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潔癖とチョコレート

作者: mask

「冴えない顔してどうしたの~?」

 俺の視界を覆ったのは不思議そうな顔をした緒方。

 そいつの頭に手をやり、無理矢理引き剥がす。

「痛い痛いッ! いじめだよ、これ!?」

「お前が邪魔してきたんだろ」

「何よそれー。せっかく心配してあげたのに」

「必要ねえよ。お前は自分の心配しろよ。手首切ったの水瀬にバレるぞ?」

「あ、ヤバっ」

 緒方は捲っていた袖を慌てて直す。

「緒方さん」

「えっ!? 何処も切ってないよ!」

「? 何も言ってないけど?」

 小首を傾げる水瀬。

 対して緒方は汗がダラダラだ。

 感情の揺れが大きくて人様に迷惑をかけることが日常茶飯事なこいつだが、水瀬にだけはとてつもなく弱い。

 普段からリスカを注意されているが、止めることが出来ない。

 その苦しみは分からないが、水瀬はそんな奴にも寄り添ってくれる。

 俺みたいな障害者にも。

「はい、緒方さん」

 水瀬が緒方に手渡したのはラッピングされた小包。

「ありがとう、水瀬さん! 大好きっ!」

 ガバッと緒方はテンションのままに抱きつくので水瀬がふらつく。

「お前な。水瀬が転ぶだろ?」

「あ、な~に? 羨ましいの? 水瀬さんのチョコ?」

 にしし、と緒方が小包を見せびらかしてくる。

 そう、チョコだ。

 去年も水瀬はクラスの皆に配っていた。

 だけど、俺は受け取れなかった。

 "潔癖症"の俺には手作りチョコなんて堪えられなかった。

 だから、要らないと断った。

 そのときの水瀬の表情を思い出すと、今でも胸が締め付けられる。

「はい、加藤くんも」

「……え?」

 水瀬に差し出されたものが分からなかった。

 丁寧にラッピングされた四角い箱。

 これは、

「すまん、水瀬。俺はーー」

「ふふっ。知ってるよ。去年は失敗しちゃったから。開けてみて」

 言われるがままにラッピングを剥がしていく。

 出てきたのはコンビニにもあるような市販で売っているチョコ菓子。

「市販のはまだ食べられるって聞いたから。去年はごめんね?」

「あ、いや。悪いのはお前じゃないし」

「ふふっ。ありがとう」

 水瀬は微笑んで他の奴のところに行ってしまった。

「良かったじゃん!」

「いてえな」

 バシバシと緒方が背中を叩いてくる。

「水瀬さんは優しいな~。加藤くんにも恵んでくれるなんて」

「潔癖症で悪かったな」

 イラッとしたが、こいつがこういう発言をするのはいつものことだ。

 気にしない方が良い。

「ほら、食べてあげなよ。せっかく水瀬さんがくれたんだし」

「分かってるよ」

 包装を剥がしていく。

 そして一つ摘まむ。

「当たり前だが、上手いな。でも、これ少し苦いな。俺は好きだが」

「それって苦いチョコだっけ? 新商品とか? どれどれ」

 緒方が勝手に俺のチョコを摘まむ。

「うわ、本当だ。ビターな大人の味だね。私には無理」

「勝手に食うからだろ」

 うえー、とはしたなく舌を出す緒方。

 これ以上食われないように俺はその場で全部食ってしまった。

「あー勿体ない」

「市販のだから良いんだよ」

 そう言いながらも正直、チョコを貰えて嬉しかった。

 来月のお返しを考えないとな。

「私もあげる」

 緒方が机に置いたのはこれまた市販品の一口チョコ。

「……槍でも降るのか?」

「失礼だなッ!? 友チョコだよ! いつもお世話になってるから!」

「俺に迷惑かけてる自覚あるんだな」

 少しだけ感動した。

 本当に少しだけ。

「もう良いよ! 来年はあげないからっ」

 頬を膨らませて自分の席に緒方は戻っていく。

 俺はそれもすぐに口に放り込む。

「……あま」

 あいつにもお返しを考えないとな。

 『障害は個性ですか?』のバレンタインSSでした!

 この話は連載投稿が始まる前から書きたかったお話だったので、やっと形に出来た感じですね。

 裏話

 水瀬が加藤に渡したのは市販品に似せて作った手作りです。女子力高いですね。

 緒方は去年、加藤が手作りチョコを食べられなかったことを覚えていたので用意してました。だけど市販品をラッピングしないでそのまま渡したのは自分のキャラじゃないと分かっていたからです。

 加藤は幸せですね、チョコが貰えて。

 チョコ欲しいな~。

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