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6 ラウラ決着と家族会議 



「なんだ、その目は。まさか、睨んでいるのか?」


 ユウラが一瞬硬直する。だが、ラウラを睨みつけるのは止めない。


「はぁ。確かにお前は成人していない。」


 ラウラが呆れたように息を吐く。


「父様と私は戦に。弟は政を。母様は病に臥せって……どうやら甘やかされすぎたらしいな。」


「っ」


 ラウラがユウラを睨みつける。


「これからは私が付きっ切りでお前に構ってやる。しっかり躾けて私無しでは生きられないようにしてやろう。」


 ラウラは歩き出した。一歩一歩時間を掛けて近づいてくる。


「嫌です。ティスは渡さないし、姉様の言いなりにもなりません!」


「それを決めるのは、もはやお前ではない。」


 ダメだな。これはダメだ。なぜかユウラはラウラを庇う発言をした。悪いのは自分だと言った。ユウラの家族は目の前にいるラウラを今日見たばかりで他は見たことも無いし、家庭環境もユウラ自身の事も俺は全く知らない。でも、これだけは言える。俺はユウラの味方だ。そして、ラウラは敵だ。


「何のつもりだ?」


 俺はユウラを背に隠し、ラウラと対峙する。今にも飛び掛ってきそうなシュリは臨戦態勢でラウラの指示を待っている。ラウラも戦に出ていると言っていたし、現に面と向かって立ち合うと今にも腰が引けて逃げ出したくなる程の圧を感じる。


「ちょ、ティス!やめて、あんたが適う相手じゃないの!それに、姉様はニンゲンに手加減なんて」


「ユウラ、ごめん。ちょっと黙ってて。」


 でも、逃げない。背にユウラがいる限り俺が下がることは無い。


「っ……」


 俺がユウラに口答えしたからか、それとも呼び捨てにしたからか、ラウラの殺気が膨れ上がったのを感じる。それは、この部屋にいる者、全員が感じ取ったようで息を呑み緊張に体を強張らせている。


「奴隷の…それも、ニンゲン風情がユウラを呼び捨てしたな?」


 おや、そっちだったか。まぁ、どちらでもいい。とりあえず言いたいことは言わせて貰おう。

 俺は肺一杯に空気を吸い込み、ラウラを指差して言ってやった。


「ユウラはお前の奴隷なんかじゃない!偉そうに蔑んだような発言ばっかしやがって、ユウラに謝りやがれ、このバイオレンス女!!」


「……死ね。」


 ラウラの体が僅かに発光する。

 これが、ユウラに聞いていた獣人魔法の一つか。

 俺が理解できたのはそこまで。

 次の瞬間にはラウラが視界から消え、衝撃を感じた。同時に暗転。

 わかっていた。俺に何の力も無いことは。でも、やっぱり許せなかった。力重視の獣人社会でチートも無い、一般的な魔法すら使えない俺に出来ることがなく、ただ無意味に命を散らすことになるだろうと。だが、家族に…実の妹に向かって出来損ないだの何だの平然と言ってのけるあの女が許せなかった。

 もし仮に異世界の、獣人族にとっては常識的なことだったとしても決して許して良いものじゃない。

 だから、後悔はしていない。

 でも、ユウラを一人にして何の力にも慣れなかったのはちょっと…いや、かなり悔しいな。



「………す……てぃす…ティス!起きなさいティス!」


「…ぅっ…?」


 ユウラが呼んでる。

 徐々に視界が明るくなり、体を揺すられていることに気づいた。


「…いきてる…?」


 完全に意識を取り戻すと、仰向けに転がる俺の上に覆いかぶさるような体勢のユウラが居た。


「このっ…バカぁ!」


「ごふっ?!!」


 俺が気がついた事に気がついたユウラが俺に跨ったまま上体を起こして鳩尾に拳を叩きつける。


「な…にを……っ…ユウラ?」


 泣いていた。肩を震わせ、俺を睨みつけるその瞳からぽたぽたと雫が落ちる。


「いきてる?…ですって?」


 しゃくりを上げながらユウラが言う。


「勝てないとわかってて……死ぬかもと…わかってて……どうしてあんな真似したの?!」


「……ごめん。」


 その剣幕につい謝罪の言葉が出てきた。あの、行動についてだけを言えば反省はなんてしてないのに。


「謝罪が聞きたいんじゃない!」


 ユウラが拳を振り上げる。


「っ…」


 それを見て俺は目を瞑り歯を食いしばる。

 これは罰だ。ユウラを悲しませた罰。


「…?」


 ぽすっ、と想像に反して軽い衝撃を感じて目を開ける。


「二度としないで。あんたは私の奴隷なの。勝手に命を捨てることは絶対に許さない……これは命令だから。」


 俺の胸に額を押し付け小さく、でも力の篭った声で命令された。


「わかった。…命令なら聞かないとな。」


 俺はそっとユウラを抱きしめるように左手で背中を、右手で頭を撫でながらてそう誓った。


「……っ…?」


 気配を感じて顔を向けた。

 そこには、顔を青くして佇むラウラの姿があった。


「…?」


 一瞬、追撃を恐れて緊張したが、どうも様子がおかしい。

 青い顔して見ているのは自分の手?


「っ!」


 ラウラの手には対峙した時には無かった爪が生えていた。

 確か、獣としての力を最大限に発揮するために体の一部を獣化する魔法だったはず。

 よく見るとラウラのその爪にはべっとりと赤い液体が付着していた。

 そして、ユウラの背中に回した左手に感じるヌルリした感触。


「だ、誰か!病院に、救急車!救急車を呼んでくれ!!」


 俺は庇われていたのだ。ユウラだって獣人だ。俺を突き飛ばすくらい造作も無いことだったんだ。

 俺の言葉に凍っていた室内の空気が動き出す。

 シュリが今にも泣きそうな顔をしたラウラに駆け寄り声を掛け、俺の元にはレイにバルド、その他数名の使用人達が駆け寄ってくる。

 ユウラが何か言ってるが、今はどうでもいい。テンパってたのだと後になって反省することになるが、俺はけが人は余り動かさない方がいいと判断し、俺から離れようとするユウラを怪我に触れないよう気をつけながらきつく抱き寄せ、「救急車を呼べ」と騒ぐしか出来なかった。



「処分だ。そもそも俺様は初めから反対してたはずだろう?」


「……私も反対だ。こんなことになってしまったがこれだけは変えるつもりはない。」


「僕はどちらでも。姉さんの起こした問題についてはしっかりと反省してくださいね。常日頃か言ってますが姉さんは落ち着きがないにも程があります。普段から気にしていないからこんなことになるんです。下手したらもっと大事になってたかもしれませんよ。今後、今回の騒動を胸に刻んで、自分の感情を」


「…くどいぞシリウス。私だって流石に反省はしている。だが…いや、なんでもない。」


「私はユウラを信じますよ…こほっ…もう少し、様子を見ては如何かしら?」


「私はティスを手放す気なんてありません!たとえ、お姉様とまた対峙することになっても!」


「なんだと?」


「っ…もう、逃げません。」


「姉さん。」


「わかっている!」


 ユウラの怪我は思った以上に軽症であった。レイさんによる回復魔法ですんなりと完治したほど。その際、俺はユウラにしがみ付き、こっちに無い「救急車」を連呼したせいでユウラに庇われたときに打ち所が悪くおかしくなったのかと心配させてしまった。結局、怪我した本人の拳に沈められ事態は一旦収束したものの、流血沙汰を起こしたせいで家族会議にまで発展し、今に至る。


 しっかりと反対意見を出すユウラの父クラウス。厳つい顔つきとがっしりとした体。頭にある犬耳は左側だけ少し欠けているのが特徴。

 次に反対意見を出したのはバイオレンス女、略してバイオ。いつか泣かしてやると心に決めている。

 次に、中立的なのが、話に聞いていたユウラの兄、シリウス君。年はユウラとバイオの間で、僅かに幼さが残った男の子。父に近い顔立ちだが厳つさは無く、知性を感じさせる。発言からも知性を感じさせる上に、あのバイオに向かってしっかりと意見している様は実に好感が持てる。

 そして最後に、ユウラ母のラウレイラ。彼女は完全にユウラの味方だ。顔立ちはユウラをぐっと魅力的に成長させて、ふわっとさせたらあぁなりそうだ。耳はもちろんキツネ耳だ。だが、話に聞いていた通り、体調が悪いらしく顔色は悪く、今にも倒れそうで心配になる。


「弱者が吼えるな。意見を通したかったら力を見せろ!」


 ユウラに向かってクラウスがきつく言い放つ。

 それを見てバイオが賛同するように頷く。……脳筋共め。


「そしてラウラ!貴様はしばらく戦に出るな!感情もまともに御せん奴に兵を任せることは出来ん。家で素振りでもやっていろ!」


「そんなっ?!」


「なんだ、俺様をねじ伏せてみるか?」


「……従います。」


 と思ったら、敵が仲間割れを起こした。バイオめざまぁみろ。


「そう言う事だ。ユウラ、わかるな?」


 っと、それどころではない。脳筋論理上これは決定だ。まさか、こんな状況で啖呵を切るほど俺もバカじゃない。だが、このままでは……


「嫌です。私は従う気なんてあるません。」


 ここで、真っ向から意見するユウラ。だが、流れからしてこのままで済むはずが無い。


「諦めろ。俺様に弱者を相手する趣味は無い。全ては弱い自分を恨むんだな。」


「…嫌よ。私は何と言われたって従わない!」


「ほぉ。では、家長である俺様をねじ伏せると言うことでいいんだな?」


 クラウスが立ち上がる。

 その目は完全に獣のそれ。獣人って奴は皆そうなのか?


「歯向かうからにはそれなりの覚悟がしてあるよなユウラ。獣人にとって力が全て。親子とて、それだけは曲げられねぇ理だ。従順か力を見せるか…お前に力はあるか?」


 今にも飛び掛りそうな体勢でシリウスが問う。

 撤回するならこれが最後のチャンスだと言わんばかりに。

 シリウスからはユウラに対しての悪感情は感じない。親子としての愛情はちゃんとあるようだ。だが、曲げられないこともあると。きっとこの確認はシリウスにとって温情なのだろう。

 対してユウラは間をおかずハッキリと答える。


「父様の意見が変わるまで私は絶対に倒れません!」


「口の利き方には気をつけなさい!」


「「っ?!」」


 そこの口を挟んできたのはバイオだった。

 その姿は昼間に見た時のように鋭い爪を生やしこちらを睨みつけており、感じる圧は昼間の比ではない。


「父上が構うまでも無いわ。出来損ないの相手は私がする。」


「…ラウラ。お前はユウラの事となるとすぐに感情的になる。だが、黙っていろ。これはもう、俺様とユウラの問題だ。」


 バイオめそんなにユウラを目の敵にして、一体何を考えているんだ?ユウラとの過去に何かあったのだろうか?


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