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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
第10章:天界戦争
103/120

第103話 最後の宴

 6月の誕生石は、ムーンストーンというらしい。

 文月は詳しくないが、あの母なら思い付きそうだなと思った。


「お誕生日、おめでと————!!」


 今日はアルテとセレネの誕生日だった。しっかりと聞き出していたきさらぎが、周囲に伝えて、パーティを計画した。


「わぁっ! ありがとっ!」

「ありがとうございます」


 巨大なケーキをリーに頼み。ささやかではあるが操縦室で。

 執事や幹部達も呼んで、それは開かれた。


「双子が双子座……」

「黙れウゥルペス」


 後で全員に行き渡るらしいが、とにかくケーキに蝋燭を刺し、火を点ける。


「ほら電気消して。フミ君」

「ああ」

「(ボスに雑用させるのかよ。本人も嬉しそうだが)」


 ケーキには、22本の蝋燭が刺さっている。ふたり分だ。


「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」

「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」

「はっぴばーすでーでぃあ」

「「あるてせれね~♪」」

「はっぴばーすでーとぅーゆ————♪」


 きさらぎが一番ノリノリだった。次にディアナとざくろ、美裟、文月。


「せーの」

「「ふぅぅぅぅぅううっ」」


 息を合わせて、同時に吹き消す。今日でふたりは、11歳になった。


——


「そういやどっちが姉なんだ?」


 アルバートが訊ねた。文月は、そう言えばずっと訊きそびれていたなと思った。幹部であるアルバートすら知らなかったのか。


「一応、アルテということになってますけど」

「そうなのか。まあ確かに『しっかりもののお姉ちゃん』感はあるよな」

「わたしだってしっかりしてるもん! 神奈ちゃんのお世話、一番してるもん!」

「それはセレネが遊びたいだけでは?」

「むう! そうだけど!」

「あはは」


 最後だと。

 全員が分かっていた。


「プレゼントあるよ。大した物じゃないけどさ」

「ほんとっ!?」


 これが終わればもう。

 『天界』の領域に入ると。


「じゃあ、一発芸でも」

「止めとけ」

「あっはっは!」


 皆が笑っていた。

 最後の宴の主役になれて、ふたりは嬉しかった。


「よし、じゃあ歌でも」

「だから止めとけって」


 皆が笑っていた。


——


——


——


 それから1週間後。

 7月に入った直後である。


「……ぅ……っ!」

「?」


 島の操縦をする魔女のひとりが、急に頭を押さえ込んだのだ。


「どうしたっ」


 文月は慌てて駆け寄り、治療に入る。

 魔女は彼に身体を預けるように倒れ込んだ。


「ぐ……ふ。……ちょっと、『罰』が急に……っ」

「!?」


 それを引き金に、他のふたりも呻き始める。

 文月は3人の魔女に触れる。


「……げほっ!」

「おいおい……なんだよ。美裟! ウゥルペスを呼んでくれ」

「分かったわ!」


 美裟に指示を出す。何が起きているのか。まだ天界には到着してはいない。


「…………『罰』が、重くなっています」

「!?」


 魔女のひとりが、息も絶え絶えに呟いた。


「恐らくは天界の領域に入った影響ですね」

「!」


 ドアの方から、ウゥルペスがやってきた。美裟に呼ばれるまでもなく、自分の魔女の異変には気付いていたようだ。続いて美裟も戻ってくる。


「航行速度を落としましょう。このままでは文月君の治癒が間に合わずに死にます」

「そんなこと、あるのかっ……!」

「ええ。君の『奇跡』が追い付かないスピードで『罰』を受ければね。……そんな魔術はそうそうありませんが、この領域では簡単に起こり得るのでしょう」

「…………!!」


——


 ウゥルペスの指示で、魔女達は操縦のスピードを落とした。文月の奇跡で間に合う速度になれば取り敢えずの問題は無い。


「……あとどのくらいの距離なんだ?」

「あと7日。いやあ、僕の計算ぴったりですね。あと7日、これを凌がなければなりません」

「…………仕方ない。多少遅れても、命の方が大事だ。焦らずゆっくり行こう」

「いえ違います」

「?」


 ウゥルペスは知っていた。『この距離まで近付く』と、『どうなるのか』。それは罰の強化だけではない。


「……3人を頼みましたよ文月君。他の7人には、『結界』の強化に割きます。僕はこのまま、不本意ですが『迎撃』を。カエルムさんと王子の補佐ですかね」

「結界? 迎撃? なんのことだ?」

「『攻撃』が、来ますので」

「!?」

「文月君は出たら駄目ですよ。……ボスはそこで構えていてください」

「ちょっ……!!」


 説明もそこそこに、部屋を出ていった。


——


——


『ケイは右舷を。私は左舷を受け持つ』

「ああ。やべえな」


 カエルムとケイの視界には、『それ』がもう映っていた。ものの数秒で『着弾』するであろう『それ』を。


「全てを見通す目を持つ神が投げる、必ず当たる槍の弾幕か」

『序の口だろうな。このレベルは』


 それは流れ星のように見えて。

 流れる星々が、『全て』こちらへ向かって飛んできている。


『来るぞ。1発目だ』

「そっちか。じゃあ頼んだ」

『任された』


——


 ズガンと。


「!」

「うおお!」

「なんだ!? 地震かっ!?」


 九歌島全土が揺れた。まるで船に乗っていたら魚雷に撃たれたような衝撃。乗組員達は思わず引っくり返ってしまう。


『…………1発で「これ」だ』

「大丈夫か?」


 その衝撃は、島の左側から轟いた。巨大な『何か』が高速でぶつかったのだ。


『ああ。だが剣が折れてしまったな』


 カエルムの持っていた剣と盾が吹き飛んでいた。防いだのだ。


「なっ!? なんだあ!? 何が起きてる!?」


 体勢を整えた兵士達がどよめく。カエルムは彼らへ指示を出す為に声を張り上げた。


『ルシファーの武器を持ってこい! 今すぐだ! 既に敵から攻撃を受けている!!』

「!!」

『繰り返すぞ! 攻撃を受けている! オーディンの槍だ!』

「なっ!!」

『この城と同じ大きさの槍が! 超音速で! 大量に飛んでくるぞ!!』


 前方に流れ星が。

 幾百と見えた。


『第二波来るぞっ!!』

「ちっ! ——ウゥルペス! てめえも仕事しろ!!」

「分かってますよっ」


——


 まるで流星群のように、その渦中に飛び込んだように。幾百、幾千の『槍』が襲い掛かる。


『………………っ!!』

「ちっ……。くそがっ!!」


 カエルムとケイ、そしてウゥルペスが島の周囲を目まぐるしく飛び回り、『槍』を弾いていく。だが弾いただけでは止まらない。北欧神話主神オーディンの『グングニル』は、『必中』の奇跡を持っている。外れることは決して無い。


「どうすんだこれ!」

『壊すしか無い!』

「神の鍛冶で造られた槍をかっ!?」

『気張れケイ! それしか無い!』

「くそやろう!!」


 その、音速で迫る巨大なグングニルの嵐を『狙って打ち落とす』などという曲芸ができる者は、この島にはこのふたりしか居ない。空を飛べる者すら、加えてウゥルペスの3人のみだ。


「じり貧だぞ! オーディンの手数は『落ちねえ』!」

『もう少し粘れ!』

「いつまでだよ!!」

「ていうか僕はそろそろ死にます」

『生きろ!』

「無茶な……」


 1発でも直撃すれば、島は崩壊する。結界の維持ができなくなり、宇宙空間に放り出された人間から死んでいく。

 終わりの見えない、無限の超長距離爆撃。正に神の鉄槌。


——


——


「——お待たせしました」


 だが。


「!!」


 神に抗うことなど、『日常茶飯事』である。彼女達にとっては。


「『結界』の強度と耐性を変更しました。もう、大丈夫です」

「お前ら!」


 広場の中心に。アルテとセレネ、そしてディアナが居た。正三角形を描いた頂点にそれぞれ立ち、魔術を展開している。


「…………うおっ」


 透明の壁が、城から放出された。それは島を覆うように、これまでの結界と違って目視で確認できた。


 グングニルはその壁に阻まれ、侵入できない。

 完全に防いでいる。


「……やるなあ、お前ら」


 ケイが感心していた。


「神ではなく、神の『武器』なので。これくらいはできます。それよりケイさんと、カエルム様はお兄さまの所へ。治療が終わればすぐ戻ってきてください」

『承知した』


 カエルム達は既にボロボロだった。神の攻撃を何度も打ち落としたのだ。剣だけではない。その肉体にも甚大な被害がある。


「月軍は島外縁に沿って配置、物見を。『夜』兵士は彼らとカエルム様達の支援を。お願いします。お兄さまの指示です」

「「了解っ!!」」

「あと、非戦闘員はすぐに城の中へ。魔女はウゥルペスさんに従ってください」


 今までの静かな旅が嘘のように。

 途端に、騒がしくなった。全員に緊張感が生まれる。


「このまま、天界まで突っ切ります。懐に入ってしまえば、この攻撃はできなくなるはず」

「うん。行くよディア姉」

「ええ。いつでも良いわよ」


 敵の顔も見えない距離から。唐突に戦争が始まった。

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