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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第10章:天界戦争
105/120

第105話 7月7日の朝

「太陽の『内側』に入ってしまえば、熱戦も有害物質もありません。……ですが、大勢の敵が待ち構えて居るでしょう」

「ああ。行こう」


 文月に迷いは無かった。天界にも、国があり民があり、それらを守る兵がいる。

 これは戦争なのだ。


——


「つまり……地球や月に伝わっている『伝説』は、真偽がごちゃまぜだってことね」

『そうなるな。神を名乗るものは居るが、この世の全てを創った存在はいない。少なくともこの、「太陽」にはな』

「なら、問題無いわ。泣いて損した」

「えっ」


 美裟はいくつかカエルムと問答をして、何か納得をした様子だった。


「これまでと何も変わらない。『神様』に対する人の心理と行動はね。太陽に居るのが宇宙クラスの『詐欺師』ってだけ」


 どころか、仄かな怒りが見えた。


『……そうだな。しかも、その詐欺師達は「民が騙される程の実力」を持ってしまっている。ルールは奴等の手の中だ』

「カエルムさんは、元上司とかでしょ? 大丈夫なの?」

『…………』


 カエルムは、天界出身である。生まれ故郷を攻めることになる。

 彼は美裟に訊かれ、少し考えて。


『……堕天使(退職した者)悪魔(犯罪者)扱いするカルト宗教団体だぞ』

「……ああ、確かに」

『それに、民を攻撃する訳ではない。全宇宙を牛耳る悪質な独裁体制を武力で潰すだけだ。兵に被害は出るだろうが、皆それを覚悟している。私は、「こちら側」に来れて良かったと思っている』

「…………」

『あの時。アヅキに裾を掴まれて居なければ。私は今も「詐欺師」達にへつらい、お前達の敵として立ち塞がっただろう』

「……父さん」


 部屋の奥に、安置してある棺を見る。愛月の遺体が入ってるのだ。


『感謝せねばな』

「…………」


 千載一遇。愛月の『旅』は、それの連続だった。

 その終着へと。彼女の意思を継ぐ者達が向かっている。


——


 やがて。

 城からの景色は星空ではなく、『白一色』になった。全て太陽光である。


「……ここからは紅炎の危険があります」

『心配ない。娘達の結界は丈夫だ。……最強の悪魔の息子が入れ知恵をしているからな』

「かしこまりました」


 娘達、という表現を使った。文月や美裟にとって、それが嬉しかった。


「着陸はどうしますか」

「こっちの兵力には限りがある。短期決戦しかない。……『聖宮』の真ん前が良いな」

『案内しよう。宮殿の周りには民家も無い。賛成だ。外を見てくる』


——


「大気圏突入しました。……迎撃はありません」

「!」


 そして。

 魔女のひとりが報告する。領域に入ってから、丁度7日。速度を落としたが、それでも予定通りに到着した。


 7月7日の朝である。


『さあ行くぞ。フミツキ。皆に呼び掛けろ』

「分かった」


 放送魔術の施されたマイクを手にする。


「遂に辿り着いた。皆、準備をしておいてくれ」

「違うわよくそ野郎」

「!?」


 美裟が、文月の頬をつねった。


「……え?」

「真面目な良い子ちゃんは要らないのよ。……早く」

「……!!」


 慌てて頬を押さえながら。美裟の。いや、全員の意図を理解した。


 すう、と。息を吸い込む。


「お前ら! 準備は良いかっ!!」


——


「「オオオオオオオオオオオ!!!」」


——


「今日、100億年に渡って詐欺を働いてきたクズどもを! 俺達の手でぶっ壊す!!」


「「オオオオオオオオオオオ!!!」」


「ケイ、頼む!!」


——


 天界上空に佇む『九歌島』。人々が見上げるそこから、ひとつの人影が降りてくる。

 否、堕ちてくる。


「任せろ」


 ケイがまず、飛び出した。作戦のひとつである。眼下には天使達——『天軍九隊』が勢揃いしている。その数は、万や億ではきかない。地上の景色一面、全て綺麗に整列した『天軍』だ。

 九歌島が着陸する場所を、確保しなければならない。


「悪魔が落ちてくるぞ!! 刺せ! 刺せ!」


 その天使達の槍が、一斉にケイの方を向く。

 その中で、ケイは口角を吊り上げて笑った。


「……愛月に『手本』、見せてやれば良かったなあ」


 着地。まるで隕石のように、ケイは地表に激突した。


——


「——『悪魔召喚:百鬼夜行』」


 爆発し。

 着地点を中心に、地面に放射状のヒビが入る。


「!?」


 地面が揺れる。地上の天使達は立っていられなくなり、その翼を使って飛び上がった。

 地面のヒビから、影の塊のような黒い煙が発生する。


「出てこい。『天』に怨みを持つ、悪魔達よ」

「「ウォォォオオオオオ!!」」


 煙は巻き上がりながら形を成していき、それは四肢のある人型になっていく。

 咆哮を上げて、この『祭』に参加できる喜びを表す。


「遂に! この日が来たぜえええ!!」

「クソ天使どもをブチ殺せええ!!」


 山羊の角、蝙蝠の羽、蹄と牙と尻尾。

 次々と、悪魔が湧き出てくる。それは『無限』の天使に、負けてはいない。


「場所空いたぞ! 降りてこい!」

「!」


 ケイの位置を目指し、九歌島が着陸する。その周囲を大量の悪魔が囲み、天使の侵入を防ぐ。


「……凄い。敵のど真ん中なのに、こんなに堂々と」

『ルシファーに代わり、悪魔達を従えているのか』


 カエルムも驚いていた。かの有名な『ソロモン』の悪魔達も見える。それだけではない。数々の宗教、神話の悪魔達も。

 ケイは世界中を巡り、彼らと出会い、契約してきたのだ。

 『この瞬間に天使達をブチ殺せる機会をやる』と条件を付けて。


『よし。フミツキ。皆に指示を出せ』

「分かってる」


 ズズンと、地面が揺れる。見ると既に悪魔達は天使と交戦している。『夜』も全員、いつでも準備はできている。文月はマイクを取った。


「天使は悪魔に任せる! 月軍と夜軍は、『聖宮』までの道を開いてくれ! 途中、『英雄』が出てくる筈だから、ルシファーの武器は必ず持て!」

「「おおおっ!!」」


 まず、『夜』の兵士達が太陽の地に踏み入る。地面の感触も重力も、別段地球と変わりは無い。ただの草原である。何も無ければ、『聖宮』以外は牧歌的な光景であっただろう。

 その、先に。九歌島の直線上に、『島の2倍はある』巨大な宮殿がある。空に反射して水色に煌めく、鏡のような壁と屋根。やはりどこか、古代ローマやギリシャを思わせる外観をしている。

 続いてホウラを先頭に、月軍も雪崩れ込んでいく。


「ねえ! 英雄ってなに!?」


 美裟が訊ねた。それは、文月がカエルムから聞いていたことだ。


「北欧神話の『エインヘリヤル』だ。地上で名を馳せた武人の魂を操って従えてる」

「…………それって」

「ああ。歴史上の英雄達が、敵となって立ち塞がるんだ」

「…………!!」


 美裟は一気に、不安を見せた。思い当たる、悪い予感がしたのだ。


『行くぞフミツキ。お前が聖宮に辿り着かねばならん』

「分かってる!」


 着陸すれば、もう操縦室に留まる必要は無い。魔女達へ最後の治療を行い、カエルムと共に部屋を飛び出す。


「非戦闘員は城の地下へ! 結界の外へは決して出るな! ウゥルペス!」

「はい。文月君」


 美裟も続く。彼は城の玄関を目指しながら、指示を出している。

 呼んだ瞬間に、目の前にウゥルペスが現れた。


「ウゥルペスは城の護衛だ。頼む」

「分かってますよ。お気をつけて。ボス」


 彼は悪魔として『普通』であるが、契約魔女は10人と多い。その魔術力でもって、文月達の帰る場所を死守するのが役目だ。


 城を出て、広場へ。


「フミ兄!」

「お兄さまっ!」

「お兄ちゃん」


 グングニルを防ぐ結界を保持したままの、アルテ、セレネ、ディアナが居る。文月は3人の治療を手早く済ませる。

 だがアルテの両足は、『彼女自身が望んでいない』為にそこだけは治らない。


「ねえフミ兄、わたしは付いていっちゃ駄目?」

「…………」


 いくらウゥルペスの魔女が10人居ると言えど。この3人より強力な結界は張れない。

 妹達を前線に出したくない文月としても、これは適材適所だと判断する。


「エマさんとか。エリスさんとか。……戦えない皆を守るのが、お前達の役割だ」

「…………分かった」

「お兄さま」

「!」


 セレネが頷くと、アルテが口を開いた。


「帰ってきてくださいね」

「……大丈夫だよ」


 不安そうだが、しかし信頼を含んだ眼差し。

 文月はアルテの頭を優しく撫でた。


「お兄ちゃん、死なないでね」

「俺は死なないよ」


 セレネと、物欲しそうにしていたディアナも撫で。

 文月は再度、マイクを握る。


「アレックス!」

「ここに」


 文月の右後ろに、カエルム。

 そして左後ろにアレックスが立った。


「行こう。このメンバーだ」

「……ええ」


 そして隣に美裟。


「まずは聖宮に乗り込む」


 目指すは神の宮殿。

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