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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第10章:天界戦争
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第108話 嘘つき天使と偽計の悪魔

『愛月が死んだだと?』

「ああ。だがこちらに来ていないな。何故だ?」

『おい、説明しやがれ王様よぉ』

「俺は急いでるんだ」


 ルシファーが地獄へ戻った際、愛月の魂を探していた。計画の詳細を聞くためだったが。


『……ルアッハイムのクソ野郎だろうよ』

「その可能性はあるな。だが、川上愛月自身の術の可能性の方が高い」

『…………まあな』


 シレークスの元に、愛月の魂の姿は無かった。


「お前は来ないのか? 近く戦争があるぞ」

『行くに決まってんだろ。だが、契約がある。人間どもがえっちらおっちら船で漕ぎ着けて、オレらは召喚魔術で一瞬だ』

「そうか」


 ルシファーは愛月が居ないと分かると即座に踵を返した。これから武器を作らなければならないのだ。

 その背中を見送ってから、シレークスの側へ寄ってきた魂があった。


『……残念ね。また、3人揃うと思ったのに』

『愛月の心はオレでも読めん。どこまでがあの女の掌の上なのか、死んでからも分からねえ』

『…………ねえシレークス。私の愛しいひと』

『んだよ』


 ソフィアの魂であった。


『私はもう、無理だけど。あの子は助けてあげてね』

『…………』

『あの人とも、仲良くね。……文月ちゃんにも、そう言われたでしょ?』

『…………』


 いずれ会う。それは文月への言葉だけではなく。

 いずれ。

 話はつけなければならない。


『……何が見えてんだ。天才魔女め』

『うふふ』


——


——


『——アルバート!!』


 聖宮前での『セラフィム戦』は、難航していた。そもそも数の上で不利がある。『最上位』であるセラフィムは、それ単体で非常に強力である。何故なら『神』に最も近い存在であるからだ。


「…………がばっ!」


 火傷と刺傷まみれになったアルバートが、初めに倒れた。とどめを刺される寸前で、カエルムが助太刀に入る。


『無事か!』

「……げぼっ!」


 大量の血を吐き出すアルバート。その場から動けないでいる。


「……はぁ、はぁ。……ちっ。やっぱ……『人間』じゃあどうやっても、勝てねえな。畜生……」


 アルバートは生粋の人間である。ただ、死に物狂いで訓練を積んだだけの、『人間の限界』まで強くなっただけの、人間である。

 神の設計した構造的に、『天使』には届かない。


『(……相当、深刻だ。これでは突破ができん。次はもう、ホウラが危ない)』


 最上位ということは。それ以外が全て『それ以下』ということである。天使の基準を持たないカエルムやケイは応戦できているが、肉体が人間であるアレックスもホウラも、もう防戦一方である。


「……! どうすんだ! カエルム!」


 ケイが吼えた。

 神を除けば、セラフィムが『最強』である。それは揺るがない。その力の差は、徐々に如実に現れていく。


『…………くそ』


 だが退くことはできない。退けば、今度は文月達を追うかもしれない。そうでなければ、天使と悪魔との乱戦に参加するだろう。そうなればそっちの戦線も崩れていく。

 このセラフィム達はどうしても、ここで全て仕留めなければならない。


『(ここまで戦力を集めておいて、地力で及ばないのか? アヅキは、如何にしてこれを破る算段をしていたのだ)』


 最早確かめようの無い、愛月の計画を考える。せめて自分には、全てを話して欲しかったと思う。


「崩れてきたな。悪魔達よ」

『!!』


 アルバートが倒れた分、手が空いたセラフィムが出てくる。それはそのまま、彼らの負担となる。


「一気に畳み掛けろ! 勝利を叫び、悪魔の首を主に捧げるのだっ!!」


——


『楽しそうじゃねえか。交ぜろよ』

『!?』


 カエルムの隙を突いたセラフィムの一撃を。

 防いだ何者かが居た。


「だっ! 誰だ貴様!」

『雑魚に用はねえよ』

「!」


 問い質すセラフィムの首を掴み。


『オレァ既に! 地獄で「神格」得てんだクソどもがァ!!』

「ぐひゅ……っ」


 翼も何も、強引に引きちぎった。


『な…………!』

「……!?」


 戦いは、一瞬の内に止まった。その『衝撃映像』を無理矢理見せられて、全ての動きが停止した。


『……今晩は久々に焼き鳥だなァ』

「シレークス様!?」


 即死した『最上位天使』の羽根が、鮮血と共に散らばった。べしゃりと音がして、そこには三日月のように口角を吊り上げて嗤う『悪魔』が居た。

 ホウラがまず声を上げた。


『あァ、ホウラか。てめえもボロボロじゃねえか。休んどけ。オレの「娘達」の結界内は安全だぜ』

「…………!!」


 残るセラフィムは、6体。戦場を改めて確認する。


『………………よォ。「嘘つき天使」』


 そして。

 彼にとって無視できない者を見据えて。そう言った。


『…………貴様も来ていたのか。「偽計の悪魔」』


 シレークスの目の前に。

 カエルムが立っていた。


「(あっ! そういやこいつら、どっちも愛月と子供作ってんだ!)」


 シレークスを召喚した本人であるケイが今更になって気付くも、もう遅い。


——


『けっ! てめえもボロボロじゃねえか。こんな小鳥相手に苦戦してんのかよヒョロガリ雑魚が』

『……ああ。だが貴様を葬る程度の余力は充分にあるぞ不細工男』

『んだとコラ……!?』

「お待ちをっ!!」

『!』


 剣呑な雰囲気が、ふたりの間に流れると同時に。

 アレックスが間に入った。


『アレックス……』

「おふたりとも! 今は! ……言いたいこと、罵りたい言葉、ぶつけたい恨みはありましょう! ですが今は! ……『ご協力』を!」

『あァ? てめえに指図される筋合いはねえよ小間使いがよォ』

「文月様の! 願いでございます」

『!』


 シレークスから漏れ出る殺気が。少しだけ和らいだ。


『…………チッ』


 そして、舌打ちをひとつ。

 身体の向きを、カエルムからセラフィム達へと変えた。


『——らしいぜ。「お父さん」よォ』

『…………良いだろう。貴様がそこまで言うのなら協力してやらんでもない』

『あァ!?』

「カエルム様!」

『…………分かっている』


 カエルムも、剣を握り直す。その切っ先は、セラフィムへと。


『……実際に会って話さねえと。「親」にゃなれんらしい』

『…………同意だ。それだけは』


 アレックスはそのまま、ホウラとアルバートの元へと走る。


「……ご武運を!」

『あァ』

『任せろ』


 残るセラフィムは、6体。カエルムとシレークスと、ケイが並ぶ。


「いや、なんかすまんな。俺が気ィ遣えたら良かった」

『構わねえよ。どうせこれっきりだ』

『そんな訳無いだろう。フミツキの言うことは聞けよ不細工』

『あァ!? やっぱてめえからぶっ殺してやろうか!』

『あいつはもう「カワカミ家」の家長だ』

『!』

『私も不可能だと思っていた。……貴様次第ではあるがな』

『ケッ!』

「(いや、割りと仲良いのか……?)」


 戦況はまた、変わっていく。


——


——


「母さん! 母さーん!」


 聖宮にて。文月は叫びながら走っていた。やはり、どこを見ても気配は無い。ひとつ隣の部屋へ入ればもう、そこには静寂が広がっている。


「くそっ! 見失った……!」


 だが、止まっている暇などない。急がなければならないのだ。もたもたしていては、地上へ出向いている『神々』が戻ってきてしまう。そうなればもう勝ちの目は無い。どうあっても『全知全能』には届かなくなってしまう。


「……! 俺ひとりで『神』3人……!」


 仲間は皆、自分を前へ進ませる為に死力を尽くしてくれた。

 残ったのは自分ひとり。だが敵は、まだ『3人』も居る。それも、『全宇宙最強格』が3人。


「いや、迷うな! 怖じけるな! 俺が、やるんだ……!」


 『数の神』を仕留めれば、戦況は一気に傾く。聖宮へと届く悪魔や兵士が出るかもしれない。

 『魂の神』を仕留めれば、恐らく愛月の魂が解放される。そうすれば、『愛月』という超強力なカードを取り戻せる。


 作戦としては『数の神』を狙うが、彼の心境的には一刻も早く『魂の神』を追いたかった。そして、それを阻む者は居ない。


『——フミ君!』

「!?」


 不意に。

 聞こえる筈の無い声がした。

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