第34話 混血児の能力
文月達が北海道で、この船に乗ってから。1時間ほど経った。
とはいえ。
東京からロンドンまで、旅客機ではざっくり12時間ほど掛かる。
「ろ……6時間で着くの? ていうか大西洋なの?」
「まあ、もっと急げば早いですけれど。その分消耗するのでごめんなさい」
驚く美裟に、頭を下げる色葉。
「消耗……。やっぱり『血』か」
「はい」
文月は色葉を見てから、『K』へ振り向いた。
「……『K』さん。貴方はもしかして、悪魔ですか?」
「!」
美裟も『K』を見た。確かに、その青白い肌は普通の人間とは思えない。歯だってギザギザだ。
「半分だ。『半魔半人』。悪魔の親父と、人間の母親から生まれた」
「……じゃあ」
そして、次に隣に座る、アルテを見た。
「やっぱり、アルテ達も……?」
「…………」
悪魔の性質を持つ人であれば。契約無しに魔術を扱えておかしくない。そして契約をすることで、人を魔女にすることもできる。
『K』と楽王子色葉は、悪魔の契約関係なのではないか。文月はそう予想したのだ。
「……お前らは……。まあ、そうだな。俺の時とは事情が違うが、俺の『後輩』ってことになる」
「!」
やはり。
アルティミシアとセレスティーネは。
悪魔と人との子なのだ。あの時の屋上の男の言葉より。
悪魔のような容姿の『K』に言われて、実感として強く胸を打った。
「………………!」
アルテは固まった。予想はしていた。覚悟もできていた。寧ろもう殆ど分かっていたことだ。
だが改まって。
面と向かって。
お前は悪魔の子供だと告げられて。
ショックを受けない筈はない。
「ねえねえ、アルテったら。……あれ?」
遊ばれ疲れたざくろに飽きて、テーブルへ戻ってきたセレネ。
「セレネ…………」
「ん?」
アルテは彼女を見て、僅かに瞳を滲ませた。
「……魔女崇拝の密教があった」
「!」
『K』が続ける。
「そいつらは数十年毎に『真の魔女』を産み出す儀式を行ってきた。産業革命後、何故か悪魔が召喚できなくなったからだ」
「産業革命……。イギリスでは1760年代」
「!」
美裟が呟く。彼女はひと言で言えば『勉強が出来』、文月へ知識情報の補佐をしているのだ。
「一般の魔女信者にはできなくなったが、教団の上層部は悪魔と交信ができていた。だがいずれそれも消え行くと知った奴等は、どうにか『悪魔の血』を絶えず残そうとした」
「…………『血』」
物騒だ、と文月は思う。アルテとセレネもそうだ。先程の色葉も。
血など軽々しく、失って良いものではない筈なのに。
「そこで、『処女で未婚』の女を拐ってきて、『混血児』を造り出すことを計画した訳だ」
「!」
「それから数代目。186X年に、俺が生まれた。その新しい教団の、100年祭だった」
さらりと言った。『K』は特に気にしていないかのように。
「……ちょっと待って」
「なんだ?」
美裟が、はやり疑問を投げ掛けた。
「この子達の前に、愛月さんは文月を産んでる。処女じゃないわ」
「ああ。だから俺とは事情が違うっつったろ」
「どういうこと?」
「その教団は俺が潰したからもう無い。皆殺しにしたから復活も無い」
「!」
「だから……『混血児』は、俺で最後になる筈だったんだ」
物騒だ、と再度思う。日本に居ては決して耳にしない単語ばかり。これから向かう所もそうだ。
何がそこまで、暴力に発展するのか。
「まあ……お前らの話は愛月に訊けよ。俺の話は以上だ。お前ら兄妹と俺は……割りと似てる。これから沢山、考えて悩んで、生きていくんだろう」
「……あれ? それって」
「?」
これまでの話を聞いて。横からだが……セレネが首を傾げた。
「ねえ『K』って、150歳以上ってこと?」
「そうなるな。俺は教団壊滅後に日本へ渡ったから、この国のことは明治から知ってるぜ」
「えっ!」
150歳には、間違いなく見えない。どう見ても、20代半ばだ。下手をしたら18と言っても通用するかもしれない。
「……縷架とはその時に会った。だが文月、お前が気に掛けるのは何故だ? 美裟の先祖じゃねえかと、俺は言ったんだが」
「…………色葉さん。ちょっと」
「はい?」
『K』の質問に、文月は色葉を呼んだ。そして、彼女の肩にぽんと触れる。
「?」
「……どうですか?」
「どう……って。…………えっ。あっ!」
ぽかんとしていた色葉だが。
すぐに気付く。
「どうした色葉?」
「ケイ君! これ、私…………っ」
「!」
契約者である彼も、気付く。
「血が…………!」
色葉の、ブラックアークの操縦で失われた血が戻っていることに。
「…………!」
「(この人でも、知らなかった?)」
「……縷架の……能力じゃねえか……!」
今度は『K』がひどく驚いた。
「……やっぱり、同じ能力だったんですか」
「ちょっと待て。……マジか」
どさりと、深く座り直す『K』。そしてしばらく、考えるポーズを取った。
——
「ねえ、その『縷架』って誰なのよ。あたしだけ知らないの?」
美裟が文月へ問う。萩原と言われては気になるのが当たり前だ。子孫だ先祖だ、とも言われれば尚更。
「ああ。明治時代に、俺と似たような力を持った人が居たらしいんだ。美裟のお母さんから聞いたんだけど」
「なにそれ! あたし知らなかったんだけど」
「まあまあ……。手掛かりが無かったんだけど、ここへ来て当時を知る『人』に会えた。これで俺の力が少し分かるかもしれない」
「…………個人的興味ってそういうことね」
「うん。すまん」
「なんで謝るのよ」
「……いや」
——
「……ねーケイ」
「!」
「………………」
「……可能性として、無くはねえか」
思考を巡らす『K』へ、ざくろが近寄って何か耳打ちした。それで『K』は立ち直り、姿勢を正す。
「すまねえ。少し驚いた。まさかあの女と同じ能力持ちが、150年越しで現れるとは全く思ってなかった。ありゃ奴だけの奇跡。固有の特別能力だと思ってたからな」
「……そんなに、不思議なんですか」
「ああ。それほど『あり得ねえ』能力なんだ。……お前の力がどうかは知らねえが、奴は自分の能力を『記憶復元』と説明してた」
「記憶復元?」
「『自分の記憶通りに元に戻す』能力だ。だから本質は治癒じゃねえらしい」
「…………は?」
「デタラメだろ? だから地球の歴史上でただひとり、後にも先にも奴だけの能力だと思った。いきなり法則無視のファンタジー能力だからな」
魔術と悪魔の実在の時点で既にファンタジーに両足突っ込んでいるけど、と美裟は思った。
だが確かに、反則の能力だ。それが本当ならば。
「なら、文月の能力とは違うわね」
「! 何故そう言える?」
「『私の呪いが消えた時の素顔』なんて、文月の記憶には無かったからよ」
「!」
美裟は、萩原家に代々『呪い』と言われる病気に罹っていた。素顔が分からないほど顔が腫れ物ができていたのだ。それを治したのが文月である。
「確かにそうだ。俺のはそんなに便利なものじゃない。色葉さん、どうですか?」
「!」
色葉は言われて、自身を確かめる。
「……さっきの上昇でぶつけてできたたんこぶはそのままです」
「なるほど……」
自分の操縦でぶつけたのか……と思いつつ、今度は確認を取り、頭に触れる。そしてたんこぶも治る。
「『完全な状態』の色葉さんを俺は知りません。俺にできるのは怪我と病気の治療です」
「……縷架も最初は治療だった。能力は成長する」
「!」
『K』は、あるひとつの確信を得ていた。150年越しの疑問が晴れたような表情で。
「あいつは突然変異の人間じゃあ、無かった。文月。お前と縷架の『父親』は同じ奴らしい」
「!!」
またひとつ、事実が明らかになる。




