表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第6章:佐々原きさらぎ
71/120

第71話 奇跡持ちの気持ち

「えっと。理由か。んー。私の場合そもそものケースが愛月ちゃんと一緒だしね。どうして、私が『こんな』なのか。知りたいよね。死んでも生き返るって、やばすぎでしょ冷静に考えて。ていうか家族なんて神奈だけだもん」

「!」

「ママは震災で普通に亡くなったもん。ネフィリムだけど『奇跡』なんて無かったし。パパは最初から知らない。祖父母なんて居るのかすら知らない」

「……神奈ちゃんの父親は」

「知らないったら。どっかで死んでたら嬉しいけどね。強姦魔だから」

「!!」


 さらりと、また。

 衝撃発言が飛び出した。


「へえ。だから似たような雰囲気の僕を生理的に嫌うんですね」

「自覚あんのかよ。黙ってろお前」


 何故か嬉しそうなウゥルペスを、アルバートが抑えた。


「……同じ学部でサークルだったけど。別に絡みもあんま無いし好きでもなかったのに。……因みに『そいつ』に、初めて殺された」

「えっ……」

「私が思い切り暴れたから、ブロック塀か何かで頭をね。ごちんと。……で、その間に『やられた』って訳。まあ、そいつがサディストに目覚めたのかネクロフィリアに目覚めたのかは知らないけど。二度と会いたくない、てか死ねば良い」


 急に。慈愛の眼差しから一転。その瞳には殺意が宿された。


「私は結構昔から、『世界』が嫌いだった。クラスのマドンナってね。敵の方が多いんだよ。私は何をされてもいじめにはならないの。喧嘩になる。で、どっちも悪いってことにされる」

「…………」

「女は皆私をビッチ扱いする。男は皆、私の人格じゃなくて顔と身体しか見てない。……『人間』が嫌いだった」


 活発で、元気で。はきはきとした彼女の。

 『闇』の部分が。

 顔を覗かせていた。


「でもそんな頃に愛月ちゃんと再会して。相談して。子供も、しっかり産んでちゃんと育てようって思って。……頑張ってきたの」


 最後に。

 トーンを落として。

 文月を見た。


「だから、私は世界が滅ぶなら滅んで欲しい。神の救済もムカつくから阻止したい。だってこんなに頑張って苦労してるのに、私は楽園に行けないんでしょう?」

「!」


 その瞳には殺意ではなく。

 涙が浮かんでいた。


「誰を褒め称えたら良いの? キリストが私に何をしてくれたの? あの処刑だって、神とか罪とか関係無いじゃん。ただローマ帝国に捕まって普通に処刑されただけじゃんっ」

「…………」


 文月は目を逸らさなかった。今さっき、『姉』となった者の、心の叫びだ。

 家族の。涙である。


「……ママも苦労したって言ってた。奇跡はなくっても、人と色々違ったらしいから。でも神奈は。……私の娘は、普通に幸せに生きて欲しい。今の世界が『おかしい』と私は思ってる。神奈がいじめられない保証は無い。それなら、愛月ちゃんの計画に乗って、『皆が幸せになれる』世界に行きたい」


 皆が幸せに。

 愛月はそれを目指しているのか?


「……ごめんねフミ君。なんか、ひとりで盛り上がっちゃって」

「いや。……今の話を聞けて良かった。姉さんとこれから一緒に過ごすんだ。距離が縮まった気がするよ」

「フミ君…………」


 ぐすりと、鼻を啜る。


「……以上です」


 そう言えば、文月だけではない。この場には幹部が揃っているのだ。

 急に恥ずかしくなったきさらぎは、小さくなってすとんと座った。


「(……『世界』『人間』が、嫌い、か)」


 恐らくきさらぎは、社会の一部しか経験していない筈だ。当然だが、まだ22歳である。

 だが運悪く、『人間の闇』の部分を過剰に摂取してきてしまったのだ。

 つまり世界全部、人間全部を『嫌う』には早計すぎるのだが。ここまで来ればその説得は意味をなさない。

 彼女の人生は『そういう』ものだった。


「(俺はあの孤独といじめを経験しても、そこまで世界や人を憎まなかった。……いや憎めなかったのか)」


 とにかく。

 きさらぎは心から、愛月に協力しているのだ。それだけは強く印象に残った。


「じゃあまあ、文月を飛ばして……次はあなたね」

「!」


 もうひとり。この場には居る。愛月と、アルバートと、ウゥルペスと、きさらぎと。

 文月の他に。もうひとり幹部が。


「はぁ。……オイラも自己紹介からかなあ」


 ボサボサの黒髪。無精髭。ボロボロの服。

 みすぼらしい、というのが文月の正直な第一印象だった。こんな男が、幹部なのか? と。


「(だけど恐らく、アルテの言っていた『もうひとりの奇跡持ち』)」


 文月から少しだけ、緊張感が発せられた。


「オイラぁ『リー』って呼ばれてる。出身はアメリカだが親の籍は知らねえ。年齢もほんとの所は知らねえ。30~40の間じゃねえかなとは思う」

「……リー、さん」

「あー。長ぇこと路上生活しててな。まあ芸人みてえなこと繰り返して日銭稼いでた。んで、ある日愛ちゃんに目ぇ付けられた」

「組織を作ろうと思って、まず最初にスカウトしたのが彼なのよ」

「(……愛ちゃん……。一番ありそうなのに呼ばれなかったアダ名だな……)」

「なんかあるか? 今」

「?」


 リーは愛月へ何かを確認した。愛月は周辺をキョロキョロして。


「ちょうど今日壊れたペンがあったわ」

「寄越してくれ」

「はい」


 壊れたペン先。折れてしまっている。もうゴミだろう。


 それを、リーは握り締めた。


「えっ?」


 ごつごつとした、太い指の手の平がゆっくり開かれる。

 そこにはペン先ではなく。


「米だな」


 数グラムほどの白い米粒があった。


「!?」

「な。これがオイラの『奇跡』。マジックトリックじゃねえぞ。魔術でもねえ。この島の食糧は大体、オイラが作ってるからな」

「……えっ?」


 ふふんと、鼻を鳴らせたリー。そこへきさらぎが、疑問の声を挙げた。

 リーはそれを見て。


「あのな。仕事の時はきちんと風呂入って散髪して手ェ洗ってやっとる。人を『汚いもの』見るような目で見んじゃねえや」

「あ。いや……。ごめんなさい」


 不潔。

 そのイメージは、事実とは異なろうが。

 少なくともきさらぎの、『なんか嫌』の範疇に入ってしまっていた。


「オイラをみすぼらしいと思ったか? なあミス佐々原。あんたさっきキリストに文句言ってたな」

「え…………」

「コリント第一読み直せ。一章だ」

「…………えっと……」


 きさらぎは顔をひきつらせてしまった。リーを、怒らせたのだ。それだけは分かった。


「リー。あなたはもうキリスト教徒じゃないでしょうに」

「ん。……あー、そっか」


 そこへ、愛月が助け船を出した。


「全く。だからもう、あなたが好きでその格好をする必要すらないのに。ちゃんと髪も整えて髭も剃って、背筋もピンとしたらハンサムなのにねえ」

「オイラぁこれで良い。……んで、愛ちゃんを手伝う理由だっけか」

「そうよ」

「!」


 リーが、文月を見た。

 アルバートとも、勿論ウゥルペスとも違う。何を考えているか分からない目で。


「オイラぁ嫁っこが居たんだ」

「!」

「だが、生死が分からねえ。警察は死んだっつうが、死体は上がらねえ。もう探せもしねえし、真相は闇だ」

「えっ」

「……テロの被害者よ」

「!!」


 愛月が補足した。


「んで、愛ちゃん手伝ってる。『真実を知る』にゃそれしかねえってな。正直、あの瞬間オイラの『世界』は終わったんだ。だから、もう神もキリストも知らねえ。知らねえやつの命はどうでも良いだろ。協力すりゃ衣食住に困らねえってな」

「…………」


 真実を知る。

 リーのその言葉は正に、文月を打った。


 自分が何者か知りたい。

 きさらぎの気持ちは充分理解できる。


 家族を守る為に。

 アルバートとは完全に、意見が一致している。


「……分かった。皆、ありがとう」

「うふふ。良かったわね」


 訳の分からない悪魔以外のメンバーの理由には納得できた。それぞれが、生きる目的に繋げている。


「さて。じゃあわたしの話ね。『夜』の最終目標と、達成後のビジョン、だったかしら」

「……ああ」

「うふふ。良いわね。もうそこまで気にして、考えてくれてるなら。『夜』も安泰ね」

「茶化さないでくれ」

「ええごめんなさい。じゃあ説明するわね」


 愛月は嬉しかった。

 この数ヶ月で、文月はみるみる成長していっている。それは愛月がコントロールできない要素——


 『美裟』の存在が大きいのかもしれないと思っていた。


「(カエルムはどうせ童貞じゃなかったろうし。『男の子』が『男』になる瞬間を、初めて見てるのかしらね)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ