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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第10章:天界戦争
112/120

第112話 じゃあね、世界

「我は『力の神』。地上に伝わらぬ名は——」

「知らねえよ! てめえの名なんざぁぁあ!!」


 聖宮内を、翼の生えた蛇が飛び回る。竜の姿となったルシファーが、縮れ髪の神へと攻撃を仕掛ける。


「……変わらんな。貴様は」

「老害のボケ話にゃ興味ねえなァ!!」


 文月は、瞬間的に巨人の身体を取り戻してなんとか『初見殺し』を食らわせられた。

 愛月は、『奇跡』を使って一時的に神格を得て対抗した。

 あとひとつ。

 この悪魔王は、『実力』で神に匹敵する。


「……インヌメルムも死んだか。まさかこうもバタバタと敗けるとはな。仮にも100億年君臨していた神が」

「よそ見してる暇あんのかてめえ!!」

「…………喧しいな貴様は」


 神は防戦一方であった。とにかく激しく、矢鱈に攻撃を繰り返すルシファー。それはこれまでの怨念と、それを晴らせる歓喜とが混じった歪な感情だった。


「堕ちよ、竜」

「!!」


 神が、ルシファーの頭を叩いた。


「ぐお……っ」


 すると攻撃の勢いは消え、地面に向かって急降下。ルシファーは瓦礫の山に叩き付けられた。


「我は『力の神』。地上に伝わらぬ名はエヴロレヒム。純粋にて真正、完全なる『No.1』だ。例え我が100万年怠け、貴様が100万年鍛えようと差は埋まらぬ」

「…………クソが」


 瓦礫に埋まりながら、怨嗟の視線を投げるルシファー。光を放つエヴロレヒムの姿は正に神々しく、彼からすれば憎々しかった。


「(確かに分は悪い。何かねえか)」

「そうやって『策』を考える時点で、我に力で及ばないと白状しているのだ」

「…………あぁ?」

「諦めて兵を引け」

「………………」


 ルシファーは考える。沸騰している怒りを頭から少し別けて。


「(クソの言うことは無視するとして、確かに熱くなることはねえ。要はこいつを殺せりゃ良いんだ)」


 エヴロレヒムを殺すことだけを考えた場合。ルシファーの取れる『手段』全てを尽くすとするならば。


「……護衛もいねえ、丸腰の神様じゃねえか」


 こんなチャンスは二度と来ない。


「『集合』だっ! てめえら!!」

「!」


 ルシファーは高らかに叫んだ。


——


——


 ドカンと、大きな爆発が起こった。この近くで戦闘しているようだ。


「……大丈夫かな。助太刀とか——」

『要らないわよ。寧ろ邪魔になるわ』

「母さん」


 文月は、まだ戦える。疲労さえ回復してしまえば傷も無い。あと1度なら、巨大化もできる。

 だが愛月がそれを止めた。


『「力の神」だけは規格外だからね。巨人に踏まれてもびくともしないし、わたしの魔術も効かない。最強の力を持ってるくせに、純粋な力で倒すしか無いのよ』

「……ルシファーは大丈夫なのか」

『さあね。でも、やってもらわなくちゃね』


 悪魔王といえど。どれほどの力を持っているのかは、文月には分からない。あの素晴らしい武器を複製する能力は見たが、戦闘能力については分からない。

 愛月の作戦の一部とは言え、不安は残る。


——


「!」


 また、壁が爆発した。この部屋までやってきたのだ。文月と美裟が皆を守るように位置取り、警戒する。


「あ~~……ったく」


 ルシファーの声がした。


「……ぐ。……貴様」

「しぶと過ぎだろ。いい加減『諦めろ』クソ神よォ」


 壁を破って飛んできたのは、縮れ髪のエヴロレヒムだった。彼は地面に臥して、起き上がれない様子だった。

 そして、ルシファーを見上げていた。


「……お? 川上愛月に文月か。丁度良い所に出たな」

「!」


 空いた壁の穴を通って。

 ルシファーに続いて、いくつもの『影』が姿を現した。


「……なんだ……?」


 文月が首を傾げる。


「はは。……トドメだな」

「やめろサタン。取り返しが付かなくなるぞ」

「結構。もう口を開くな。……剣を寄越せ」

「これを。我が王よ」


 影のひとつから、剣を手渡されたルシファー。その剣を振りかぶり、地に臥せるエヴロレヒムへと突き付け。


「ようやく終わりだ。俺の人生が始まる」

「!!」


 憎き神の。喉を引き裂いた。


——


「ルシファー!」

「おー。……遅くなったな」


 よく見るとルシファーは、片眼が潰れており、左腕も無い。満身創痍である。文月が駆け寄り、治療を試みる。


「無駄だ。俺は罪と罰の塊だからな。神が死のうと、『ルール』はまだ適用されてる」

「えっ……」


 周りを見る。恐らく悪魔が、100人以上居た。ルシファーが召喚したのだろうか。


「へっ。……寄って集ってフルボッコだ。ざまあ見ろってんだ」

「この人達は」

「あれがアスモデウス。向こうがベルゼブブ。そっちがアマイモン。……オールスターだよ」

「!」

「それでようやくだ。まあ、勝ったから良いだろ。川上愛月!」

『はーい』


 ルシファーの呼び掛けで、愛月がやってくる。


「『御座』はこっちだ。文月よ。治療よりそっちが先だろ」

「!」

『見付けたのね。アルテ。セレネ。行くわよ』

「はい。お母さま」

「うん」


 ルシファーの案内で、彼らは歩を進める。

 世界を牛耳る『神』を。打ち倒したのだ。

 残るは、『全知全能』のみ。


——


——


 案内された先には、小さな部屋と。

 その中に、椅子があった。


 部屋はやはり何も無く殺風景で、しかし戦闘の被害はここだけ受けておらず、壁も天井も無事であった。

 椅子は自ら光っており、材質は不明。部屋の中心に、3つ。向かい合うように置かれていた。その上に、天井から吊るされるようにして巨大な丸い光の玉があった。


「俺はここまでだ」

「!」


 ルシファーがそう言った。


「神の野郎をぶっ殺す。それが理由で条件で約束だ。もう金星に帰るぜ」

『全知全能は要らないの?』

「……ああ。お前達の作る新世界も面白そうだがな。まあそこまで付き合う義理もねえ。今日は満足したぜ」

『そう。ありがとう。助かったわ』


 ひらりと、手を挙げて。ルシファーは踵を返した。同時に、彼の喚んだ悪魔達も霧のように消えていく。

 別に、彼らは仲間ではない。利害の一致した別組織だ。

 目的が達成されれば、同盟は終わりである。


「じゃあな」

『ええ』


 最後にルシファーも消えた。


——


『あら。わたしも時間だわ』

「!」


 愛月が、それに気付いて。神奈を美裟へと渡した。受け取った美裟も不思議そうにしている。


「母さん?」


 愛月の身体が、薄くなっている。透明なガラスのように、彼女が景色に同化し始めている。


『まあね。わたしはどっちみち死者だから。仕方無いかな』

「母さん!」

「ママっ!! ダメ!」


 セレネが、愛月へ駆け寄った。

 だが。『透り過ぎた』。触れられなかったのだ。


「ママぁ!」

『泣いちゃ駄目よセレネ。わたしは既に死んでるんだから。聖宮が壊れて、神も死んだ。なら残っているはルールのみ。罪を犯した死者の魂は、地獄行きじゃないの』

「やだ! ダメ!」

『うふふ。まあ、最期に挨拶できるだけ、あの神様にも感謝しないとね』


 泣きじゃくるセレネの頭を、撫でるように手を通過させて。

 文月を見た。


『正義感は、儚い。

 綺麗事は、幼い。

 理想論は、弱い。

 わたしの夢は途中で終わってしまったけれど。あなたが継いでくれた。どうなっても、あなたの好きなようにして欲しいの』

「……母さん?」

『全人類全知全能をやっても良いし、それ以外に答えがあるならそれを選んでも良いし。選択権は、あなたにあるのよ』

「!」


 もう、殆ど消えて見えなくなっていた。母の魂は、消滅する。


『アルテは、もっと沢山の経験をなさい。セレネは、あまり文月を困らせないように。……美裟ちゃんは……任せたわ』

「はい」

『孫の顔を見れなかったのが心残りね』

「!」


 最期に。


『……じゃあね、世界。充実した良い人生だったわ』


 いつものようににこりと笑って。

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