第15話 ジャパニーズショーガツ
「おみくじ! おみくじ! ねえねっ、フミ兄! フーミーにっ!」
「はいはい。俺だって楽しみなんだから。引っ張るなって」
ジャパニーズ『ショーガツ』と言えば。ハツモーデにオミクジ。オセツ。カドマツ。そしてカガミ・ライスケーキ。アルテがご機嫌に指折りで挙げていた。
やりたいこと、食べたいものは沢山ある。アルテもセレネも、目に映る何もかもに興味を引かれている。
「よう」
「あら」
授与所へ行くと、美裟が売り子をやっていた。彼女も着物を着ている。髪もアップにしており、そのうなじを見て文月は、やはり喋らなければ完璧だと改めて思う。
「あー! ミサ姉!」
「セレネちゃん。あんた達も明けましておめでとう。なに、御神籤?」
「ああ。3人分」
「5万円ね」
「なんでだよ! 3で割れねーし!」
「あんたが4万9千8百円よ。普通はひとり100円」
「ふざけんな」
改めて、思う。
「ミサ姉『ミコ・ドレス』は?」
「巫女装束のこと? そんなの普段も着ないわよ。正式に巫女じゃないし。しかもコスプレ感強すぎて、去年なんて酷かったんだから」
「なんでー?」
「ああ。イベントかよってくらい写真撮られたもんな」
「もう着ないわ。ウチの神事以外ね。アルバイトには着て貰うけど」
「美裟さん美人ですもんね」
「ありがとうアルテちゃん。貴女達もよく似合ってるわよ。文月には勿体無いくらい」
「うるさいな。早くくれよ」
「なら早くお金払いなさい馬鹿」
——
おみくじを購入した3人は、境内の隅の方に集まってそれを開封する。
「これは『なにキチ』なの? どこ見るの?」
セレネは首をひん曲げながら色んな角度で見る。
「貸してみろ。……どれどれ」
「お兄さま。アルテは『凶』です」
「なに」
アルテがひらひらと、何故か嬉しそうにおみくじを掲げた。
「ええ~。良いなあアルテ」
「なに」
「ほらほら、セレネは?」
「えっ。『凶』なのに良いのか?」
驚きながら文月が確認した、セレネの運勢も『大凶』と書かれていた。
「わっ! やったあ! ふふん! わたしの勝ちだよ」
「えー。良いなあ~」
「良いのか? なんでだ?」
疑問符が浮かぶ文月。
「フミ兄は? ねーねー」
「え? えっと……。お。『大吉』だ」
「「あぁ~……」」
そして彼の結果を聞いて、口を揃えて落胆の声を出すふたり。
「えー? なんでだよ」
「ふふっ。『魔女』は、『不吉』が好きなんですよ」
「本当に良いのか? 美裟に言って引き直しても」
「だめだめっ! せっかくの『大凶』なんだからっ!」
「ええー……」
「こちらの神様が、恐らく美裟さんを通じてアルテ達を知っててくださったんですね。『日本へようこそ』ってサービスしてくださったんですよ」
「そうなのかなあ……」
——
「お腹空いたな」
「そうですね。どこか行きますか?」
「うーん……」
まだお昼前だが、はしゃぎすぎてしまったのか空腹を告げるふたり。
「スーパーでおせち買うか」
「そもそも昨日の内に用意しとかないとフミ兄」
「だよなあ。しくった」
そこへ。
「ちょっとあんた達」
「へっ」
女性の声がした。
「あれっ。美裟、の、お母さん」
「!」
始めは美裟だと思い振り向いたアルテとセレネ。
しかし、今彼女は社務所で仕事中だ。
やがてその女性の顔と、声の違いにはっとする。
「お昼まだなら寄ってきな文月。そっちの子達の『話』を聞かせな」
「!」
ずけずけと、まるで実の母のような親近感で文月に接する女性。歳は40~50くらいだろうか。笑い皺が目立つ気の良さそうな、細身の女性だった。
「……でも悪いですよ」
「あんたが『悪い』なんてこと、あたしら家族には一生ないんだよ! 早く来な!」
「えっ……ちょ」
ぐいぐいと押され。背中を叩かれて。
「ほらあんたらも。今ウチは暇なんだから」
「えっ。えっ?」
アルテもセレネも引っ張られていった。
——
「お」
「おせちっ!」
境内をひと回りして。萩原家の自宅にやってきた彼らが見たのは、『まさに正月』と言わんばかりの光景。
玄関には門松。
神棚に鏡餅。
極めつけに、色とりどりの重箱達。
「キンピラ! カマボコ! ダテマキ!」
「ヤキブタ! クロマメ! カズノコ!」
「タイ!」
「ブリ!」
「「クリキントン!!」」
両目を輝かせて、リズミカルに指を差すふたり。
「毎年作りすぎるんだよ。好きにお食べ」
「良いんですか……!?」
それを見て笑う女性と、驚く文月。
「文月!」
「はいっ!」
不意に大声で呼ばれ、びくりと跳ねた。
「なに辛気くさい顔してんだい。イイ男が台無しだ。早く席に付きな!」
「……い、イイ男って」
「お世辞だよ! うるさいね!」
美裟を一層『きつく』したような、そんな印象の強い女性。
文月も輪を掛けて、彼女には逆らえない。
「いつも言ってるだろ。食べに来いって」
優しいのだ。
文月が経験したことのない。だが『それ』だと分かる暖かさを感じることができる。
「…………ありがとうございます」
いつもは遠慮する文月だが、今回はふたりの妹が居る。
否。今回からは。
「変に大人ぶるんじゃないよ。みっともない。そういうのは子供のひとりでも産んでからしな」
「いや、僕は産めないんですけど」
「そりゃ大変だね」
「…………」
彼女は笑っていた。
嬉しいのだ。
——
「川上アルティミシアです」
「川上セレスティーネですっ!」
「そうかいそうかい。しかし兄貴とは似てないね」
「ありがとうございます!」
「いや、何のお礼だよアルテ」
「あははっ」
3人でおせちを堪能して。
お行儀よく『ご馳走さまでした』をして。
「奥に習字セットがあるんだ。書き初め、やるかい?」
「やるやるー! カキゾメ!」
「アルテもやりたいです」
「ほらアルテっ! はやく!」
まだしばらく、双子はここを離れる気はないらしい。勝手知ったる我が家とばかりに駆け回る。
ふたりも嬉しいのだ。
「……文月」
「はい?」
奥の部屋へと向かった双子を見送って、女性の声色が低くなった。
「色々調べてみてね。『居た』よ。……あんたみたいな『ヤツ』」
「!」
文月の目的は、家族全員集合である。その為に、自身の父親を見付けることは必須だ。彼は双子に会うまでずっと、父親を捜してきた。
もうひとつ。
彼の『能力』についても、彼は彼自身知りたがった。その為に病院での『アルバイト』もしていた。
そしてそのことは、美裟を通じて、彼女の母親であるこの女性にも届いている。
「……聞くかい?」
「お願いします」
「あんまり、期待しちゃいけないよ」
「大丈夫です」
一応の確認を取って。女性はひと呼吸置いた。
「……あんたも知っての通り、ウチも大概、『呪い』だなんだと騒いでた一族だからね。そこから調べたのさ」
「…………」
「『萩原の女は30まで生きられない』とするなら、違和感がある記憶があたしにあってね」
「……」
集中する。その話は美裟から聞いている。数年前に文月が『治した』現象だ。
「『治癒術師』。そう呼ばれる者が居るらしい」
「……治癒、術師」
「医師じゃあない。呼び方を変えてるってことは、まともな治療じゃないんだろうけどね。あたしの父方の方の親戚の誰かがそんな噂を聞いたことあるんだと」
「……はい」
「『萩原縷架』……そんな名前らしい」
「えっ!」




