表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
最終章:旅の終着点
113/120

第113話 終着点

『フミツキ!』

「!」


 しばらく、固まっていた。愛月が消えるというショックからは、すぐには立ち直れなかった。

 だが、背後から追い付いてきた声ではっとする。


「父さん!」


 カエルムだけではない。その隣に、シレークスも居た。


「えっ。シレークス!?」

『んだよ文月。俺が居ちゃ悪りーか』

「いや……」

「パパ!!」

『うお』


 父を見付けるなり、セレネが飛び付いた。


『なんだ? ていうか何でセレスティーネがここに居る。……アルティミシアもじゃねえか。お前その脚どうした』

「……罰です。お父さま。なんでもありません」

『……?』


 美裟は。文月も。

 あと、少しだけ彼らが早くここへ到着していれば。

 そう思わずにはいられなかった。


『……ここが御座か』

「ああ。神は倒した。表の戦いは? 父さん」

『ほぼ制圧完了だ。天使どもは急に戦意喪失した。ケイ達は負傷者の手当てを。我々だけが、お前達を追ってきたのだ』

「……そっか。終わったのか」


 戦争は、そろそろ終結する。天界では陽は落ちないらしく、もう時刻も分からないが。


『いや、急いだ方が良いぜ』

「えっ」


 セレネがようやく父から離れたところで、シレークスが言った。


『地上に出てた神々が戻ってくる。今は黄昏時だが、それが終わるとすぐだ。休んでる暇はねえ』

「!」

『普段はこんなもんじゃねえんだよ。聖宮ってのは。俺らはほぼ、空き巣を狙ったようなもんだ。今の内にやるしかねえ』

「…………分かった」


 神々が戻ってくれば。今度こそ終わりだ。あの『神』クラスが、ごろごろと。何百何千と居るのだ。勝てるどころか、戦いにもならない。もう、ルシファーも愛月も居ないのだ。どうあっても詰んでしまう。


「アルテ。セレネ」

「はい。お兄さま」

「……うんっ」


 文月の両隣に。双子が並んだ。見据えるのは、3つの『御座』。


「……本当に俺で良いのかな」

「何言ってんのよ馬鹿文月」

「えっ」


 土壇場で自信の無くなった文月の背を、美裟が叩いた。


「これは誰の旅よ」

「!」

「あんた達『3人』が始めた旅でしょ。あの飛行機で。あんた言ったじゃない。『知りたい』って」


 愛月の計画である。

 カエルムとアレックスが仕込んだ。

 あらゆるモノを利用し、巻き込んだ。


 だが。


「あんたの正体は、堕天使とのハーフだった。この旅で、家族全員に会った。……どう?」

「……そうだな」


 文月は振り向いて。美裟を見た。後ろにカエルムとシレークス。

 そして神奈が居た。


「神奈ちゃん。良いかな」

「良いよ」

「ありがとう」


 彼女に、赦して貰って。

 再度美裟を見る。


「付いてきてくれてありがとうな」

「そうね。大変だったわ」

「後悔してるか?」

「全然。……良いから早く行きなさい」

「……ああ」


——


 御座のある部屋へ、踏み出した。


「お兄さま、抱っこしてください」

「ああ」

「えー。ずるい」

「アルテは脚が動かないんだからずるくないの」

「ずるいー」


 ここが、終着点である。


「お兄さま、大好きです」

「えっ」

「え——!」

「うふふ。もし失敗した時の為に。今言ってみました」

「……アルテ」

「わたしだってフミ兄大好きだもん!」

「セレネ」

「あははっ」


 何の因果か、『3』だ。椅子3つに、きょうだい3人。


「これ、椅子になんか書いてますね」

「えっ。……何語だこれ。俺読めないんだけど」

「セレネ、分かる?」

「えっとね。……何語でも無さそう」

「?」

「でも、何となく分かるよ。そっちから」


 力強い正義。

 無限の理想。

 精神と虚飾。


「……意味不明だな」

「じゃあ、誰がどれに座りますか?」

「うーん……」

「フミ兄が正義! わたしが理想! アルテは虚飾ね」

「えっ」

「虚飾だけなんかマイナスイメージ……」

「あははっ」

「じゃあ俺がそれ座るよ。場所で関係あるか分からんけど」

「いえ大丈夫です。こういうときのセレネの『勘』は鋭いので」

「そうか?」

「えへへー」


 文月はまず、アルテを『虚飾』の椅子に座らせた。


「どうだ?」

「……何も。やっぱり3人座らないと何も起こらないのでは」

「はーい」


 そしてセレネも、元気よく『理想』の椅子に座った。


「よし。……じゃあ俺も」

「どうしたら良いのかな? 何が起こるのかな?」

「取り敢えず、全てお兄さまにお任せします」

「……ああ」


 最後に、文月も座る。冷たい石の椅子だと思っていたが、案外柔らかく、また暖かかった。


「!」


 停電。

 思わずそう感じるほど、急に光が消えた。


——


「『罰』も『代償』も、我らが定めたルールではない」


——


——


——


「——はっ!」


 柔らかい光と、暖かい布団の感触がして。

 文月は目を覚ました。


「…………!?」


 天井は低い。木造の部屋だ。

 畳の部屋。


「ここは……?」


 窓から、朝陽が射し込んでいるのが分かった。勉強机の上の時計を見ると、朝8時だった。


「文月ー。おはよう」

「!」


 がらりと、襖が開けられた。


「母さん……?」


 もう理解した。ここは。

 愛月の実家——つまり、祖父が亡くなるまで住んでいた家だ。

 理解はしたが。


「何よ。わたしの顔に何か付いてる?」


 母が。

 『起こしに来た』のだ。

 【あり得ないことが起きている】と分かるのに、1秒も掛からなかった。


「ちょっ……! 母さん!? 脚は!? ていうか、ここ俺んち!? どうしてっ。取り壊した筈じゃ……っ!」

「きゃっ。……何よもう、いきなり大声出さないで」

「!?」


 自分の脚で。立って。歩いている。愛月が。

 エプロンを着けて。スリッパを履いて。


「……わたしの脚? 脚ってなによ」

「はぁ!? なんだこれ!?」

「も~。朝からうるさいわねえ。取り敢えず顔洗って、朝ごはん食べなさいね」

「…………!?」


 パタパタと、台所に戻っていった。文月は。

 その場にへたり込んだ。


「……母さんの『罰』が無くなってる? いや、それより……生き返ってる? 実家が、戻ってる? なんだこれ…………」


 おかしい。

 そもそも自分は、『天界』に居た筈だ。ついさっきまで。地上は天災が起きている筈だ。黙示録が。ラグナロクが。終末が来ている筈だ。


「……カレンダー!」


 勉強机の上にあるカレンダーを確認する。


「…………7月、7日……!」


 『合って』いた。

 今日だと、文月には理解できた。


「なんだ、これは…………」

「ちょっと文月~! 早くしてちょうだいっ!」


 訳が分からないが。

 台所から聞こえた愛月の声に反応し、部屋を出て居間へ向かった。


——


「起きたかフミツキ。なんだ、昨日は夜更かしでもしたか」

「はぁっ!?」


 今に行くと。

 カエルムが居た。


「父さん!? なんでここに!」

「………………何を言ってるんだお前は。私が自分の家に居ることが不思議か」

「えっ! いや! ……!?」


 ワイシャツを着て。

 翼は無く。

 普通に。


「何を寝惚けているんだ。今日は1限からあるんだろう? 早く支度を済ませろ」

「…………!!」


 状況が飲み込めない。

 だが、明らかに『自分の席』に朝食のトーストと牛乳が用意されており。

 その場の空気的に、そこに座らざるを得ず。


「…………いただきます」


 食べざるを得なかった。


「何か、変な夢でも見たのかしら」

「!」

「だとしても寝惚けすぎだな。誰に似たのか」

「わたしじゃないことは確かね」

「ボケは割りとお前の分野だろう」

「あら失礼しちゃう」

「…………!!」


 愛月と、カエルムが。

 母と父が。

 『会話』をしている。

 そんなシーンを見れると思いもしていなかった文月は。

 このふたりが同じ空間に居るということに。


 原理は。理屈は。何が起きているのかは全く分からないが。


「……あれ? 文月?」

「おいおいどうした……」


 ボロボロと、いつの間にか、涙を流していた。


「う…………っ」

「ちょ。文月? フミくん。どうしたのよ?」

「病気か? 熱は」


 カエルムに言われて、心配して駆け寄った愛月が額をつける。


「大丈夫だと思うけど……」

「……ぅ。……いや、なんでもない……」

「心配よ。さっきもだけど。何かあったの?」

「…………!」

「あるなら言ってちょうだい?」


 『この』母は。本物である。額から伝わる、手のひらから伝わる熱がそう告げている。間違いなく愛月だ。その声も。表情も。仕草も。


「(俺が、おかしくなったのか……)」


 『この』現実味は。臨場感は。感触は。雰囲気は。

 夢では無い。それも、文月の本能がそう告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ