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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第6章:佐々原きさらぎ
65/120

第65話 魔女は飛べるんだよ

 日本上空へ到着した。現在、午後10時過ぎ。


「あれ、そう言えば本州には停められないって」

「急いでんだろ? 大サービスだ。『ここから飛べ』」

「へっ……」


 全く冗談に聞こえない真面目なトーンで。

 ケイはそう言った。


「上空を通過する程度なら大丈夫だ。だからお前らは『飛べ』」

「…………」


 下を見る。

 地面など見えないほどに高い。


「そもそも、なんで停められないんだ?」

「日本の神がうるせえんだよ。俺というより、『ブラックアーク』を嫌ってる。何故かは知らねえ」

「…………」


 そんな、意味の分からない理由で。


「え、飛ぶ? 飛ぶってなによ」

「そのまんまだ」

「……は?」


 文月と、美裟は。

 理解が追い付かない。


「美裟さん」

「えっ?」


 アルテが、美裟の手を取った。


「じゃ、わたしはフミ兄」

「ん?」


 そしてセレネが文月の腕に抱き付いた。


「ここまで送ってくださり、ありがとうございました」

「ああ。またな」


 アルテがさらりとケイに挨拶して。


「え? ……は?」

「いくよフミ兄」

「ちょっ……?」


 恐らく魔術だろう——子供とは思えない力で。


「はっ!?」


 持ち上げられ、空へと放り出された。


——


 雲の上から。

 パラシュート無しのスカイダイビング。


「…………!! ……!」


 息ができない。声が出ない。恐怖などという優しいものではない。

 死ぬことしか考えられない。


「あはははははっ!! あああ~っ!!」


 セレネは爆笑している。

 楽しんでいるのだ。


 落下速度は加速していき、最終的には時速800キロを超えることもある。しかし体感としては、飛んでいる(浮いている)ような感覚になる。


「……せっ! セレ、ネっ!!」

「あはははーっ!!」


 なんとか声を絞り出したが、セレネには聞こえていない。というよりロープも無しにどうやってしがみついていられるのだろうか。


「…………!」


 山が。街が。光が見えてきた。着地はどうするのか。どこを目指しているのか。双子が死にたがりでなければ、考えがある筈だ。

 何故なら、文月ごと即死してしまえば。『治る』可能性があるのはセレネだけだ。それも治療の時間が死ぬまでに足りるか分からない。アルテと美裟に至っては近くに着地することすら偶然に期待するしかない。


「(……や、やばすぎだろ……! 何にも見えない……! 分からん!)」


 突然の意味不明に襲われた文月はパニックを起こす。とてつもない風圧。気圧。気温。

 解放感。

 当然である。


——


「あははっ! ようし! そろそろだね! わたしだけフミ兄に触っててズルしてるから、先に降りてないとねっ!」

「……!?」


 数分か、数時間か。もはや時間感覚すら掴めなくなった文月。

 だが妹のセレネは、楽しみながらも冷静だった。


「操風魔術! プラス……『魔女の軟膏』!」


 取り出したのは、1本のロープ。3つの結び目が等間隔で付いている。

 文月のアパートで、姉妹が初めて見せた魔術である。


「(いや、もうぶつかる……!)」

「そーれっ!!」

「!?」


 急に。

 落下する文月の身体は、浮上する感覚に襲われた。


 否。急に——


 引っ張られたのだ。

 物凄い力で、横方向に。


「とっ…………!?」

「そうだよっ!」


 落下は止まった。減速もした。だが今度は、引っ張られている感覚。


「……!」


 少しだけ冷静になった文月は、『景色』を見た。

 夜。東京の街並みからは色とりどりの光で飾られている。

 その、東京の夜空の景色が視界一杯に飛び込んでくる。

 風に乗って。


「『魔女は飛べる』んだからっ! フミ兄知らなかったの!?」

「…………!!」


 恐らくは、自由に。

 セレネの思う通りに進んでいるのだ。


「あははっ!? どう!? 楽しいでしよ!」

「……ああ」


 この飛行が、『セレネのコントロール下』だということが分かれば。

 もうパニックも恐怖も無い。

 純粋に『飛行』を楽しめる。


「ハリー・ポッターとか、ピーターパンの気持ちだよ」

「でしょー? あれの『元ネタ』がわたし達の祖先だからねー!」


 一瞬、誰かに見付からないかと心配したが。

 この気持ち良い風を受けては、すぐには止められなかった。


「カナガワ? ってどっち?」

「西だ。えーっと、あっちに見えるタワーあるだろ。取り敢えずあっちに向かってくれ」

「はーい! 多分アルテ達も遅れて来るよ」

「場所分かるのか?」

「誘導に『魔弾』使ってるからね」


 魔弾とは、『必ず当たる』という効果を持つ魔術である。これも以前セレネが使用する場面を文月が目撃している。


「(応用か。この子達の魔術を見る機会は少ない。だけどたった数個扱えれば、使い方次第で色々なことができる訳か)」


——


——


「……お墓?」

「ああ。最初は家に行こうと思ったんだけど、そう言えばもう取り壊しちゃったなと思って」

「フミ兄の部屋じゃなくて?」

「祖父さんと暮らしてた家だ。……母さんの実家って言ったら分かりやすいか」

「……ママの実家! ……もう無いの?」

「無いな。俺ひとりじゃ維持できなかったし。申し訳ないけど」

「…………じゃあ、お祖父ちゃんのお墓ってこと?」

「そうだ。……長居はできないけど。来れて良かった」

「うん」


 アルテ・美裟組との落ち合わせには墓地を選んだ。なんとなく、『人が飛ぶ場面』を目撃されるなら最も違和感の無い場所はと悩んだ時に、墓地が出てきたのだ。

 苦し紛れだが。


「(まあ東京だし。人くらい飛んでても誰も気にしなさそうな所はあるかなあ)」


 偏見だった。


——


「文月——!」

「おっ」


 しばらくして、美裟の声が聞こえてきた。彼女はアルテを抱きかかえるような姿勢で、すとんと着地した。


「文月。アルテちゃん治して早く」

「分かってるよ」

「……お兄さま……」


 やはり。アルテの方は『罰』を受けていた。神の定めた世界のルールを破る『魔術』という行為には、リスクが伴う。空を飛んだアルテへの『罰』は、下半身不随だ。

 これも、以前文月は見ている。直ぐ様アルテに触れ、その『奇跡』で治療する。


「吃驚したよ。あんまり無茶すんな」

「でも飛ぶしか無かったですよ」

「……そうだけど。ひと言くらいなあ」

「ねえ文月」

「ん」


 アルテとやんや言っていると、美裟が気付いた。


 街灯はあるが薄暗く、見えにくいが。

 『川上家』と書かれた墓石を。


「……ああ。祖父さんと……。俺も会ったこと無いけど祖母さん。そして、産まれてすらない伯父さんも、多分入ってる」

「…………そう」

「急いではいるんだけどさ。ちょっと、一瞬だけでも。黙祷だけやっていいかな」

「誰が断るのよそれ。あたしも祈らせて」


 治療を終えてそのまま、アルテは文月の手を握った。

 セレネも、美裟の隣に立った。


「……お祖父さまと、お祖母さま」

「川上照太郎と、えーっと、香月だ」

「……ふたりとも短命よね」

「そうだな。殺された祖母さんはともかく、祖父さんも50代だった」

「…………そう」


 会ったこともない人の墓であるが。


「……じゃあ、黙祷」


 目的は別にあるが。

 今日ここへ来れて良かったと。全員が心から思っていた。


——


「ま。次は母さんも一緒にな」

「はい。また来ましょう。今度は任務とかじゃなくて」

「ああ」


 急がねばならない。ブラックアークを使い、赤橋よりは先に日本へ着いた筈だ。

 赤橋が居なくとも、部下は常に佐々原きさらぎを監視しているだろう。

 急ぎ接触し、保護しなければ。


「多分戦闘になるよな」

「まあそりゃね。向こうもヤクザみたいなものだし」

「俺が居るから。思いきりやっちゃってくれ」

「ん」


 美裟は、文月の言葉に少し驚いた。


「あんたらしくないわね」

「ああ。なんとなく分かってきたんだ」


 横を見る。隣の文月を。


「どこかで、俺が腹を括らないと。周り……お前達が判断に迷って、困るなって」

「…………」


 覚悟を決めた男の眼だった。


「……そうね。ありがたいわ」

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