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7 母は強し?



「ねぇ、私疲れたのだけれどぉ…。もう、お部屋に戻ってもいいかしらぁ?」


 三竦みのような状態でピリピリとした空気が張り詰める中、レウライラが気の抜けるような声で入り込んできた。


「……お前、今の状況でよくそんなこと」


「なぁに?このままやってもグダグダになるし、結果も見えているのよぉ?付き合ってられないわ。」


 クラウスがレウライラを睨みつける。だが、レウライラはどこ吹く風でマイペースに答える。


「たとえ結果が見えていようと」


「あぁ、このままじゃ私、死んでしまうわぁ。クラウスに殺されるぅ。」


「……お前」


「あら、黙れって言うの?嫌よぉ。あ、何なら力ずくで黙らせてみるぅ?」


 完全にレウライラのペースだ。あのクラウスが額に青筋を浮かべながら震えている。


「っ……誰か、部屋に連れていってや」


「まぁ、でしたらユウラ。私を連れてってちょうだい?」


「なっ、いい加減にしろレイラ!ユウラとの話はまだ済んでないんだぞ!」


「嫌よぉ。私は今日の寝る前にユウラとお話しするって決めてたのよぉ?」


 これは、ユウラを助けようとしているのか?


「我侭も大概にしろ。それとも、そんな体で力を示すとでも言う気か?」


「やってみるぅ?」


 シリウスが脅すように言うが、目を見れば本気で言っているようにも見える。対してラウレイラは深く椅子に腰掛けながら両腕を広げて挑発する。とても、まともに抵抗できるようには見えないのに。


「………」


「………」


 しんっと静まり返る室内。誰も予測していなかったこの状況に息を呑んで見守る。


「……好きにしろ。」


 折れたのはシリウス。

 ドカッと椅子に座り直すとそっぽを向いてそう言った。


「あらぁ、じゃあお言葉に甘えて。いらっしゃいユウラ。」


「えっ、あ、はい。」


 余りの急展開にユウラも呆気に取られていたもののラウレイラの声に従い、手を取り立たせる。


「いつまでも、こんな事がまかり通ると思わないことだ。」


「母様はユウラに甘すぎます。」


 ユウラに支えられ部屋から出る寸前、シリウスとラウラが呟いた。


「今日は皆、頭を冷やしなさい。いろいろ行き詰っている時は何をやっても上手くいかないの。一度、落ち着いてしっかり考えて。そして、答えが出たらまたお話しましょう。それに、ユウラに甘いのは私だけかしらね。」


 ラウレイラは微笑みながらそう伝え、ユウラと俺と共に部屋を後にした。



「あなたがティスね?」


 それから、俺達はラウレイラの部屋にやってきた。


「私はラウレイラ。気軽にレイラちゃんと呼んで?」


 ……俺はこの人が何を考えてるのか分からない。


「お戯れを…。ティス言っとくけどそんなこと言ったのを誰かに聞かれたら、本当に父様に全身の皮を剥がされて捨てられるからね?」


なにそれ怖い。そして、危うく呼びそうになった俺も怖い。もっと緊張感を持たないと立場上、本当に命がいくつあっても足りないぞ俺。


「わ、わかっておりますよご主人様。」


「あら?報告ではあなた達はもっとフランクな間柄だと聞いたのだけれど?」


「………」


 報告?俺は思わずユウラを見るが、ユウラは首を振って否定する。

 俺は第三者が居るときは奴隷根性を徹底している。フランクなんてどこから来たんだ?


「ねぇ、レイ?」


「はっ。ご主人様の命により窓の外から読唇によりユウラ様とその奴隷を監視させていただいておりました結果、間違いないかと。」


 あんたがスパイだったか。

 と言うか、レイがラウレイラの奴隷だったと言うことはもしかして。


「バルドは父様の奴隷よ。そういえば言ってなかったわね。」


 道理で。無表情コンビは借り物だったのか。

 確かに、ロディア家の他の使用人達はバルドやレイに比べて表情豊かだもんな。


「私は魔法も使えないし、奴隷も居なかったから護衛と世話役としてお借りしてたの。」


 なるほど。クラウスも威圧は半端なかったけどユウラに対する親愛は感じられた。現に自分不便を省みず奴隷を貸し与える位だ。ちゃんと愛されているようでちょっと安心。


「ん?てことは、ユウラにはもう俺が居るんだから、二人は自分の主人のとこに帰るのか?」


 の割には、すでに三日目なのに朝からお世話されてた様な…


「……あんたはまだ私の奴隷として認められてないのよ。」


「おぉ…まさかの事実。」


「ふふっ…本当に仲良しさんね。」


「あっ。」


 しまった。レイラが居たことを忘れていた。

 気を抜くとすぐにこれだ。まずったか?


「いいのよ?私はラウラみたいに気にしないもの。レイだって二人っきりのときは甘えてくるし可愛いのよ?」


「ご、ご主人様!」


 おぉ?初めてレイの表情らしい表情を見たな。ユウラも知らなかったようでポカンと口を開いてその様子を見ている。


「ふふっ。いいじゃないレイ。ねぇ、ユウラ?」


「は、はいっ!」


「我が家は一般よりも酷く奴隷を物の様に扱い、感情を壊して服従させている。そう言った噂が広がっているわよね?」


「……はい。」


 ユウラが言っていたロディア家に対する偏見ってやつか?


「元々、ニンゲンによって奴隷として行われた事の仕返し。そして、扱いやすくするためにに行われていた一般的な処置。それを、我が家はより扱いやすく、力をより発揮させるために、研究を重ね奴隷と言うより兵器として扱ってきたと……それは事実よ。」


「……はい。」


 とは言っているが、現に今のレイを見るに信憑性が欠けるのだが。確かに、ユウラの世話をしているときは非常に人間味…まぁ、感情を感じなかったが、今は先程のカミングアウトによって頬を赤らめレイラを恨めしそうに睨んでいる。と言うと?


「まぁ、過去のロディア家の話になるのだけれどね。」


「過去?」


 なるほど。


「昔は今よりもっと種族間の争いが多かったから。それと同時に裏切りも。獣人は繋がりを大事にする種族なのに、あの頃は親兄弟ですら裏切りが絶えなかったの。」


「それで…。」


 例え親兄弟と敵対しても裏切らないパートナー。


「でも、今はある程度落ち着いてるし、流石に苦楽を共にする相手が無感情だと疲れちゃうと思わない?そんな自分本位な考えからいつしかその制度は秘密裏に破棄された。でも、ロディア家は大きな派閥でしょ?だから、恐れを持ってもらうために表沙汰には出来なかったし、そんな、奴隷が強みになるのは間違いないの。」


「だから、今でもその制度が守られている。」


「表面上はね。結局のところ奴隷の扱いは本人の好きにしていいのよ。それっぽければね。」


 それっぽければ…ね。


「姉様達は…どうなんでしょう?」


「二人っきりの時は案外ゆるい関係よ?バルドはそれでも硬いけどね。強制されてはいないけど羊獣人じゃない?長らくうちの家系を支えてきた種族ですもの、簡単に変わるつもりはないみたいよ。」


 羊獣人だから…。話についていけないな。一度この国の歴史書でもあれば読んでみたいものだ。


「それでは、どうしてティスは認められないのでしょうか?母様は良いとして、兄様は無関心みたいでこっちも良し。ですが、姉様と父様は酷く反対します。それは、ティスがニンゲンだからですか?」


 そうか。反対してるのはクラウスとバイオか。

 そして、ニンゲンと獣人の関係って…


「うぅん…難しいわね。ニンゲンだからって意見も少なからずあるわ。でもね、それ以上にあなたが愛されてるからでもあるのよ?」


「愛…されてる……ですか。」


 複雑そうな表情をするユウラ。

 確かに、面と向かって蔑まず、最低限愛情はある様子のクラウスだが意見を聞かずに押し付ける。そして蔑んでくる上に思い道理にしないと癇癪を起こす姉のバイオ。愛…ね。


「うふふ…」


 ユウラの表情を見て何やら楽しそうに笑うレイラ。

 そして、カミングアウトで気が抜けているのか呆れ顔で二人を見るレイ……あ、睨んできやがった。


「一度、腹を割って話し合う機会が必要みたいね。」


「えっ…あ、いえ。私は…」


 完全に気後れするユウラ。まぁ、何にしても今は他にすべき事がある。今はその場しのぎで時間を稼いだ状態でしかないのだから。そんなことを考える俺の心を読んだかのようにレイラが口を開く。


「その前にユウラにはやることがあるわよ?」


「っ…そう、ですね。」


 ユウラも思い出したようで顔色が一気に悪くなる。

 話し合う前にやるべきこと。それは、クラウスに力を示し自分の意志を通す事。


「ご主人様。そろそろ。」


 まだまだ、話はこれからだ。だと言うのに、レイが割り込んでくる。

 そして、その表情は有無を言わせないと物語っている。


「あらあら、私はまだ平気なんだけれどなぁ。」


 レイラがふんわりとした声を出す。もしかして、これは我侭を通したいときの口調なのだろうか?


「いけません。」


「でも、やっと治療が落ち着いて昨日帰ってこれたばかりなのよ?また、いつ発作が出るかも」


「いけません。顔色も優れませんし。今は、帰ったばかりなのですから療養に努めて、それからまたお話なさってください。」


「……明日は起きれないかもしれないなぁ。」


「いけません。」


「でも」


「いけません。」


「……踏んであげるわよぉ?」


「………」


 あ、尻尾が立った。

 確か猫が喜んでる時のサインだったはず……ここの主従というやつは。


「ユウラ様申し訳ありませんが。」


「えぇ。私もレイに賛成よ。それに、私だって考える時間が欲しいから、また日を改めるわ。」


「むうぅ。」


 レイラがあからさまに不機嫌をアピールする。子供か。


「ごめんなさいお母様。でも、今日は庇っていただきありがとうごっざいました。本当に嬉しかったです。また、お元気な日にお伺いしますので今日はお休み下さい。」


 今までどこに居たかは知らないが、帰って来たというならいつでも、すぐに会えるのだから大人しくするべきなのだろう。


「はぁ、わかったわ。余計なこといっちゃってレイが拗ねちゃってるし今日のところは大人しく休みますわ。」


「…拗ねてなんかいません。」


 本当に仲がいいんだなこの二人。


「では、失礼します。お母様、お休みなさいませ。」


「はぁい、おやすみユウラ。」


 ともあれ、心臓に悪い一日は何とか無事に終えることが出来たようだ。

 ユウラも部屋から出ると同時に、どっと疲れきった顔をしてるし、早く休ませないとな。







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