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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第1章:不思議な妹
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第17話 『話』

「…………さて」

「!」


 美裟の声に、びくりと震えるふたり。文月とセレネは。


 ものの数分で、『雪まみれ』になって公園に倒れていた。


「まずは、お疲れ様。セレネちゃんは果敢に攻めたし、文月も意外と動いて、頑張ったわね」

「…………おう」


 差し出された手を握り、立ち上がる。文月は横に転がるセレネを抱き起こして、そのまま担ぐように持ち上げた。


「わっ!」

「よいしょっと。セレネはよくやったな。惜しかった」

「抱っ……!!」

「ん?」


 瞬間、セレネの頬が紅潮する。


「…………!」


 叫びたい、暴れたい衝動がセレネを襲う。だが微笑む文月を見て、なんとか堪えた。


「……フミ兄……」

「負けちゃったなあ」

「…………良いよ。もう」

「お?」


 大好きな『フミ兄』に抱っこしてもらてるなら。

 負けてよかったと、セレネは考えた。


「なっ…………!!」

「? どうしたのアルテちゃん」


 その様子を見て、悠々と壁から出てきたアルテは。


 驚愕する。


「ずる……! あっ。いやいや。……えーっと」


 何故。

 負けたくせに。

 『お兄さま』に抱っこしてもらっているのか!?

 と。


 一瞬の憤慨が彼女を襲ったが、なんとか平静を装う。


「こほん。さあ、約束は約束ですよ。アルテ達の勝ちです」

「む。……アルテは何にもしなかったじゃん」

「何を言ってるの。アルテはずっと美裟さんの為に雪玉を作っていたんだから。それだって立派な戦いよ」

「なんかずるい~っ」

「ずるいのはセレネだよ」

「なんでー?」

「あっ。いや……」


 ようやく降ろして貰ったセレネと、アルテが互いに頬を膨らませて言い合いをする。


「……お腹空いたね」

「ね。帰ってご飯にしよ」


 だが可愛いものである。ふたりはよく言い合いをするが、罵り合いにはならない。


 子供の口喧嘩にしては『お利口すぎる』のだ。


「……文月あんた、泥んこじゃない。良い歳して」

「お前のせいだろ」

「あんたが弱いせいよ」

「ま、なんにせよ家に戻ろう。風邪引くといかん」

「そうね。特にセレネちゃん」

「俺は?」

「あんた風邪引かないじゃないの」

「……もしかして俺って、一生そういう心配されないのか……?」

「…………馬鹿」


——


「汗と雪と泥と……。くそ。疲れて汚れてるのは俺達だけらしい」

「ごめんねフミ兄。せっかく買ってもらった服ぐしょぐしょにしちゃった」

「気にすんな。クリーニング出せば良いから」

「ねーフミ兄」

「ん?」


 彼らの部屋へ戻ってきて。もう時刻は昼過ぎだ。

 セレネはぐしょぐしょになった服を脱ぎながら、文月の裾をぐいと摘まんだ。


「一緒に入ろ?」

「いや狭いだろ。良いぞ俺は後で」

「だめ。風邪引いちゃうよ」

「…………」


 さっきの今で。

 文月は嬉しくなった。


「分かった。ちゃっちゃと入っちまおう。腹へったし」

「うんっ!」


——


 そして。


「あ————!」

「わっ」


 大声を出して。

 美裟が驚く。

 声の出所はアルテだ。


「あ——! あ——! あ————!」

「どうしたのよ。アルテちゃん?」

「ず……っ!」


 あはははっ。

 きゃっきゃっ。

 おいおいはしゃぐなって。


「ず——る——い——っ!」


 風呂場から声がする。楽しそうな、セレネの声が。やれやれと洗ってあげてるだろう文月の声が。


「なんでよ——! 勝ったのはアルテなのに——っ!」

「…………ぁぁ」


 あからさまに地団駄を踏むアルテ。それを見て、なんとなく察した美裟。


「いつもは一緒に入ってないんだ」

「恥ずかしくて言える訳ないじゃないですか——も——。セレネのそーゆーところずるい——です——っ」

「…………ふふっ」


 いつもは大人しく聡明なアルテが。ここまで『子供らしく』感情を露にしている。


「なんですか? 美裟さんっ」

「あはは。ごめんごめん。可愛いなあと思って」

「むぅ。馬鹿にしてませんか?」

「してないわよ。歳相応よ」

「むむぅぅ!」


 アルテには理由が無いのだ。兄を誘う理由が。汗ひとつかいておらず、ひとつも汚れていない。


「あたしが一緒に入ってあげるわよ。じゃあ」

「美……っ!」


 美裟さんと入っても意味が無いじゃないですか。

 そう言い掛けて、美裟の方へ振り向いて。


 その胸が嫌でも視界に入る。

 未成年の高校生にしては実り過ぎている、それを。アルテから見ても素晴らしい大きさのそれを。


「…………じゃあ、今度……」

「ええ」


 アルテの勢いはみるみる失われていった。


——


「で、だ」

「はい」


 その後。

 昼食を済ませて。


「今日のそもそもの目的は『話』だったろ。随分引き延ばしちゃってるけどさ」


 文月が切り出す。


「そうね。そろそろ真面目な話もしましょう。クリスマスもお正月も、このところ遊んでばかりだから」


 美裟も同調する。そもそもは、この双子が『匿われに来た』ことだ。『なにやら危険』であることは間違いない。

 文月はあの手紙を取り出した。母・川上愛月の執事である、アレックスからの手紙だ。


「なるべく目立つな。そう書いてある。……『敵』の心当たりは本当に無いのか?」


 流石に日本までは来ないだろう。そう考えたからこそ、ここへ寄越したのだ。つまりこちらからも、知る術が無い。


「予想としてはさ。母さんの『組織』ってのが、何らかの『魔術を使う武力集団』で、普通に『同じような敵対組織』が居て。その戦争が激しくなりそうだから、お前達を避難させたって感じだよな」

「まあそうね。魔術=武力というのは、安直だけど当然とも言えるわ。現代社会で認知されていないのなら、金属探知機を始めとした各種検査にも引っ掛からない。ただの道具だものね」


 今、現時点でできることは、予想しかない。分かっている事実と、双子の話を聞いて考察し、備えることだ。

 来る、3月に向けて。


「国籍……つまり『現代社会』を必要としないほどの組織となれば。『武力が強大』くらいしか思い付かない。防衛も何もかも、『国』が代わりにやっててくれてることを放棄しても、自分達だけで生活できるってことだからな」

「私も色々調べてみたけど、そんな風な組織は出てこなかった。……まあ、図書館とネット程度だけど。『世を忍んでる』と言えるわよね」


 文月と美裟が、それぞれ考察する。アルテとセレネは、じっとそれを聞いている。


「……なんで母さんは、アルテとセレネに魔術を学ばせてたんだろう」

「あんたのお母さん、魔女なんじゃないの」

「そんな馬鹿な。……って違うと言い切れないけどさ。でもじゃあ、俺に何も無かったのは何でだ?」

「そりゃ魔『女』だもの。あんたには無理じゃない」

「……そうなのかな」


 男性でも魔女であるが、それを指摘できる者はこの場に居ない。


「フミ兄。フミ兄」

「ん?」


 セレネが、会話に割って入る。


「手紙にある『本拠地』の場所、なんとなく分かるよ」

「へっ?」


 彼女らは、ロンドンから日本までやってきた。だが乗ってきた空港がヒースローであっただけで、『本拠地』がイギリスという訳ではない。近くではあるかもしれないが、移動時に双子は眠っていた、否。

 寝かされていたのだと推測できる。


「季節とか、星とかで。少なくとも北半球だよ」

「……なるほど」

「確かに。そう考えれば……この時期は日本ほど寒くはなかったですね」


 アルテも頷く。


「案外、本当にイギリスなのかも知れません」

「ふむ。でもその『本拠地』からは出なかったんだよな」

「はい。島なのか、大陸なのか。街はあるのか、全く別のどこかなのか。今の所はそれ以上分からないです」

「街があれば、車とか文字とかで色々分かるのにね」

「うん。まあその辺も含めて、『組織』は3月で良いだろ。本題の『魔術』だけど——」


 文月が話題を戻した所で。


「!」


 ピンポーン、と。

 インターホンが鳴った。

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