第13話 美裟の独白
神様って居るの?
本当に。
もううんざりするくらい訊かれる。ちょっとふざけて。冗談めかして。『居る訳無いのに信じちゃってるの?』という顔をして。
その存在が何かを知らないと、居るかどうかの判断はできないというのに。
道端に猫が居たとして、『猫』を知らなければそれが何か分からない。
『神』をきちんと定義しなければ、その存在不存在の判断などできる訳が無い。
だから答えは、『人による』だ。
同級生はこれで納得してはくれない。私の答えの意味が、分かっていないから。
じゃあ、例えば。
『神』であれば良いというのなら。
神は実在するし、既に証明されている。
太陽には黒点がある。今さらそれを否定する者は居ないだろう。
なら、神は実在しているじゃないか。黒点が神なのだから。ヤタガラスという神だ。
黒点=神。
黒点は存在する。
よって神は存在する。
神の実在なんて、簡単に証明できる。
これでも、納得しない人が居る。なんて頑迷なんだろうと私は思う。
「神様って居るの?」の時の『神様』は、何故か大体の場合、『キリスト教の神』を指していることが多いのだ。
つまり全知全能で、この世を創造した絶対神が存在するか、ということだ。
答えなんて分かりきっているのに、馬鹿にしたように私に訊いてくる。奴等は神について知りたいんじゃなくて、私を馬鹿にしたいんだ。
『今現在確認されてない』んだから、
『分からない』に決まっているじゃない。
どうして、『キリスト教の神』の存在を、神社の子である私が知っていると思うのか。全く理解できない。日本人は色んなことをごちゃまぜにしすぎる。そのせいで全部あやふやになって、よく分からなくなってしまう。
『神』は。
居ると思えば居るし、居ないと思えば居ない。普段居ないと思っていても何かの拍子に祈り、感謝することもあるかもしれない。居ると思っていても、時には信じたくなくなることもあるかもしれない。
人それぞれの解釈で良い。そもそもが、物理的に祈りを聞き入れるような生物みたいなものではなくて。人間の精神性の現れのようなものなのだから。勝手にすれば良い。
『神』を、『全知全能の絶対者』と勝手に決めつけて『矛盾するから居る筈無い』と結論付けて他者を見下しているような奴は、論のレベルが低くナンセンスだとしか言い様が無い。
宗教者というのは。
信仰によって精神を豊かにし、人生を豊かにする方法を知っている聡明な人のことだ。
無宗教者というのは。
困難や問題に対し、自らの手で活路を切り開いてきたことによる自負を持つ、逞しい人のことだ。
どちらが正しい、正しくない。良い悪い。合っている間違っている、の話では全く無い。そこに上下関係も何も無い。
宗教や神を馬鹿にする奴は。人類の歴史や先祖を丸ごと馬鹿にすることだから。周りから恥ずかしい奴だと思われているからやめた方が良い。社会的にデメリットしか無いから。
——
それはそうとして。
私個人の問題として。
『神』とは、私にとって何なのだろうと、考える。
「赤肌病」
医学での正式名称は長くて覚えていないけれど。
私の家ではずっとそう呼んでいた。赤肌病、鬼肌病……。
それは呪いと言われていた。先祖代々が罹かってきた、避けられない呪い。
女性しか発症しなくて。
すぐに死んでしまう。
神社の巫女は、皆これに殺されたらしい。30歳までは生きられず、酷い時は10代で命を落とすこともあったとか。
よくよく、聞いてみれば。これは『巫女が発症する可哀想な呪い』じゃなくて。
『村の人間が発症しないように身代わりになる為の巫女』なんだそう。
巫女が呪われているのではなく、村が呪われていて。身代わりの生け贄のことを巫女と呼んだんだ。
それは何百年も続いて。
この21世紀に。私に。順番が回ってきた。
身体のいたる所が赤く腫れて、とても痛いらしい。
母はたまたま、症状が軽く。30を越えても生きていた。
私が、13歳の時。中学に上がってから知り合った男の子が居る。
名前は『川上文月』。
彼の居た小学校では有名だったらしい。
怪我でも病気でも、触れさえすればたちどころに治してしまうと。
——
後はもう、想像の通りだ。一族数百年の呪いはいともあっさり解かれた。
何の気なしに。そっと触れただけで。私も母も治してしまった。
母は、こんなに綺麗な顔をしていたのか。
私は、本当はこんな顔をしていたのか。
呪いは。本当は呪いではなくて。病気だった。なんらかの菌が原因らしい。あるいは儀式の時に使う、古い枡か。なんにせよ科学で証明されて、呪いは消えて無くなった。
よくあることだ。先祖が呪いだと思っていたものが、証明されていく。魔法や奇跡、神だって。どんどん消えて無くなっていく。地震や雷も証明された。白血病や肺炎なんかも治療できるようになっていった。
だけど。
まだ。証明されてないものも沢山ある。いずれは証明されるかもしれないけど、今現在不可解なものは、少なくとも私の近くにひとり、存在する。
「俺のこの力も、呪いみたいなものかもしれない」
薬と毒は同じだ。人体に作用する影響で分けているだけ。
じゃあ、祝福と呪いも同じだ。人の呼び方次第でどうにでもなる。
「当然だけど。どれだけ感謝しても足りないのよ?」
「別にしてくれなくて良いって。苦手なんだ」
「どうして?」
「この力は、俺の力じゃないじゃないか。俺は触っただけだ。何にもしてない。誰かを助けた実感なんて無いんだから、悪いんだよ」
文月は、ずっと悩んでいた。
治ってくれと願った訳でもない。勝手に治るんだ。彼の意思と関係の無い所で、勝手に奇跡が起きていることに。
「うじうじうじうじ。クソ野郎ね」
「えっ」
彼を元気付けたい。
好かれてはいけない。私は嫌われながら、彼の助けになろう。
彼が私を助けていないなら。私が恩を感じることは無いし。本来、私が彼と出会うこともなかった。
だから、彼に『気にして』欲しくない。
「結果的に! 現実を見なさい。あたしと、あたしのお母さんは。あんたと会ったことで救われたのよ! それはいくらあんたでも否定させないわ」
「…………そうだけど」
「良いわよ。あたしが勝手にやるから」
「何を?」
「あたしと一緒じゃない。『呪い』には、一族が関わってた。あんたの両親探して、話を聞いて。きちんと自分の『呪い』と向き合いなさい」
「…………あ」
「家族丸ごと救ったあんたにそんな顔されると、こっちが腹立ってくんのよ! 良いわね!」
「……うん」
私の人生は救われた。部活もできるようになったし、家では笑顔が増えた。
私達の運命を救ったこいつが、救われてないみたいな顔をしているのは許せない。
——
——
神様って居るの?
少なくとも、私の神社には、人を呪いで苦しめるような神は居なかった。
そう証明された。
「文月? どうしたのよ」
『……もしもし。あっ。美裟さんですか?』
「…………あれ、アルテちゃん?」
私達を救ったのは、神じゃなくて、文月の『奇跡』だった。言い方を変えれば、奇跡は『神の御業』と呼べるけれど。
『……それでですね……』
「分かったわ」
『えっ! 大丈夫ですか? ご予定とか』
「問題無いわよ」
神の子が生まれた奇跡を。2000年以上祝い続けているなんて。
クリスマスは『奇跡』だ。
『私』がそう思えば。
それはもう『神』なんだ。
触れただけで傷や病気を治す?
そんなの、『歴史上で世界一の超有名人』が居るじゃない。
この世界の。地球の。人類の歴史の『永遠のベストセラー長編小説』の、主人公じゃない。
こいつは、本当に何者なんだろうか。
『神』。その正体や謎について。こいつと一緒に居ればもしかしたら何か分かるかもしれない。
「……美裟」
「なによ」
「いや。……来てくれてありがとう」
「感謝しなさい。美少女3人に囲まれてクリスマスを過ごせる『奇跡』をね」
「確かにそうだ! よっしゃあ!」
「うざい。黙れ」
私がこの場所に居たいだけの言い訳というのは、内緒で。




