゥアーフ達へ一撃空間が割れる!そこにはルゥアーフ達の姿は消えている「ロニス・ディジォスト………秘導か、ルゥアーフもあの女の子も戦騎………秘導は使えない………まだ生き残りがいた。それとも外から速かったわね!複数の影を散らばらせて行方を追わせる…………「大丈夫ですか、ルゥアーフ団長」声をかけたのはテンプレストさん「はい、私は私よりもリオさんを」横に寝ているリオにホッとしながらも「同じ団のトイレットさんは守れなかった違うトイレットさんだけじゃない団員が影でやられていくのを足搔いても助けられてない」かける言葉が見つからないテンプレストさん「影にやられた奴なら大丈夫、強制ログアウトさせられただけしばらくログイン出来ないだけよ」話しかけるクルスト「如何したんですか?いつもなら私に話しかける事なんて無いのにクルストさん」「良いことがあった………長年探してた相方を見つけたんだ」その言葉に冷や汗が出るルゥアーフ団長「へぇーそれってどんなことか聞いても?」「聞くの?本気で」間に入るキク「内輪もめは後で(ルゥアーフに手を差し伸べ)はじめましてルゥアーフさんキクといいます。まさかリオさんとこんな形で再会するなんて」目を覚ますリオさん「あれ、ここは?キクさん?!どうしてここへ!そうだ私たちのギルドへ………そうだった勧誘ダメだったじゃんアタシの馬鹿」盾に頭を打ちつける。キクを見るクルストさんの様子で分かってしまった。キクの前に土下座するルゥアーフ「ごめんなさい………ごめんなさい………ごめんなさい!!」異様な様子にあたふたと慌てるリオさん。キクは一言も発しない……しばらくして辺りの様子を見てくると一人別行動を取る。ルゥアーフ考え込んでいると「一人別行動は感心しませんね」廻りは既に黒い影に囲まれている「花咲さん………因縁もここまで決着をつけましょう」「あらあらいい顔です。ハナマルあげちゃいましょう」黒い影が数体一気にログアウトさせる「それそれよその剣さばきさっきのは如何したの!今のそれ!それがそれがアタシのルゥアーフよ、あの時のまま」花咲の体が爆発する。辺り一面黒い影がログアウトしている「“リターナー“」黒こげの花咲が口にすると焼け焦げた体が蘇生していく「体力半分ですか、即死にはしたくないので、補助系の秘導は使わなかったんですけど、戦騎のあなたでは即回復は難しいでしょう」空中に魔法陣が現れる(辺りを見渡して)「手駒だいぶ減ってしまいましたか…………さてと」魔法陣からは属性の違う魔弾がルゥアーフ目掛け打ち出される「威力は高くないので命中しても大ダメージにはなりませんでも、愉しいわこうやってあなたとゲームを楽しめてる自分がいる。貴方もうれしいでしょルゥアーフ」「…………体験アクト………クエストとしては初心者向け………あの時の貴方はやる気満々でそれがかなり空回りしてた………クレストさんも参加出来ないっていってたから、誘ってみたんです………すみません結果的に貴方を縛って歪めてしまった楽しさ半分悲しさ半分です」今さらと訴える言葉に「でも、アナタがゲームを嫌いではなく…………それだけはよかった」ルゥアーフの持つ大剣が開く中の宝玉から熱気が溢れる「“フレア・ロジックの鼓動“こいつは普段遠巻きにしか力を貸してくれない。運動不足なんです。呼吸も浅いでも…………私の体力が半分かつ大好きな″アイテム″を与えないと」アイテムボックスから″古い定石痕″と機美草子″を取り出す機美草子は黒薔薇学園の奥深くにしかない特有のアイテムだ。これら二つは単独ではテキストも何の変哲もないスキル無しアイテムだが………「″ミルクタクト″二つのアイテムを混ぜる中級秘導を遣うと」そこには先程の二つのアイテムから生まれたドロドロなカレー缶?が現れる「″マグマールー″………フレアロジックの大好物が出来上がるんです」大好物をせがむように大剣のフレアロジックの鼓動は更に強くなる「ようやく起っきですかお寝坊さんだ」マグマールーをフレアロジックに突っ込む鼓動はゆっくりになるが大剣から放たれる威圧感は大きい剣を一振りする「″巫部のリクルート″からダメージ?貫通能力!かクソ″カラーリングテント″″スプリングミラー″これで!」然し花咲九段へのダメージは増えていく状況が変わらないことに驚く花咲九段に「フレアロジックには貫通能力も属性変化もありませんよ。単に攻撃能力が高いだけです」見る見る間に花咲九段の体力は一割をきる「僕の勝ちですね」とどめの一撃を放つがダメージが通らなくなるいくら斬ってもゼロが連発してしまう「戦騎封じ、ハナトセゲでのお約束″秘導では戦騎にとどめは刺せない″この事から長年秘導を選ぶプレイヤーは減っていった。運営はこれではダメだとテコ入れへ、それが戦騎封じ」一息入れる花咲九段続けて「戦騎封じとは体力が一割をきっている秘導プレイヤーに対して戦騎のアビリティを封じ込める事、フレアロジックの能力は勿論アビリティですよね。つまり私にはルゥアーフ貴方は手を出すことが出来ない通常の攻撃能力なら巫部のリクルートが通すはずはない。通らない攻撃対処としてリフレクターの補助秘導もかけています体力が半分以下のあなたがくらってはひとたまりも無いのでは?」詰んだこれで私の勝ち!?確信に満ちた笑みは顔を上げた瞬間凍りつく!?そこにいたのは戦っていたはずのルゥアーフではなく背の高い秘導の女性プレイヤーだった!「秘導プレイヤーが秘導プレイヤーへの攻撃は勿論通りますよね!」火の玉が花咲九段の風前の灯火ライフをゼロにする「何で?ルゥアーフと戦って別人?………違う!アレは間違いなくルゥアーフの戦い方………だっ」口惜しそうな台詞を残し花咲九段のデータが消えていく強制ログアウトさせられたようだ「あーあしんどかった」その場に倒れ込むそんなキクの真上に「お疲れ久しぶりの我が身はどうだった?」とクルストさんがにやけながら話しかけてくる。目を閉じ「疲れてて耳が遠いですね…………聞こえなーい」と意地悪をする。そんな会話の後ろからテンプレストさんとリオさんの肩に掴まったルゥアーフ(本物)が現れる「倒したんですか?」疲れ切った表情に「はい、何とか」と答えると良かったと安堵の表情を見せる。アタシの会話は無視するくせにと激おこ気味だ。そこへ一人のプレイヤーが転移してくる。違うそこに現れたのはプレイヤーなんかじゃない。青を基調とした着物姿背中には白と赤のテントウ虫模様「″ティアラスター″運営直属の組織が何か?詫び石でもくれるとか?!」クレストさんが冗談めいて挑発する。だが返答は無機質なものだった「………今回の首謀者花咲九段のアカウント廃止の連絡と今回の騒動解決への協力、詫び石は後日運営からの公式の発表後にキャンペーンと共に実装したいと思います。ですが今回の案件は別です。ルゥアーフ及びキクアゥロ、両名のプレイヤーは私と共に運営へ出頭してもらいます。これは強制措置です」最後の言葉を発するとティアラスターの従者の廻りにエンジェルキューブが現れる。パチンと指をならす従者。エンジェルキューブは姿を変え西洋の騎士へと変貌する「黙って同行してください。このエンジェルブレイブは一体一体がレイド戦高難易度クラスのボスと同じスペックを与えています。例えこの場にいる方々と戦いになっても数秒も持ちませんよ。これはそういうものだと理解してください」エンジェルブレイブに囲まれていく「それってあたし達も参加していいのかな?巻き込まれたわけだし?」クルストさんが尋ねるが「駄目です。今回のお詫びは後日運営からの説明となります。連れて行くのはお二人だけです」クルストさんが前に出る「連れてってどうするのさ?今回の件とは関係ないならルゥアーフとキクアゥロは運営に対して何か違反をしたということになるが…………それなら花咲九段のようにアカウント停止にしてバンすりゃいい………それもせず呼び出すか納得しかねる。このゲームを始める前に同意はするがここまでやっていい同意はしたの?」無機質な表情が少し曇る「アバターは所詮アバターか、ほらお前さんの廻りのエンジェルブレイブくん達の方がよほど機械らしい面をしてるよ」首を一回転、目を360度回してみせる「そうですか表情豊かに見えますが?」手鏡に写るのはあやつり人形のような笑顔…………「口元の口角が足らないのかな?アイシャドウいれてみる?………HPも三分の一以下に突入~♪アイテムもそろそろそこをつきますね。課金しますか?オススメはしませんけど、こんなの所詮は無理ゲーですよ。イベントなら苦情殺到………でもこれは負け戦闘勝てないように出来てるんですよ………それでもやりますか七導のクルストさん?」その場には同行対象のルゥアーフとキク以外はクルストだけが残っていた。テンプレストとリオはHPがゼロになり強制ログアウトさせられた「天の海境たる七つの嗜みよ・心地酔いゆどみよ・それぞれは頭より尾のさきを走り・天慶を揺るがす(クルストの周囲に七つの色をした光が現れ、それらが虹のように綺麗に交じり輪っかを作り出す)この世の断りを生まれ出せる行いなり!アバルタルマウルブロン!!」輪っかが周囲に広がり其れを受けたエンジェルブレイブが消滅していく「アバルタルマウルブロン、現在の最強秘導ですか、短期詠唱スキル所持者とはいえ少し驚いています。結構プログラム構成には費やしたんだけどな」数体の消えたエンジェルブレイブの残光を眺めるも焦る様子は見られない。残ったエンジェルブレイブがクルストさんに襲いかかるだが武器が違う。先程までエンジェルブレイブが持っていた武器は無かった。手にしていたのは剣ではなく斧だった「三密の斧………異常状態付加、SPシークレットポイント秘導を使うための源の削減、勿論HPも減らしますよ。剣が鎧が体の一部が触れ合えば貴方は袋小路に追い込まれる。ゆっくりとウイルスが感染するように………」膝をつくクルストさん「七導とはいえこんなものですかね………おやすみなさいクルストさん………」クルストさんが落ちてしまう「さて(両手を叩くとエンジェルブレイブが消えていく)殺伐としてますね。場所変えて話しましょうフェードストア!」………大きな部屋、殺風景な白いだけの部屋「テスト用のエリアしか空いてなくてすみません」テーブルと椅子が用意される「それで、私たちに話とは?」席に着きながら要件を聞くとそれではと口を開き話を始める「ではまず、ルゥアーフさんから(白いキューブを取り出す)貴方のデータ正確にはキクアゥロさん?が使っていたデータです」血の気が無く既に青ざめているルゥアーフ「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」部屋に響き渡る大きな声で同じ言葉を繰り返す。呆れ顔でキクを見ながら「私よりキクさんの方が言いたい事あるのでは、数日前ルゥアーフのアカウントへのアクセスが見られました。勿論ルゥアーフさんはいるので″このアカウントは使用されています″と拒否されています。その直後キクアゥロという新規ユーザーが登録気になったのでデータの痕跡を追いました」応えをあげるように「つまり、私がルゥアーフであり元々のアカウントが使えないので新しくアカウントつくったと…………それがホントなら私は相当なマヌケですね」微笑みながら話すと「怨んでないんですか?勝手に使われたかもしれないのに」促すように話す運営代表に「怨んでないわけはないです。数年間を注いだといっても過言ではない。たかがゲームといえはそれまでですがって………きっと私が本物のルゥアーフならそう言うと思います………私はルゥアーフではないなら今は彼こそがルゥアーフですよ」なるほどと納得する運営代表の女の子「では以上でアンケートは終了です。建前上はアンケートを受けた事になってます。そうそうアンケート報酬を送らないといけませんね」ニヤリと微笑む女の子だった…………1週間のメンテナンスあれだけのことがあったにしてはその程度ですんだのは不幸中の幸いメンテナンス明けすべてのユーザーには百回分回せる石が配布された。ユーザーの一喜一憂の姿が目に浮かぶ。今でも変わらずキクとしてハナトセゲをプレイしている。ルゥアーフではないという私の意見は聞き入れられたのかもしれない………ハナトセゲ辞めないといいけど…………気分転換に引いたガチャは爆死した。メール?運営代表の女の子から『アンケート報酬気に入って貰えましたか』か………あれから変わったことが一つキクさんからキクくんになっていた「すみませ~ん」振り向くと小さな体に大剣を背負う女の子「これは運営の口止めですかね、それとも罰かな?」そんな皮肉に「私は少しすっとしてます。肩の荷も少し降ろせたからキクさんいいえキクくんは嫌だったですか?」首を振る「さてルゥアーフ」口に指を当て「ギルドは辞めました。トイレットさんは猛反対されたけど、悔いはありません。だからルゥアーフだけどルゥアーフじゃない………ルゥちゃ………んって」もじもじする彼女に「これからダンジョン攻略するけど手が空いてるなら手伝ってくれます。ルゥ」いきなり呼び捨てと照れる彼女と一緒にダンジョンへ向かう。一度やったゲームをもう一回やるってのも悪くないかも。

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