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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第3章:堕天島
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第35話 悪魔の正体

 話は、これで解散となった。目的地に着いてからは忙しくなる。今は身体を休める時だ。


 船室は狭く小さく少ない。女性で纏めて5人突っ込まれた部屋からぎゃーぎゃーと声がする。文月は休めずに甲板へ出てしまった。


「…………」


 陽が暮れ始めていた。


「(……結局、俺は『何』の子なのか)」


 遠い昔に、『姉』が居た。

 どんな感情を抱いて良いのか分からない。その人は既に寿命で死んでいるのだ。自分が生まれる前に。


「やかましいだろ」

「!」


 船首の方に、『K』が居た。夕日で瞳が光っている。それをとても悪魔っぽいと、文月は思った。


「女ふたりでもかしましいんだ。ウチは」

「……いえ。こっちも子供が居ますので」


 座れよ、と円卓に促される。


「……これまでの人生、全く『こっち』に関わってこなかった感じだな」

「当たりです。……ここ最近は毎日驚きの連続ですよ」

「ははは」


 目の前に、悪魔がいる。だが不思議と嫌な気持ちは無い。


「『悪魔』って何ですか?」


 いい加減、『驚き』に慣れなければ。文月はそう考えていた。これが普通になるんだ。これからの彼の生活は。


「……これはお前んとこの説明になるが」

「?」


 『K』は優しい好青年だ。色々と教えてくれるのだ。

 まるで後輩を見ているような目で。


「『人』『人間』『人類』。この3つを、使い分けてる」

「…………?」

「『人類』ってのは、生物的な話だ。霊長類ヒト科って感じだな」

「はあ……」

「だから、俺もお前も、あの双子もざくろも、『人類』じゃねえ」

「!」


 人類を人類足らしめる要素。それは全身がすべて、『人類』である必要がある。学問とは別に、彼らの中の『分け方』として、そう表現する。


「『人間』てのは、『知能と人格』を認められる場合を言う。つまり俺もお前も双子もざくろも人間だ」

「…………なるほど……?」


 人間であること。それは『話し』『感じ』ていれば、大体当てはまる。動物と人間が分けられる差でもある。喋る鳥は知能がなく、賢い猿やイルカは喋られない。


「『人』はな……。『敬意』だ」

「敬意」

「俺やお前、双子は半分は人類だ。だがざくろは正真正銘、1%も『人類』じゃねえ。だが……お前があいつのことを今話すとすれば、『あの犬』とは言わねえだろ」

「……『あの人』と、言いますね」

「そうだ。『犬生』とは言わねえだろ。そんな単語はねえ。あっても造語だ。『犬の人生』『犬の一生』が正しい。違和感あるやつは居るだろうがな。『人』ってのは何も人間だけに使う言葉じゃねえ」

「……!」


 彼は。日本語が流暢なだけでなく。色々なことを知っている。

 150年生きているのだ。


「会話じゃ、俺らは『半分人間』て言うけどな。まあ知識程度だ。片隅にでも置いとけ」

「……はあ」


 この前提を置いて。

 初めの質問に戻る。


「人類は、3種類しかいねえ」

「えっ?」

「白黒黄色だ。あとはその組み合わせだろ」

「……はい」

「だが『人間』は、ホモ・サピエンスだけじゃねえってことだ」

「え」


 彼を見る。

 半分人間と言うが。どう見ても『白黒黄色』のどれにも該当しない。顔色の悪さではなく、真に青白い肌など。


「知ってるか? 人間の歴史は、戦争の歴史だ。他の種族を全て滅ぼして、ホモ・サピエンスが生き残った。支配権を勝ち取った。それからもまあ、同じ人間同士で戦争は絶えないがな。今も」

「……では、『悪魔』とはその戦争に負けた人間の生き残りですか?」

「…………そう呼ばれる奴もいる。そいつらは知能が低く、『下級悪魔』なんて呼ばれるな」

「下級……」


 魔術の存在。召喚という単語。そして宗教。

 説明が回りくどいのではない。ひとつひとつ段階を踏まなければ理解できないのだ。文月は、『何も知らない』のだから。


「『悪魔』は霊的な存在で、肉体を持たない。……聖書じゃそうなってる」

「はい。アルテから聞きました」

「その悪魔は、人を乗っ取り、肉体を得る。それが『召喚』だ。悪魔1体の召喚に、人ひとりを犠牲にする」

「!」


 霊。

 今さら驚きはしない。悪魔が居るのだ。幽霊も居るだろう。


「乗っ取られた肉体は、変質する。特に脳だ。意識を『世界のルール』に干渉させ、小規模に乱すことができる」

「……ルール?」

「空飛んだり、透視したり、呪ったりな。端から見りゃ『あり得ない』ことを起こす力を持つ。だからこそ馬鹿な人間に崇められ、調子に乗る訳だ」


 魔術のことだと分かった。引力や電気など。人類が『ルール』と呼ぶ世界の力を限定的に変更することができる力。それを人の手によって『術』として、学問として整理して確立させたのだ。


「世界とルールは『神』が創られた、ってのが聖書の教えだからな。それを乱す者は『悪魔』であり、乱す技は『魔術』と呼ばれた。人間のまま使う者は『魔女』だ」


 『それ』が悪魔であるのならば。


「じゃあ肉体的には、やっぱり人間なんじゃ」

「変質するっつったろ。子ができたのは『偶然』だ。悪魔の契約って分かるか? 『乱交』だぞ」

「!!」


 どきりとした。

 『K』は依然、表情を変えないが。さらりと言うが。

 そうだ。

 調べれば出てくる。昔のヨーロッパで言われていた悪魔の契約とは。『そういう』ことだった。


「まあ、子が出来るまでやってたって理由もあるらしいがな。普通、1度や2度、10度くらいじゃ子はできん。似ているがもう別の生物なんだ。……昔、オ◯バー君てのが居たろ」

「? なんですかそれ」

「知らねえなら良い。『異種族』で子なんか作ることはねえんだ。良い事は何もねえ。倫理的な問題もあるし、感情的に嫌だし、法整備が追い付かねえ。人と動物の子に『市民権』はあるか?」

「…………分かりません」

「そうだ。判断できねえ。そもそも片方の親に人権が認められねえんだ。届け出もできねえ。『ペット』は法的には『物』だからな」

「………………」


 何の、話をしていたのだったか。文月は混乱し始めていた。


「『悪魔』は、国際社会で認められてねえ。それこそ獣と同じだ。『人類じゃねえ』なら、それはもう『動物』なんだ」

「!」


 『K』は。

 悪魔についての詳細ではなく。悪魔を取り巻く世界を説明してくれていたのだ。


「だから、お前の母親は『凄え』んだ。いずれあの双子の父親とも会うんだろうが……。あいつらの間には確実に、種族を越えた『愛』があった。それは俺にも分かる。あの『愛』を貫く為なら、今の人間世界なんぞ余裕で敵に回せるんだろうな」

「…………母さん」


 人類とは別の人間。それがこの世界に存在している。

 歴史的背景、国際社会、倫理的、法的に認められずに『悪魔』と呼ばれる『人間』が。

 そう考えれば。『絶対悪』とは。知らぬ者が勝手に言っているだけなのかもしれない。


「……『K』さんは?」

「そういや、さん付けも敬語も要らねえよ。日本名は『足利黥』だ。ケイでいい」

「……分かった。ケイの親は?」

「言ったろ。拉致強姦の末の子だ。父親も屑だが母親も母親でイカれてた。『娘』欲しすぎて現実をねじ曲げて俺に『キャサリン』なんて名付けたくらいだからな」

「…………そう、なんだ」

「……なんだよ」

「いや、俺の目的が、『家族全員集合』でさ。やっぱり皆仲良くしたいなって」

「……はっ!」


 文月の言葉を、嬉しそうに鼻で笑った。


「縷架はどうすんだよ。確証はねえが恐らく姉だぜ」

「うん。それも悩んでた。全員は無理なのかなって。ていうかケイが150年生きてるんだから、どうにかならなかったのかな」

「……あいつはずっと死に場所を探してたんだよ。あれもあれで過酷な人生だったからな」

「…………そうなんだ」

「因みに長生きはしてた。死んだのも最近だ」

「えっ!」


 人の寿命は、今は80年程度だが。最高齢ならば120歳越えも記録にある。ならば『復元能力』のある者ならばもっと生きていても不思議ではない。

 最近死んだというのも、納得はできる。


「……まあその話は、また今度でいいだろ。お前の家族って何人居るんだ」

「えっと……。俺と、両親と、妹ふたりと、その父親で……6人?」

「親3人子3人てか。妹の父親はお前と関係ねえけど良いのか」

「そりゃ、俺と血の繋がった妹の父親だし。それに母さんの夫だし。家族だよ」

「そうか」

「……まあ、母さんと愛し合った男性がふたりっていうのは、なんかこう、複雑だけど……」

「だろうな。お疲れさん」


 既に、法からは外れている。この船に乗っている時点で『人の目』に触れていない。

 ならば真実は政府などから与えられるのではなく、自分達で選択するものだ。

 自分が人間かどうかすら、もはやどうでも良いのかもしれない。

 家族揃って、幸せであれば。

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