表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第9章:父親と夫婦
98/120

第98話 父親

「文月。ちょっと良いか」

「美裟さん。少し良いですか?」

「?」


 天界への舵を取る『九歌島』。その中心部である操縦室に、ふたりの訪問者がやってきた。

 ケイと、色葉である。


「どうしたんだ? あれ、ざくろさんは?」


 半魔であるケイの、もうひとりの魔女であるざくろの姿が無い。


「知らねえよ。散歩でもしてんだろ」

「星空にはしゃいでましたね」


 ケイは、文月に。色葉は美裟に用事があるらしかった。


「俺の能力と、これまでお前らに合流せずにやってきたことの話だ」

「!」


「ケイ君とも話したんですけど。萩原先生……『萩原縷架』について、美裟さんに話しておきたいことがあります」

「!」


 これからの『戦争』にて、重要な話であると、ふたりは語った。


「時間貰うぞ」

「少し長くなりますが……」


 文月と美裟は、一度顔を見合わせて。

 即頷いた。


「1ヶ月ある。話してくれ」

「ええ。構わないわよ。色葉さん」


——


——


『…………なんだこれは』


 カエルムは、アルテとセレネから彼女らの部屋へ招待を受けていた。断る理由も無いので早速向かった。


「あははははっ!」

「むー……。んむっ!」

「セレネ笑いすぎだって。ほら神奈ちゃん困ってるじゃん」


 そこには双子は勿論、佐々原きさらぎと、その娘の神奈。シレークスとソフィアの娘であるディアナも居た。

 今はセレネが、神奈のほっぺたで遊んでいる最中だった。


「柔らかすぎる……! これが3歳児……!」

「いやあんたらも10歳だし変わんないわよ」

「もうすぐ11歳ですっ」

「あ、そうなの?」


 和気藹々と、『女子』の空間が作られていた。カエルムは早速帰りたくなった。


「あっ! ようこそ!」

「えっ? ……あ、カエルムさん」


 だが、アルテに見付かってしまう。カエルムはやれやれと、手招きする方へ向かった。


『……今は休憩中なのか』

「まあ、そうですね。私達は割と、ここに集まってますけど」


 堅い質問にきさらぎが答える。そもそもこの面々とは殆ど面識が無い。カエルムはつい数日前にやってきたばかりだ。例え愛月の夫だとしても、19年間姿をくらませていた。


『……佐々原さつきの、娘か』

「母を知ってるんですね」

『幼いお前にも一度会っているがな』

「えっ。そうなんですか?」

『丁度、今のお前の娘の歳の頃だ』

「…………」


 実は、この場の誰もが、彼と話をしたがっている。双子にとっては、『兄の父』であり。ディアナにとっては、『父の妻の夫』。きさらぎにとっても、ネフィリムとして自身のルーツを知る為の鍵であるからだ。


「……来てくださりありがとうございます」


 アルテがそっと近寄り、そう言った。遠慮がちな様子で。どこか緊張して。


『呼ばれたからな。私も戦いが始まるまでは暇がある。……フミツキへの教育も夕刻からと時間が決まっている』

「…………はい」


 彼女らの父親である悪魔シレークスは、同じ女性を妻とする、このカエルムに対して憎悪を抱いていた。暴れまわり、周囲を妻ごと破壊しかねないほどの怒りを感じた。

 このカエルムも。同じ気持ちである可能性は高い。自分が消えた後に、愛月と結ばれたシレークスに。そしてその子供である自分達を快く思っていないであろうとは、簡単に予想できる。例え何も言わずに姿を消してしまった負い目があるとしても。


 その躊躇と、やはり家族として仲良くしたいという思いが葛藤している。敬愛する兄の、父親だから。

 そんなアルテの気持ちを、カエルムも察している。


『……私が怖いか』

「! いえっ。……そうじゃ、ありません」

『正直、私もお前達にどう接して良いかは迷っている所がある』

「!」

『だが——アヅキとソフィア・エバンスは「仲が良かった」のだろう?』

「……! はい」


 愛月とソフィアは、シレークスという夫を共有しながら。仲を違うことはなかった。勿論男女の性格の違いや、そもそも彼女らが変人だということもあるのだろうが。


『ならば私……。我々も、歩み寄る努力はしなければならないのだろうと思っている』

「!」


 恐らく『子』が居なければ。こんな考えにはならなかっただろう。それはシレークスも同じだ。

 文月が。この双子達と『強い信頼関係』を結んでいるのだ。それを破壊したいと思う親は居ない。


「じゃあ、『カエルムパパ』って呼んで良い?」

『!』


 アルテの横から。セレネが言った。通常彼女はそんな許可など取ろうとせず好きに呼ぶのだが。

 この件に関しては慎重になった方が良いと感じたのだ。

 真剣に悩むアルテを側で見ているから。


『……ああ。是非呼んでくれ』

「やった!」


 ママがふたり。パパもふたり。

 最高じゃないかと、セレネは考えている。


「てんし!」

『む』


 神奈が、気付けばカエルムの足元までやってきていた。今は武装はしていないが、靴や服、腕に着けている装飾品は金属だ。怪我でもしたら大変である。


「抱いてあげてください」

『……ああ』


 きさらぎの許可が出た。カエルムは気をつけつつ、優しく神奈を抱き上げた。


「てんし! はね!」

『ああ、天使だ。元な』


 神奈がカエルムの背中へ手を伸ばして、わしゃわしゃと翼を触る。

 ディアナが、それを見て。女子の群れに入っても違和感が無いと感じた。

 彼は元天使である。そのビジュアルは間違いなく『美男子』。迫力と雰囲気に圧されてはいるが、まるで神話の登場人物のように綺麗な容姿をしている。

 愛月でなくとも惹かれてしまうのは当然かもしれないと。


『…………』

「どうしました?」

『いや。……フミツキも、こうして抱いてやっておけば良かったなと今更後悔をしている』

「……抱いてあげなかったんですか」

『その前にアヅキの元を離れた。……当時は仕方無かった思っていたが、今になればもう1日程度遅らせても良かったと思う』

「…………」


 空白の19年は、これからも埋まることは無い。今やっと、初めて文月へ父親らしいことができているのだ。


「……なんだか滅茶苦茶ですよね。私もですけど、『家族』が」

『ああ。つくづく、数奇だと思う。……フミツキはこれをなんとかしたかったのだな』

「?」

「あっ」


 家族は、皆一緒に居るべきだ。

 だが今は、世界中に。宇宙中に散らばってしまっている。

 ならば集めて回ろうと。


「『全員集合』……」

『ああ。そんなことを言っていた』


 それはずっと変わらない、彼の目標だった。最初は父親を捜し、母親と再会することを望んでいた。

 だがある日、不意に妹がふたりも現れた。しかも異父姉妹であり、その父親も家族であり、さらに行方不明であると。

 そして、母親に会う途中でまた、今度はその妹の異母姉妹であるディアナと、その母ソフィアに会う。彼は彼女らも自らの家族とした。

 集合するべき『全員』がどんどん増えていく。宇宙だ地獄だといった話に広がり、それは困難を窮めていく。


『フミツキに一度、それを否定してしまった。全員など不可能だと』

「でももう、気付けば結構揃ってますよ」

「!」


 きさらぎが、この場を見渡す。全員が、文月の『家族』だ。アルテにセレネ、ディアナ、きさらぎと神奈、そしてカエルム。

 このメンバーの中だけで言えば血縁の無い者も居るが。

 中心に『文月』を置くことで、全員が『繋がる』。


「親連中——愛月ちゃん、ソフィアさん? と、シレークスさん? あとカエルムさんにまだ隠してる夫や妻が居ないなら。あと3人で『全員集合』は達成でしょ」

『私が知る限りは居ない』

「じゃあ、あとは愛月ちゃんとソフィアさんとシレークスさんだけね」

『!』

「それも居場所が割れてますしね。お父様とソフィア様は地獄に居ますから」


 気付けば。

 もう、あと少しだ。愛月の魂の居場所だけはまだ掴めていないが。

 それを見付けて、再度月まで行けば。


 もう、文月の夢は夢ではない。


『(あとはアレックスもだが、それは「代償」が無くなれば伝えられる。エバンスの老夫婦や萩原美裟とその家族も、居場所は分かっている訳か)』


 いよいよ、愛月の計画も大詰めという所で。文月の目的も達成させられそうな所までやってきている。


『(使えるものは全てを利用するアヅキの考え方が、フミツキの目的を有利に進めたのか)』

「てんしってとべるの?」


 あとは、シレークスとの関係を、どうにかしなければならない。息子の為に。

 カエルムはそう思った。


『ああ飛べる。では島内を一周してやろうか』

「あっ! ずるい神奈ちゃん。ねえカエルムパパわたしもっ!」

『ならば掴まれ』

「やった! ほらアルテもっ!」

「えっ。えっ。だって、アルテは脚が」

『構わん。背に乗れ』

「ディア姉とキラ姉はっ!?」

「いや流石に積載量オーバーでしょ。私はパス。なんか恥ずいし」

「……わ、私も恥ずかしいので」

『いやディアナ。お前は絶対に来い。ほら掴まれ』

「な! なんでです——ひゃっ!」

『会話にあまり入って来なかっただろ。遠慮などするな』


 形式でなく。血縁でなく。

 『父親』でありたいと。

 文月と直接会ってから、カエルムは強くそう思うようになった。この気持ちは初めてかもしれない。

 家族であるなら。自分が父親だ。

 皆の。


『さあ行くぞ。魔女の飛行魔術とは違う天使の飛翔を見せてやる』

「なんかキャラ変わってません!?」


 逞しい腕に抱かれる幸せと。

 可愛い娘たちを抱く幸せと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ