第77話 悪魔成分多めのパーティ
「船はここに置いておいて大丈夫かしら?」
「ああ。取り敢えず問題は無い。……ちと巨大過ぎるがな」
「うふふ。かっこ良いでしょう」
「船ではなく島だと思うが」
『夜』一行は、しばらく待ち惚けを食らっていた。ひねずという者では外交に関しての決定権は無く、上層部へ確認を取っているらしいのだ。
「もしやそなたらは『反逆者』か」
「……何それ。月ではそう言うの?」
「……そうだ。ここよりさらに上界、『神の国』に逆らう者をそう呼んでいる」
「ああそう。で、いつまで待たせるのよ」
「ぬ。しばし待て。私を急かしても変わらんぞ」
「……はぁ。まあ、いきなり戦闘にならなかっただけマシかしらね」
「月界も、今はてんやわんやだ。恐らくそなたらのせいでな」
「知らないわよそんなの。月人は地上に興味無いんじゃなかったの」
「とは言え無関係ではいられぬ。金星ほど無関心ではな」
「あっそ。ねえ、じゃあわたし達は犯罪者なの?」
「いや当然だろう。『九歌島』は元々天界の島だ」
「その割りには捕まえに来ないわね」
「放っておいてもそなたらの方から捕まえられに来るからな」
「……寿命ってことね。気の長いこと。その悠長が、首を絞めないと良いわね」
「私ではなく『上』に言ってくれ」
愛月は空を見上げた。島からは誰も降りて来ない。皆一様に動揺しているのだ。
「月に人は居らぬと教わるのか」
「まあそうね。今のところ、人間は地球にしか居ないとされているわ」
「ふむ。ではあの若者は約束を守ったのだな」
「……アームストロングのこと? それともサーナン?」
「そんな名だったか。……あの後も数度地上人が来たが、我々は隠れていた。来ることが分かっていれば隠れられる。50年前の、あの一度のみ、地上人は我々の予測を越えたのだ」
「すごく、上から目線ね」
「実際に上に居るからな」
「ムカつくわ」
「知らぬな」
——
「……本当に月面か」
「ここまできて映画のセットでも無いでしょうね。……現実味は無いけど」
そして。
停泊体制に移った『九歌島』には、常駐の魔女が3名居れば良い。文月は自由になり、早速城から出た。
「景色はばっちりね。……ずーっと夜だろうけど」
「落ち着いてるな。戦いにはなってないのか」
「降りてみましょっか。空気とか、大丈夫なのかしら」
「あそこに母さん達が居る。大丈夫じゃないかな」
広場を突き抜け、兵士達の間を抜けて。坂道を降りて。砂浜のようなレゴリスに着地した。
「あら文月。魔女達は大丈夫そう?」
「ああ。取り敢えず次の出航までは酷い『罰』にはならなさそうって」
「そう。……アレックス。悪いけどウゥルペスと双子と、あとディアナを呼んできて貰えるかしら。あと伝言。他の幹部以下、全員は待機よ。あなたを含めてね」
「かしこまりました」
「あ。まあ魔女のひとりふたりくらいは付けても良いけど」
アレックスはすぐに引き返し、『九歌島』へと向かった。
「待機?」
「ええ。わたしとあなたと、双子とディアナとウゥルペス。それとフランソワ。あと美裟ちゃんとエマね。9人で行くわ。月には補給で寄っただけだから、すぐに金星へ向かうのよ」
「……そうなんだ」
メンツを確認する。双子とディアナとウゥルペスとフランソワ。
「(……悪魔成分が多めね。逆に、天使成分は文月だけ。きさらぎさんは呼ばないのね)」
愛月を別枠とするなら、純粋な『人間』は自分だけかと美裟は思い。
そもそも『夜』がそういう組織だったと思い直した。
「(ん。神様の力借りる分、あたしも人外に片足突っ込んでたりして……)」
銃弾をものともしない、この間まで日本の女子高生だった少女がどこにいるのか。
美裟は割りと自分もぶっとんでいるのだと、ここでようやく自覚した。
——
「川上愛月よ。要求があるなら今の内に聞いておこう」
ひねずが訊ねてきた。愛月はそうねえ、と考える振りをして。
「そりゃまず、ツクヨミに会わせてよ。それから、フランソワがサリエルに会いたがっているし。あとわたしの夫も居るはずよ」
「!!」
「は!?」
「えっ!?」
「なにを……!?」
ひねずと。文月と、美裟と、フランソワが。
それぞれ驚愕の声を出した。
「む……! 無茶を言うな地上人! つ、月読命様となど、会える訳がなかろう!」
「えっ! 母さんの夫!? てことは……父さんが居るのか!? 月に!?」
「ていうかサリエル様も不可能だ! 分をわきまえよ!」
文月とひねずが、愛月を挟んで問い詰める。
「…………」
受けて、愛月は。
「あはははっ」
「!」
楽しそうに笑った。文月などはずっこけそうになってしまった。
「いや母さん、笑う所でも無いし」
「あはは。ごめんなさい。なんかふたりとも必死で」
それから愛月は、まずひねずに応えた。
「あなたが、『上』とやらに言葉を伝えられるならば、『カエルムとシレークスの妻である川上愛月が、子供達を連れて来た』と伝えて頂戴。しっかり、間違えずにね」
「……それがなんだというのだ。その、カエルムとやらは何者だ」
「あら、下っ端警備員にまでは知られてないのね。まあ気にしなくて良いわよ。取り敢えず頼んだわ」
「……承知した。待っていろ」
伝えるだけは伝えるが不可能だ。そんな言葉を残して、ひねずは姿を消した。
「……母さん」
「なあに」
「月に、普通に人間が居るんだな……」
「そうね。今の地球のトップ達がひた隠しにしていることのひとつよ。言葉だって同じでしょう?」
「!」
愛月が、カエルムから『知った』ことのひとつ。以前、世界中に知らせるつもりだった事実のひとつなのだ。
「……ここに父さんが居るのか?」
「いいえ。あなたの父親では無いわ。文月」
「!」
だが。世界の真実など、そんなことはどうでも良い。今文月は、聞き捨てならない名前に反応しているのだ。
「……じゃあ、アルテとセレネの」
「月は『死の国』と繋がっているのよ。だから、会えるんじゃないかってね」
「…………」
「(シレークス……って言ったわね。それが、アルテちゃん、セレネちゃん、ディアナちゃんの父親の名前)」
美裟も聞き逃してはいない。
「ならソフィアさんも?」
「どうかしらね。ひと言で『地獄』と言っても、宇宙の何倍も広いから。ソフィアが先か、わたしが先か。確率は五分五分ってところかしら」
「…………」
次々と、『よく分からない』言葉、話が出てくる。愛月と話すといつもこうなのだ。ひとつひとつが常識はずれで、ついていくのに必死で。
知りたいことを訊いても、理解が追い付かない。愛月が情報を出し惜しみしている訳ではないのだが。
「ママ! フミ兄。お待たせ~!」
「あら来たわね」
そこで、アルテとセレネ達が合流した。
「やっぱり僕も行かなきゃ駄目ですかね」
「当たり前じゃない。頼りにしてるわよ、ウゥルペス」
「……僕、シレークスさん苦手なんだけどなあ」
ウゥルペスが嫌そうな顔をしていた。彼はふたりの魔女を侍らせている。
「なんですか、文月君」
「いや。……珍しいなって」
「そりゃ僕にも苦手な人くらい居ますよ。特にすぐ暴力を振るう獣みたいな馬鹿が嫌いです。古い悪魔に多いんですよ。暴力セックス俺最強! みたいな」
「なんだそれ……」
「えっ。パパ? それって……え?」
その横で。美裟から話を聞いたディアナが口を抑えた。
「パパ!? パパに会えるの!?」
セレネも歓喜した。
「ていうか、月にいらっしゃったんですか。お父さま」
「いいえ。月ではなくて、月から、『地獄』が近いってだけよ。まあ、せっかくこうして全員集まったんだから、ちょっとだけでも顔覗かせて欲しいわよねえ」
——
そうして、しばらく待ち。
再び警備員ひねずが目の前に現れた。他の月人達も、消えたり現れたりしている。月特有の移動手段なのだろうか。どれひとつ取っても、文月達には理解できなさそうなテクノロジーがありそうだ。
「川上愛月」
「遅いわよもう」
「知らぬ。……だが、許可が下りた。これはまさしく50年……否、1500年振りの一大事だ」
「へぇ……」
ひねずは驚いていた。まさか許可が下るとは、と言った風である。
「なら、早く案内して頂戴」
「ああ。……そなたらにこれを」
「?」
ひねずは、懐から『布』を取り出した。自身にも巻かれている、ふわふわと浮かぶ不思議な布である。それを、人数分。
「『羽衣』だ。これが無ければ月の国には入れぬ」
「入国許可証って訳ね」
「……ん?」
美裟は。
回ってきた羽衣を手渡されて。
思い至った。
「……『1500年前』って……もしかして浦島……」
「あら、やっぱり賢いわよね美裟ちゃん」
「えええええっ!」
「文月も勉強しなさいよ?」
「えええええっ」
何もかも。
意味不明である。やはり慣れないなと、文月は項垂れた。




