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「どうやら地球が最期らしい」  作者: 見上まくら
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止まる時計と窓の外

  目覚まし時計は鳴らないようにしていた。今日は何時に目が覚めてもいい、そういう日にしようと決めていたからだ。六畳一間の部屋の片隅にある黒い目覚まし時計はしっかり時間を刻んでいるけれど、果たして今が何時なのか、そして起きてからボーッとベッドの上で座りこんでどのくらいの時間が経ったのか、すっかり弱くなってしまった視力では何も分からなかった。

 のっそりとベッドから起き上がり日の光が差し込む窓辺へ行くも、チラリとカーテンから覗いただけで部屋に強い光が入ってくることはない。それでも少しだけ空気の入れ換えをしたくてほんの十センチ程、窓を開けた。外の喧騒が聞こえてきて、この部屋もようやく世間様と繋がった気持ちになったが、部屋の主は全く興味を示さず窓から一歩離れると、思考を埋め尽くした言葉は『お腹すいた』のみだ。


 コポコポコポとお湯が沸く音が部屋に微かに聞こえてきて、ピリリッとカップラーメンの包装フィルムを外した。それから三分間、また何をするでもなくボーッと待っていると、気がつけば七分も経っていた。少し柔らかくなったそれは、それでもお気に入りの味に変わりはなくて、食べれるからまぁいいや。と箸を進めていく。

 どこからどう見ても特に予定の無い人の一日だなぁ、と他人事のように思いながらスマートフォンに電源を入れた。メッセージが一件のみ、母親からだ。『もう会えないんだから、今日くらい帰ってきたらいいのに』たったそれだけ。折角教えてあげた絵文字で文章を可愛くできる手法は、結局今まで一度も自分に使われた事は無かった。返信しようか迷った挙句、無視していても気になってしまって結局最後には返信してしまう性格は自分が一番理解しているので確認後すぐに返信をした。『ごめん、でも一人が良かったんだ』

 食事を済ませるとやることが無くなってしまって、どうしたものかと困ってしまったが、電源をいれたスマートフォンを再び操作してSNSを巡回する。やはりどこもやりたい放題の無法地帯だなぁと思い、自分も参加しようかと自分の発信画面を開いたが、結局は何も書く気になれずやめた。手に持っていたスマートフォンをベッドの上に放り投げてやりこんでいた恋愛シミュレーションゲームを手に取り起動する。すると画面の中の人物は自分に向かって話かけるので、一気に気分が冷めてしまいプツリと電源を落とした。

 誰かと繋がりたくて始めたSNSも、誰かに愛されたくて始めた恋愛シミュレーションゲームも、結局最期の最期では何も意味をなさなかった。

 あと数時間か、数分か、はたまた数秒かもしれない。もうすぐこの国も町も、あの道路を全く進めない車たちも、聞こえてくる怒鳴り声も泣き声も何もかも無くなってしまうんだ。もちろんこの部屋も、ここにいる自分も。連絡をくれた母親も。



 今日が、地球最期の日。


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