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「どうやら地球が最期らしい」  作者: 見上まくら
3/8

【みんな】最終回!【さよなら】

 『1コメ待機』

『待機』

『たいき』

『たいぎ』

『みんな早いなぁw待機』

『待機』

「やほー!みんなやほー!」

『やほー!』

『やほー!』

『めろたんやほー!』

 彼女が柔らかくも明るい声で挨拶をすると、一斉に挨拶が返ってくる。しかし互いに見つめる先にあるのはパソコン又はスマートフォンの画面で顔は分からない。彼女たちは、彼女の声とデジタルな文字の間だけでやり取りをしているが、そこには確かに仲間意識に似たモノがあった。友人では無い(中には友人同士という人たちもいるだろうが)けれど彼らにとっては大切な存在なのだ。

「みんな今何してるのー?」

 めろたん、と文字で呼ばれた彼女は、また柔らかい声で問いかける。すると一斉に返事が返ってくるのだ。彼女はその中から目についたものをいくつかピックアップして話題を広げていく。賛同する者、否定する者、意見は様々だが今日は全員が穏やかな雑談をしているだけで大きな喧嘩になることは無かった。

 本当の名前は分からない。しかし画面上に表示された名前を仲の良い友人に言うように彼女の仲間たちは声を掛け合い会話をする。この人は高校生、この人は大学生、この人は社会人、この人はカフェの店長、この人は親子で見てくれていて、集まる人は職種も性別も様々で、それでも全員が仲の良い友人のような気軽さがあった。


 『そういえば、めろたんは顔出ししないの?』

 ポンッと投げ込まれたその質問に、めろたんはあぁ、やっぱり聞くんだな。と少し呆れた顔をするも、幸いにも相手には声しか聞こえない為、先ほどの調子の声のままで返答した。

「しないよー」

『えー』

『えー』

『顔見てみたいなぁ』

『今日がラストでしょ?じゃあいいじゃん』

『ちょっと、めろたんが嫌がってるよ』

『やめろよお前ら』

『他の人は出してた』

『い○かちゃんとかねww』

『他の人の名前は出さないでください』

「あのね、私は出したくないんだぁ」

『どうして?』

『なんで?』

『なんで?』

『それでいいよ』

「顔出しとか恥ずかしいじゃん、っていうのが一つと、私が顔を見せることで、みんなの中の『めろたん』っていう人物像を崩したくないっていうのもあるの。てか、そっちの方が理由としては大きくて、せっかく仲良くしてくれたみんなと最後の最後で残念なお別れはしたくないんだよね」

『さすがめろたん!』

『それでこそめろたん!』

『プロだなぁ』

『さすがめろたん!』

「えー、あんま言わないでよぉ。照れるじゃんか」

『かわいい!』

『照れるめろたん可愛い』

『惚れた、てか、惚れてる』

『結婚して!』

『結婚して!』

「あはは!結婚しては言い過ぎでしょー」

 笑い声はめろたん一人分しか聞こえないのに、画面の向こうでも見ている人が笑ってくれている気がした。私生活がどうであれ、ここでのめろたんはみんなのアイドルで、中心で、彼女の一声にみんなが注目している。アレが美味しいと言えば同じ物を食べ、コレが好きと言えば同じ物を身に着ける者もいた。欲しい物が手に入らなかったと嘆けば、どこかから探し出してプレゼントしてくれることだってあった。誕生日だってパソコン越しに、SNSに、たくさんの「おめでとう」が書き込まれてみんな祝福してくれる。

 めろたん自身はたくさんの人が見ているから、発言にだって気を付ける事を覚えた。最初こそ多かった喧嘩や炎上だって、今はほとんど無いし煽られる事を気にしないようにすることだって出来るようになった。

 『めろたん、どうしたの?』

『落ちた?』

『寝た?』

『どうしたの?』

『おーい』

『ま、まさかもう滅亡しちゃった!?』

「あ!ごめんね!ちょっと昔を思い出してたらしんみりしちゃった」

『なるほど』

『わかる』

「ねぇねぇ、みんなで昔話しようよ」

『いいよ』

『賛成』

『いいよ』

『いいよ』

『なんか最期っぽいなあ』

『あ、俺もう落ちる。もっと話してたいけど次の予定が・・・』

「そっかぁ残念。でもさ、もしまた時間が空いたら来てよ。もう最期のその時まで放送切らないからさぁ」

『ま?』

『ま?』

『ま?』

『本当?』

『まじ!?』

「ほんとほんと、今日は最期まで一緒にいようよ」

 めろたんは、先ほどから話していた明るい声とはうって変わって落ち着いたトーンで言うと、画面上は喜びの声で溢れかえった。それを見てじんわりと画面が霞んできて文字もぼやけそうになり、まずいなとすぐに判断した彼女は、一度そっとマイクのボリュームをゼロにした。視界をクリアにして鼻をかんで、鼻声じゃないか確認のために発声練習をしてからまたボリュームを上げる。そして今日の始めの放送と同じ明るい声で言うのだ。

「ねぇねぇみんな!最近は、てか今日もなんだけど、オープニングコールやってなかったじゃん?だから今日は初心に帰ってちゃんとやろうかなって思うんだ!だからもう一回、スタートに付き合って?」

『いいよ』

『おけ』

『おけ』

『おけ』

『ほんと久しぶりだねw』

「よーし!それじゃあいくよ!」

 こんな時でも、こんな時だからこそ、明るく楽しく彼女は声を出す。きっとしんみりしてもまた明るく笑いかけて見ている人を楽しませるのだ。感謝も込めよう。一言一言を大切に扱うんだ。願わくば最期のその時まで、自分を支えてくれた沢山の人たちが寂しい思いをしないように。


 「やほーみんな!めろたんのネット生放送!今日も仲良く始めましょーー!!」

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