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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第9章:父親と夫婦
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第97話 敵の懐へ

「持ってきたぞ。『悪魔の武器』だ」


 さらに数日後。ルシファーがやってきた。この間に文月は、組織皆に説明をしていた。


「丁度666振りある。好きなものを使え」

「うおお!」


 兵士達は、悪魔王が持ってきた品々に沸いた。


「おい! これまさかレーヴァテインじゃね!?」

「こっちはダインスレイフだ! まじかよ!」

「え? これはなんだ?」

「馬鹿お前、それバルムンクだ!」

「おいおいトリシューラまであんじゃねえか!!」

「ゲイボルグ!」

「グングニル!」

「「ブリューナク!」」


 まるで市場のように、一気に賑わった。

 ……兵士のみ。


「…………えっと、なんだあれ?」


 伝説の武器の知識など無い文月は、困惑しながらルシファーに訊ねた。何故この男達は、おせちを見た双子のようにはしゃいでいるのかと。


「悪いが大体はレプリカだ。本物は基本的に天界の所有だからな。だが能力や精度耐久性は申し分無い。俺が本気で複製したからな。『主神』クラスとぶつからない限りは折れたりしないだろ」

「……もしかして、この数日で作ったのか?」

「全部じゃねえよそもそも俺はコレクターだ。その情報も知ってたんだろお前の母はよ」

「!」


 月で、戦力を整え。

 金星で、武器を調達し。


 準備は万端である。


「因みに俺は一緒には行けないからな。クソ神の罰のせいで金星を離れられねえ。神の野郎をぶち殺す瞬間を見れないのが癪だ」

「いや充分だよ。ありがとう」

「勝てよ。……ああそれと。地獄には来てなかったぞ」

「えっ?」


 ルシファーは金星の主と同時に、地獄の王とも言われている。地球、月、金星は3つとも、死の世界である地獄に通じている。


「川上愛月の魂だ」

「!!」


 ルシファーも分からないと言った様子で。不思議そうにそう言った。


「本来死者は天国か地獄に行く。あの女が天国はあり得ねえとするなら地獄に来てないとおかしいがな」

「……確かに」


 ソフィアは、きちんと地獄へ辿り着いていた。シレークスからそう聞いている。

 ならば愛月も、何もなければシレークスの元へ行かないだろうか。


『まだ、アヅキの肉体から魂が出ていないかもしれん』

「父さん」


 その会話に、カエルムが加わった。


「どういうことだ?」

『「代償」による死亡について私は詳しくない。こういうことも、あり得るのかもしれん』

「魂が現世にあるなら分かるだろ」

『いや、普通の人間ならばそうだが、アヅキの肉体は「ブラックボックス」だ。誰にも窺い知ることができない。そこにまだ魂があっても、不思議ではない』

「なるほどな。魔術で肉体を保存しているならばあり得ても良いか。あの女のことだ」

『自分の死後にも、策を用意している可能性か。確かにアヅキならあり得る』

「…………ってことは、まだ生きてるのか!?」

『死んでる。それは変わらない。だが、もし復活するのなら、その可能性は高いかもしれんな』

「……!!」


 愛月の魂はまだ。この世にあるかもしれない。

 それを聞いて、文月の心はいくらか軽くなった。


「じゃあ俺は帰るぞ」

「ああ。ありがとう」

「人間の癖に俺にタメ語なのはお前とお前の母親だけだ」


——


——


「出発しよう」

「!」


 ルシファーが去ってから。操縦室へ向かった文月が、魔女達に告げた。


「かしこまりました!」

「すぐに準備いたします!」


 お茶会でも開いていたのか、操縦室には紅茶の香りが漂っている。というよりテーブルを持ち寄って菓子も置いてある。

 まあ魔女らしいなと、文月は思う。


「では、はい」

「?」


 その場にはウゥルペスも居た。彼は文月に、マイクを差し出した。


「なんだこれ?」

「放送魔術、ですかね。城内に聞こえますよ」

「……なるほど。ありがとう」


 もう、600人を越える大所帯なのだ。いちいち全員を集められない。

 改めて、魔術は便利だなと、それを受け取った。


——


『……これから俺達は、いよいよ敵の本拠地である天界——「太陽」を目指して離陸する。降りるなら、これが最後だ』


 学校内に流れる放送のように、城内の至る所から文月の声がする。皆手を止めて、それに傾聴する。


「降りる奴なんかいねーよ」


 誰かがふざけてそう言った。


『……俺は、「天界」へ特別恨みは持っていない』


 攻め込む前に。

 言っておかなくてはならないことがあると、文月は考えていた。

 丁度良いので今、言ってしまおうと。


『復讐心では、動いていない。そこは、皆と違う所があるかもしれない』


 この戦いの、動機についてのことだ。


『地上は今、天界からの「怒り」による天変地異で滅茶苦茶になっている。大勢の人が死んでいる。……それは天界が行ってはいるけれど、その「スタートボタン」を押したのは俺達だ』


 地上に家族のある者は沢山居る。アルバートには妻子が。ディアナにも祖父母が。『堕天島』と『月影島』が安全とは言え、心配なのには変わり無い。


『だから、責任がある。「元通りにする」「救う」という、責任が。母さんの地位を継いだ俺は、母さんの責任も当然に引き継ぐ。滅茶苦茶になってしまった世界を元通りに。皆を幸せに。……俺はその責任を果たすつもりでいる』


 知らなかったとは言え。荷担したのだ。

 知らなかったでは済まされない事態に陥っている。


『全能の力があれば、元通りにするのは簡単だ。さらにより良い世界にもできる。……勝てば、オールハッピーだ』


 文月が天界というものに対して抱く感情、感想、そのモチベーション。


『何より奴等が、俺達の地球を。家族を。痛め付けている。それは、何としても止めなければならない』


 知らなかったとは言え。

 誰も知らないとは言え。

 地球人類の希望と『なってしまった』のだ。

 文月達が負ければ地球人類は滅亡する。

 勝てば、全て手に入る。救済と再生。


『これは別に、母さんの尻拭いとかじゃない。遅かれ早かれ、終末は来ることになってたんだ。俺達が多少早まらせただけ。だったら俺は最初から。こんなことになっていなくても。「こう」していたと思う』


 仕方無く母を継いだのではない。

 寧ろ知りさえすれば、積極的に行っていただろう。


『作戦はある。これから全面戦争だけど、これだけだ。長引くようなものでも無い。勝って、家族の待つ地球に帰ろう』


——


 おおおおお、と。

 操縦室に居ても、部屋の外から鬨の声が聞こえた。


「なんかサマになってきたわね」

「そうかな。まだまだだよ」


 終わる頃には魔女達は準備を完了していた。これまでと同じく、3人交代制で『九歌島』を目指す。


 地球を破壊し、人類を滅ぼそうとしている勢力に対して、武力を行使してやめさせる。

 基本はこうだ。その条件に、『全知全能の譲渡』が入る。これは『元通り』に必要だからだ。

 そして背水の陣である。引くことはできない。地上へ戻っても、大人しく絶滅を待つしかない。神も仏も信用できない彼らは、神や仏の『救済』の枠には入れないからだ。


「地上の人達からしたら、俺達は最悪の希望だな」

「まあ、テロリストに『世界を救ってやる』とか言われてもね。気にしなくて良いわよ。あんたがやりたいことやれば」

「……ああ。勝って、元通りにして、俺達の罪も人々の記憶から消す。それで世界は元通りだ。代わりに俺も、地獄行きだけど」

「そのチケット、2枚用意しておいてね」

「……ありがとう」


 どこかで歪んでしまった『世界』を、元通りに。それは歪めてしまった原因の一端を担う、自分の母の罪だ。そして息子の自分には、それを雪ぐ責任がある。

 文月はそれを第一に考えた。


「では、離陸します。目的地『太陽』。到着まで凡そ1ヶ月です」

「えっ? 月から金星で1週間だったのに?」

「単純な距離じゃないんです。太陽からの紫外線やX線は、近づくほど強力になるんですから。結界を調整しながら行って、約1ヶ月です」

「…………まあ、ここまで1週間もおかしかったし、ここから太陽まで1ヶ月も相当おかしい時間だけどね」

「ともかく行こう。天界側がどう出てくるか分からないけど、俺達は進むだけだ」


 島が揺れる。金星の赤い大地からゆっくりと離れる。

 まだ見ぬ敵の懐へ。

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